2023-01-01から1年間の記事一覧

第1374回 始原のコスモロジー

年に一冊を目標に制作している日本の古層シリーズ、昨年までに3冊作ってきて、今年は4冊目だけれど、今回は、2016年10月から始めたこのプロジェクトの集大成。 「始原のコスモロジー」というテーマに凝縮させている。 この一年の間に、ブログなどでも膨大な…

第1373回 「写す行為」と「写る現実」のあいだ。

六本木のフジフィルム に、広川泰士さんの写真展を見に行き、その後の、関係者三名のトークも聞いた。 広川さんの静かな眼差しによって写し撮られた洪水による破壊の凄まじさと、それに対抗するための巨大な堤防は、まさに聖書の中の、ノアの洪水の後のバベ…

第1372回 生成AIと人類の未来について

ソフトバンクグループの孫正義会長は、ディベート相手として毎日 GPT-4版のChat GPTと議論を重ね、そこで生まれたアイデアを特許として申請し、集中した日は1日30件、今月中には1000件を突破するのだという。Chat GPT内での議論は、会社の役員とのディベート…

第1371回 馴れについて(2)

習慣化によって感性が鈍麻して偽物に騙されやすくなることもあれば、逆に、その環境によっては、習慣化によって物事の神髄がわかるようになるかもしれない。 先祖代々の骨董屋のように、当たり前のように超一級品に囲まれて育つと、自然に、物の良し悪しがわ…

第1370回 馴れについて。

”馴れ”というのは、人間の可能性につながることかもしれないし、逆に、人間を損なう原因になるかもしれない。 今年に入って今回で10回目、6時間ほどのワークショップセミナーを、毎回二日続けていて、第3回目くらいまでは、けっこう疲れて喉も痛くなり、終…

第1369回 古代の二つの海人勢力について

これまで、古代における転換期に大きく関わっていた二つの海人勢力のことを書いてきた。 一つは、安曇氏(海部氏や、その同族の尾張氏、和邇氏を含む)と呼ばれる勢力で、もう一つは、紀氏(越智氏や平群氏も含む)と呼ばれる勢力だった。 古事記において、…

第1368回 世界観や人生観に影響を与える歴史観

ここ数日で、「日置」と「額田部」を軸にした長大な文章を書いた。 なぜ、今、あえてこんなことを書いているのかというと、私たちの足下の歴史の捉え方が大きく歪められてしまっていれば、現在を生きる私たちの世界観や人生観も歪んでしまって当然だと思うか…

第1367回 歴史の転換期における背後に隠れた力。

古代日本は、100年単位で、大きな変革を遂げている。 西暦400年頃、後の東漢氏や秦氏につながる渡来人が大挙してやってきて、この頃から古墳が超巨大になり、副葬品として、武器や馬具などが多く含まれるようになった。 西暦500年は、今来という新しい渡来人…

第1366回 王権秩序の及ぶ範囲と正確な暦の重なり

日本には無数の聖域があり、それらの聖域のあいだを線で結び、なんでもかんでもレイラインだと主張するのは、あまり意味がないことだと私も思っている。 しかし、日本の各地を旅すればよくわかることだが、古代において、冬至や夏至、春分や秋分の太陽の位置…

第1365回 海に囲まれている国の文化

日本は、海に囲まれた島国。大陸から遠すぎることもなく近すぎることもない微妙な距離感が、日本文化の固有性を育んできた。 日本人にとっては、海そのものが境界線だったから、高い城壁を築いて異民族の侵入を防ぐという発想にはならなかった。 日本人にと…

第1364回 時間が無い時代から時間に追われる時代への転換。

現代社会は、「神話なんか生きていくうえで役に立たない」と思っている人が大半だが、白川静さんが、岩波新書の『漢字』の中で、人間と神話の関係において実に深い内容のことを、簡潔に書いている。 「神話の時代には、神話が現実の根拠であり、現実の秩序を…

第1363回 始源のコスモロジー

日本は、海に囲まれた島国であり、大陸から近くもなく遠くもない絶妙な距離感が、日本という国の個性を作り上げてきました。 また、海に囲まれていながら国土の70%が山岳地帯であり、それらの山々を源泉とする河川が、日本を網の目状につないでおり、この…

第1362回 同調圧力が強すぎるのか、周りに流されやすい人が多すぎるのか。

ユーチューブで、「陰謀論」や「捏造」をテーマにすると、閲覧者が増えるらしく、そういう情報に染まってしまうと頑迷にそれを信じ込んでしまい、他の人の意見に耳を傾けなくなるという話を聞いた。 いつの時代でも、「人に流されやすい人」はいる。 ネット…

第1361回 完成への問い。未完による成就。

このたび、写真家の奥山淳志君が自分の手で作り上げて、自分の手で販売していこうとしているこの写真集は、画期的なもので、この世に写真表現というものが在って本当によかったと思える本になっている。 彼は自費出版でこの本を作って、自分で作った販売サイ…

第1360回 スサノオの活躍と狼藉について。二律背反的な状況を乗り越えるために(1)

八雲山の須佐男の磐座=須賀神社の奥宮(島根県雲南市) 神話の中のスサノオは、人間に恩恵を与える神であると同時に、野蛮な振る舞いで周りに迷惑をかける神として描かれているが、これは、たとえば技術の発展が善と悪、禍と福という両極な状況を作り出す二…

第1359回 鳥のさえずりを「X」にすることの陰に。

ツイッターは、私自身はほとんど使っていないが、鳥のさえずりマークがxマークになって、なんだか不気味な感じがする。 ツイッターは、多くの人々に使われているわりにビジネスとしてはうまくいっていなかったのに、イーロンマスクが、なぜあれほどの大金を…

第1358回 過去に対する向き合い方は、未来に対する向き合い方と同じ。

酷暑の時は、何もせずにじっとしているのも選択肢だけれど、暑い中、ジョギングするくらいの体力と気力があれば、敢えてそうすることで汗びっしょりかくことで新陳代謝が促進されて、かえって元気になるということがある。 そう思い、一年で一番暑い時期の京…

第1357 回 神武天皇とは何か(4)

神話上、ニニギは、天孫降臨つまり外部からやってきた存在だが、神武天皇は、そうではない。 神武天皇の母親は、豊玉彦の娘の玉依姫であり、祖母は、豊玉彦の娘の豊玉姫、曾祖母は、コノハナサクヤヒメと、女系を通じて海人が三代に渡って続いているし、神武…

第1356回 神武天皇とは何か(3)

神武天皇の神話を、第26代継体天皇と重ねて考えるためには、(1)と(2)で述べたことの続きになるが、神武天皇の東征に登場する神々について、それが継体天皇とどう関わっていくのか、さらに検証する必要がある。 (2)では、亀の甲羅に乗って海路の案内…

第1355回 わたしの叔父さん

いろいろな表現活動のなかで、心から人に推薦したくなるものは、とても少なくなった昨今なのだけれど、「わたしの叔父さん」というデンマーク映画が、とてもよかった。 www.magichour.co.jp 鬼海弘雄さんが生きていたら、真っ先に伝えたい映画。 昔は、当た…

第1344回 神武天皇とは何か(2)

神武天皇とは何か(2) 神武天皇の神話を、第26代継体天皇と重ねて考えるためには、(1)で述べたこと以外に、神武天皇の東征に登場する神々が、継体天皇の時代において何に該当するのかを検討する必要がある。 まず第一に、神武天皇の東征において、最初…

第1343回 神武天皇とは何か(1)

神武天皇が、いつの時代のことなのかについて、これまで色々と複雑な読み解きがなされてきた。 しかし、そもそも日本に文字が流通するようになったのは西暦500年頃からで、それまでは口承で物事が伝えられていたわけであり、弥生時代の始まりとされる紀元前5…

第1342回 始原のコスモロジー

なぜ歴史を探究し、歴史を学ぶのか? 私は、20歳の時に海外放浪に出て、地中海世界やオリエント世界を旅している時から、「人間への信頼を取り戻すため」と思っていた。そして、それは同時に、「現代世界の問題の本質はどこにあるのか?」を考えることだった…

第1341回 飛騨の地が発する太古の地球の息吹。

約1500万年前、ユーラシア大陸の端っこの部分が南北に引き裂かれ、大陸とのあいだに内海ができて日本列島の原初の形となった。 引き裂かれた南の大地の端っこが岐阜県で、この東側に、太平洋から押しつけられた新たな大地が次々と火山活動を活発化させ、八ヶ…

第1340回 ピンホールカメラで世界と向き合う時に見えてくる古くて新しいコスモロジー。

夏至を境に、今日から1日ずつ日が短くなっていく。 私は、ピンホールカメラで写真を撮っているので、日没時間はとても気になる。 日が短くなると、取材中もゆっくりと昼食をとっていられない。だから、夏至になると、少し切ないものを感じ、冬至になると、翌…

第1339回 文字と人間の精神文化の関係

人間の精神活動は、少しずつ時間をかけて右肩上がりで成長変化を遂げてきたわけではない。 人間は、文字を使っていない時と、文字を使うようになってからでは、精神活動に大きな変化が起きる。そして、文字を使い始めた人間の精神活動には、地域差に関係なく…

第1338回 人間の意図を超えた力と、磐座。

山梨県北杜市小淵沢町に大滝神社があり、この場所は八ヶ岳南麓高原湧水群の一つ。「日本名水百選」に選ばれているが、日量22000立方メートルと豊富な水量を誇り、一年を通して水温は12度。 東京の武蔵野台地でもそうだが、井の頭公園や石神井公園、等々力渓…

第1337回  見えないものをみるために

「見えないものを見るためにカミオカンデを作った。」 これは、自らが設計を指導・監督したカミオカンデによって史上初めて太陽系外で発生したニュートリノの観測に成功し、ノーベル物理学賞を受賞した小柴 昌俊さんの言葉。 スーパーカミオカンデは、カミオ…

第1336回 ヤマタノオロチとは何か?(2)

出雲大社の隣に鎮座する命主社(いのちのぬしのやしろ)。出雲大社が築かれる前の聖域だったと考えられる。古代の磐座だと思われる巨岩の前に建てられているが、この巨岩を石材として切り出した時、下から銅戈(どうか)と硬玉製勾玉が発見された。ともに古…

第1335回 ヤマタノオロチとは何か?(1)

八岐大蛇について(1) 古事記や日本書紀に描かれている「スサノオの八岐大蛇退治」の物語は、誰でも知っているが、いったい何を意味するのか、江戸時代の国学者も含めて様々な解釈を試みているが、これが正解だと明確に言いきれる解答は見当たらない。 こ…