「愛」!?の力

 今日は、介護専門会社のPR誌づくりのためと、「風の旅人」の取材を兼ねて、介護現場を訪れた。
 この夏、77歳の男性が熱中症で倒れてしまい、入院し、一時は身体をうごかすこともままならなかった。
 その奥さんは、ご主人が入院してからというもの、「歩けるようになってね。きっと歩けるようになってね」と、祈るように耳元で囁き続けたと言う。
 ご主人の命も心配だが、同時に、お二人のそれからの生活のことを考えざるを得なかったという。ご主人は77歳、奥さんは73歳の二人暮らしだから。
 でも、不思議なことに、入院してから半月ほどで、最初はとても無理だと思っていたのに、ご主人は、人の力を借りて、恐る恐る歩き始めた。その時期が遅れると、筋肉はさらに弱まり、歩くことはますます困難になり、それに打ち勝つために、いっそうの気力と、周りのサポートが必要になる。早すぎるくらいが、ちょうどよかった。
 奥さんは、「自分がしつこく言い続けたから、きっと洗脳されてしまったのでしょう」と明るく笑っていた。
 病人をいたわって、「具合はどう。心配しないで、ゆっくり治しましょう」と言うのは、普通だろう。その方が、一見、愛情が深いようにも感じられる。しかし、この奥さんは、「あなたと私は家に戻って一緒に生きていかなければならないのよ。だから、歩けるようになって。歩くことさえできれば、後は何とでもするから」と、真底それが正直な気持ちだったのだろうが、毎日毎日、心の底から訴え続けたのだ。その気迫というか、強く念じる気持ちが、病人に乗りうつった。入院中に歩く努力をはじめたご主人は、退院後、まもなくすぐに、手すりにつかまりながら階段の上り下りまでできるようになってしまった。奥さんはそこまでのことは期待しなかったと言うが、そうなるべくしてそうなったのだろうと、私はしみじみと感じ入った。

「愛」というのは、相手をいたわる気持ち以上に、相手とともに強く生きていこうとする意思を相手に対して示し続けることであり、その「愛」の力が、相手に生きる力を与えるのかもしれない。