ミスか陰謀か

 書こうかどうか迷ったけれど、やはり書かずにはいられない。こうした憤りを抱えたまま、仕事なんかできない。

 今世間を騒がしている「みずほ証券」のジェイコム株誤発注の問題。みずほ証券は、10分ほどの間に、最低でも400億円の損失。

 400億円の損をする人間がいるということは、得をする人もいるわけで、今日の新聞に発表されていたが、予想通り、外資系の証券会社が独占していた。

 その内訳は、モルガン・スタンレーが31.19%、リーマン・ブラザーズが、21.72%、クレディ・スイスが、19.92で、この三社で、73%ほど占めている。

 モルガン・スタンレーは、たった10分で、120億円を儲けた。

 しかし、短時間のうちに、これだけ圧倒的に取得できた人達というのは、あらかじめ、事が起こることを知っていたのではないか。

 スタートのピストルが鳴ることを知っていて走り出した人と、それを知らず、鳴ってから慌てて飛び出した人の差が、これだけ大きなものになったとしか思えない。

 証券会社とか投資家の数は、数え切れないほどあるのだから、この3つだけが敏感に反応できたとは考えられないし、プロ同士の争いなのに差がつきすぎている。

 実際、60万円を1万円と打ち込むと、コンピュータ上に警告が出るわけで、それを無視して発注するというのは、単純なミスと言えるのだろうか。 

  舞台裏で、その担当者と密談して、あとで謝礼としてそれなりの金額を用意するなどの約束で、わざとそういう発注をさせることは可能なのではないか。通常の人間心理だと不可能でも、たとえばその担当者が、巨額の借金を抱えているなどの事情があって、それに付け込めば、簡単にできてしまうだろう。

 そして、もしそういうことがあったとしても、みずほ証券も、金融庁も、深く追及しない。なぜなら、もし本当にそういうことがあったという事実が明るみになってしまえば、不信が不信を呼び、証券市場は大変なパニックに陥ってしまうからだ。みずほ証券にしても、そういう体質があると知られれば、すべての顧客が逃げ出してしまう。

 だから、今回のことは個人のミスにして、「今後二度とこういうことが起きないようにシステムや社員教育を見直します」と言っておいた方が世間は安心する。

 みずほ証券は、今期、500億円の利益を出す予定だったらしいが、そのほとんどを今回の騒動で吐き出した。しかし、国家が超低金利政策の優遇措置を取り続けてくれれば、銀行や証券会社は何とかやっていける。その分、預金者はいつまでも利息を受け取ることが出来ないのだけど。

 しかしそれにしても、たとえばレストランなどで、お店が釣り銭を間違えて、5千円のところ1万円をお客に渡し、すぐその場で取り戻そうとしても、「間違える者が悪い。もう遅い。もらったものは返さない」と開き直ったり、自分の目の前で落とし物をした人がいて、それをその人の目の前で拾ったのに、「落とす方が悪い、拾ったオレのものだ」と主張することが、まかり通ってよいのだろうか。

 アメリカ社会などは、そういう側面が強くて、自己責任とか自衛で銃を持つことが当たり前なのだろうけど、そうした歪んだ価値観がグローバルスタンダードといって世界標準になっていくのは、人間として恐ろしく退化していくことなのではないか。

 そんなものが標準になると、他人の弱点を虎視眈々と狙っていたり、システムの欠陥を探すことに慣れている自称賢明な、実際のところ下品でさもしい人の方が有利に決まっている。

 日本人には、もともと、「人として、お天道様に恥ずかしくない振るまい」という道義心があるが、そういう人間として高潔で微妙な機微を土足で踏み荒らして、「勝った、勝った、100億円儲かった」と気勢を上げ、銀座のクラブかどこかでエリート然とした顔で祝杯をあげている人間のことを想像すると、腹が立って仕方がない。

 でも証券市場だけでなく、たとえばアートの世界などでも、世間知らずの日本人は、同じような仕掛けにまんまと乗せられて、思慮のないメディアなどもこぞって追随して、煽りを大きくして、高い買い物ばかりしている。

 朝から晩まで身を粉にして働き、消費者金融に高い利子を払って海外ブランド品を買わされたり、狭いマンションを買って、35年のローンを一生かけて払わなければならないのだけど、世界のなかで豊かな暮らしができていると信じ込まされている日本人って、いったい何なのだろう。

 あげくに、一つのミスか陰謀で、400億円という大金が、みすみす海外に持って行かれるのだから・・・。