科学の言葉(余談)

 科学の門外者である私が、科学のことを考えると、ふだん使い慣れない脳を使うので、脳細胞のヒューズが飛んでしまいそうで、もうやめた方がいいだろうけど、アクエリアンさんがコメントをくださったことで、改めて、科学という人間がつくりだしたシステムの凄さを感じた。

 それは決して大袈裟なことでもなく、逆説でもない。

 科学の最先端は、乱流で乱流をはかろうとしているみたいなものだけど、乱流という、初期設定のちょっとした狂いでバラフライ効果のように誤差が巨大化する繊細過敏なモンスターを手なずけるための諒解事項を、気の遠くなるような精密さで組み上げて、そこに関わる人々全員がきっちりと足並みをそろえ、少しでも、その諒解事項に揺らぎをもたらせる者は絶対に許されず(そうしないと、乱流と乱流の精密で神経過敏な関係が、あっという間にカオスそのものになってしまうから)、息を潜めるようにミクロの世界の観察対象を見守っていると印象。これは、形而上学的な聖なる行為の周知徹底とも言える。

 そういう状態まで周到に整えあげた科学の力を、私は凄いと思う。

 そして、聖職者のような諒解事項の周知徹底が、今日までの技術の発展を促した。戦争中に技術が発展するのと同じように、乱流と乱流のデリケートな関係の観察に科学が至った時、戦争中と同じような集中作用があったのだろうし、そうならざるを得ない特殊な分野なのだろうと思う。

 それで、話しは変わるけれど、株価を計算する精密なコンピューターを誰かが作ったという話しをどこかで聞いた。そのコンピューターに、株価に関係すると思われる数字を細かく、隅々まで入力して、算出した。しかし、株価はまったくその通りにならなかった。もちろん、そんなことで株価がわかれば誰も苦労しないのだけど、問題はそういうことではない。

 コンピューターを使わず、経験豊富なプロが、株価のグラフ推移を見ながら、だいたいのところの見当をつけて株価を決めた方が、実際のものに近かったのだという。その理由は、グラフ推移で表されている数字は、人間には認識できない微妙な作用も含めて株価を決定する要因の全てが盛り込まれた結果として、そこに存在している。

 そのメカニズムや要素の配分はわからないけれど、人間の可知と不可知のものが、間違いなくそこに混在している。そして、その微妙な関係性の中の数字の推移がグラフだ。そして、次にくる数字は、プロの直観に頼る。不可知のメカニズムであろうが、人間の知らないところで規則性をもっているので、よほどのことがないかぎり、とんでもない変動をするわけでもなく、そのあたりの勘所をプロが判断する。そうすると、だいたいの幅の範疇で落ち着いて大きな間違いにならない。

 しかし、シュミレーションコンピューターの方は、人間が認知できるデーターを打ち込み、人間の認知できないところは、これまでの推移から方程式のようなものを作り出して計算を行っているものだから、初期設定の入力数字を少し変えるだけで、まったく見当違いのあり得ない数字がはじき出されてしまうのだと言う。

 グラフ推移を見て勘所をとらえて想像することと、計算すること。この二つは、方法は異なるものの、どちらも観察を行っていることに違いはない。

 科学の最先端は後者でないかと思うのだけど、私が凄いと思うのは、株価算出マシーンは、「無理かも知れないけれど、ちょっと作ってみるか」という気配が周りに滲み出ていると思うのだが、科学は、もともとは乱流と乱流の組み合わせという、おそろしく曖昧で、結果がカオス状に狂ってしまうかも知れないものを、そうではないのだと思わせてしまうロジックを作り出して、そのロジックに聖性を感じさせる域にまで高まっていることだ。「無理かも知れないけれど、ちょっと作ってみるか」というノリではなく、真理探究のために。中世の聖職者の世界のように。

 いずれにしろ、私がウダウダと書いた、たとえば電子の考え方などについて、その部分で議論して何か答えが出ることではない。それはモノゴトを考えるうえでの前提条件の違いだから。

 だから、そういうことは取りあえず置いておこうと思う。といって、近未来に何も変化が生じないのかというと、私はそう思わない。

 それは、前提条件の議論を通して現出するのではなく、一つの大きな現象に関する認識の変化によって、もたらされるだろう。その時、宇宙に対する認識は、芋蔓式に変わらざるを得ないだろうと私は思う。

 それはなにも宇宙の果てのことについて新たな研究成果が出るということではない。今、現在、太陽系のなかを観測衛星が次々に飛んで、新しい観測データーを次々にもたらしている。その観測データと、現在の太陽系に関するロジックがまったく噛み合わず、いろいろと複雑な方程式を作り出しても、その矛盾を解消できない時がくる。その時に新たな逆転のロジックが必要になる。

 太陽系のなかでも、特に太陽のこと。太陽の燃焼のメカニズムに対する認識をガラリと変えざるを得ない状況になった時、宇宙の構造に対する認識はガラリとひっくり変えるだろう。そのパラダイムの変化は、人間の生死観すらも変えるだろうと思う。