自己顕示欲を超えたコミュニケーション

写真 ハーリー・グリエール

(風の旅人VOL.22より)






 昨日、「風の旅人」の第22号(10/1発行)が発売された。テーマは、SIGN OF LIFE。

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 鎮守の森、伊勢神宮、東京、日本のまち、日本人・・・などが特集されている。

 伊勢神宮は20年に1度、新しく作り直されるが、日本の都市も、ヨーロッパの都市のように過去の状態を維持することを優先するのではなく、常に新しくなるダイナミズムのなかにある。

 目に見える外観の姿形は朽ち果ててゆく宿命を逃れることができないから、それに執着しない。私たち日本人の意識の深層には、そうした世界観が脈々と受け継がれているような気がする。

 そうした世界観は、世界を生き生きと循環するものとして捉える感受性のうえに成り立っており、それゆえ伊勢神宮などにおいては、姿形を解体した後、その木材を新たに生かすことが、とても重視されている。

 しかし残念ながら今日の社会においては、新しく生かすことが疎かにされ、次々と解体して新しくしていくことのみに視点がおかれ、その状況分析ばかりが行われている。

 変化することは自然の摂理だが、外観がどれだけ変化しても変わらないものがある。そして、それは、目に見えにくいものだ。目に見えにくいけれど確かに存在していて、それがあるからこそ、モノゴトの関係性が健全に保たれ、世界はバランス良く循環していく。そうした関係性を司る力こそが「いのち」であり、その「いのち」に目を配り、気を配り、心を配りさえすれば、たとえ混沌のなかにあっても新たな視界を得て、ちがう景色が見えてくる。

 だいたいそのようなことが、この号の趣旨だ。

 「風の旅人」は、隔月で世に出ていくものだけど、いわゆる情報雑誌ではない。客観的情報を、並列的に紹介するという編集方法をとっていない。

 一冊ごとにテーマを決め、その伝えたいと思うべきことの濃縮度を、できるだけ高めたいと思っている。

 だから私が掲載を依頼する執筆者や写真家には、その趣旨を一生懸命に伝えるし、その人がもし「風の旅人」のことを知らない場合は、これまでの流れを知っていただくためにバックナンバーを送る。その人たちの文章や写真に深く共鳴するところがあるから依頼するのであって、そうでない場合は、たとえ有名人でも依頼しない。

 そして、こちらから依頼したとしても、出来上がったものが企画趣旨に添っていない場合は、その旨をきちんと説明して、掲載をお断りすることもある。それは作家の自主性を損なうとか、検閲をするということではない。忙しいなかで書き散らかしたような文章だと、読み手に真意を誤解されて受け取られてしまいますよ、ということだ。

 まあそういうケースは極めて稀で、これまでで2,3回しかない。どの方も渾身の文章であり、私なんぞが手の届かないところまでテーマを深めていただき、その気迫に圧倒されながら、教えられることの方が多い。

 写真を見て、組む場合も同じで、渾身の力で撮られた写真ばかりだから、写真のセレクト、組み方、レイアウトなど、ぜったいに手を抜かないし、妥協もしない。神経をめいっぱいに集中して行うので、写真を見るだけでもヘトヘトになる。

 そのようなスタンスで制作しているので、「書店でちょっと見たので電話しました、写真を見てくれますか」みたいなノリの売り込みは、お断りしている。断られた人は、「何を偉そうに」と思うかもしれないが、そういうノリの人は無数にいて、そのノリにいちいち合わせていたらキリがないのだ。

 もしかしたら、そのなかに優れた写真が混ざっているかもしれない。しかし、これまでの経験で、その確率はとても低い。

 なぜなら、相手のことをよく知ろうともしないでアプローチする安易さや、表層をなぜるようなコミュニケーションが、表現に影響を与えやすいからだ。

 売り込みにおいて掲載を即決させていただいた人は、最初のアプローチを受けた時点から一緒に仕事をしたいと感じさせるものがある。アプローチにおいて真摯な人は、写真も真摯に撮っているだろう。

 写真を撮っている人は無数にいて、写真そのものの実力差は、特別な人を除いて、あまり変わらない。特別な人は、自分から売り込まなくても、充分に評価されている。実力がたいして変わらないなら、一緒に仕事をしたいと思わせる人と仕事をしたい。

 実力的に発展途上であっても、将来性を感じさせるキラリと光るものは、最初のアプローチの段階で現れている。

 卑屈になる必要はないが、礼儀というものはある筈だ。

 売り込みというのは、自分のために相手に時間を割いてもらうものなのだから、少なくとも相手のことをきっちりと理解したうえでアプローチするべきものだと私は思う。

 「私の写真を見ればわかるから」などと、自分を相手に理解させることばかりしか頭になくて、相手を理解しようとしないスタンスから生じるものは、現代社会に洪水のように溢れる自己顕示欲の一種にすぎないだろう。

 私が見たいものは、自己顕示欲の一形態ではなく、自己顕示欲に歪んだこの社会で、それを修正したいと願う新しい対話や眼差しの在り方なのだ。



風の旅人 (Vol.21(2006))

風の旅人 (Vol.21(2006))

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