「風の旅人」文庫

 酔った勢いで書いて、自分を駆り立てていくということもたまにはいいだろう。

 今日、「風の旅人」の執筆者と池袋で飲んでいて、「佐伯さん、風の旅人文庫作ろうよ、一冊800円くらいで」と言われた。

 これまでは、まったくそういうことは考えたことなかった。「風の旅人」に連載いただいている作家の単行本化に関しては、ユーラシア旅行社の名前で出すより、岩波とか新潮とか大手出版社で発行する方が、流通に対する力や出版社としての信頼度で売れるだろうし、作家も生活がかかっているので、その方が嬉しいだろうと思って、私は、単行本化のことを考えたこともなかった。また、単行本ならば他の出版社でもできるから、他人ができることをやってもしかたないと思っていた。

 しかし、その執筆者は、「風の旅人」で連載した内容を、他の雑誌などに書いたものと合わせて、ごっちゃまぜにしたくないと言う。「風の旅人」の原稿は、「風の旅人」という雑誌の空気のなかで書いたものだから、その空気をまとって世に出て行くのが一番幸福なことだと考えてくれているのだ。それで、「風の旅人」文庫というのはどうだろう、立派な装丁の必要はない。より多くの人の手にとってもらえるような形でという話になった。

 私は、「風の旅人」という雑誌は、全体で一つの有機的なものだと考えていたから、それぞれの文章が単行本になっても、それは別物だと思っていた。だから、これまであまりそういうことに関心はなかった。しかし、「風の旅人文庫」という言葉には惹き付けられた。 

 「とはいっても最初から文庫というのは、作家として厭でしょう」と問いかけると、「関係ないよ、そんなこと。でも、気にする人がいるのなら、本の体裁は叢書にすればいいじゃないか」と、彼は答えた。

 単行本ならば、一冊ずつが個性ある装いとなる。しかし、叢書とか文庫だと一つのシリーズになる。一つのシリーズならば、シリーズとしてメッセージ性を持つのでやってみたいという気持ちに私はなった。そのなかに入るのが嫌な人はしかたがない。それでかまわないという人だけでやってもいいのではないかという気持ちになったのだ。

 単行本というのは、雑誌と比べて、製造コストはたいしたことがないが、それをやることの意義をそんなに感じなかったから、これまで取り組もうと思わなかった。

 といっても、私は、「風の旅人」の編集と、タイアップの営業や制作や介護会社のPR雑誌の制作で手一杯なので、誰か単行編集の経験のある人を採用するかフリーの契約を結ぶなり、何とか手を打たなければならない。

 少し前、価格のことを含めて、これからの風の旅人をどうするか、いろいろ考え、たくさんの人からメールなどもいただいた。

 現在、考えているのは、5周年目に入る号にかぎって記念号として800円くらいで販売するということ。あと、たとえば、一年以上前のバックナンバーにかぎって、ネットで半額販売することなどを検討している。

 ネットでの購入に関しては、郵便振込などめんどうなことをやめ、ネット決済ができるように準備を進めていて、11月中には何とかできるのでないかと思っている。

 そららにくわえて、「風の旅人文庫」に取り組んでいくのは、大変かもしれないが、やる意義があるような気がしてきた。

 しかし、やるかぎりは、2、3冊でやめるわけにはいかない。そこのところの踏ん切りだけが問題だ。