今、ここにある旅

                                                      
 「風の旅人」の第37号(6/1発行)の誌面と連動して、5月30日〜6/8日まで、新宿の高野ビル4Fのコニカミノルタプラザ ギャラリーCで、写真展を行います。
 東京写真月間2009の企画で依頼を受け、「風の旅人」流の”旅”を構成致しました。テーマは、「今、ここにある旅」です。
 有元伸也、奥山淳志、西山尚紀、山下恒夫、鷲尾和彦など、20代、30代の若手写真家を中心とした写真で組んでみました。                                           
 この展覧会に合わせて、公開トークを行います。
 5/30(土)18:00〜19:30
 田口ランディ(作家)×佐伯剛(風の旅人 編集長) 
   公開トークにつきましては、下記のホームページで受け付け、抽選となります。
コニカミノルタプラザホームページ→ http://konicaminolta.jp/plaza/

公開トークに関する募集のご案内

 :5月9日(土) トピックス欄にて告知
※募集受付開始:5月13日(水)
※募集期間:5月13日日(水)〜5月22日(金)
※抽選当選メール送信日:5月26日(火)17:00以降
※募集人数:合計80名様(着席:50名様、お立ち見30名様)
トークショー準備の為、ギャラリーCは17:30で閉鎖致します。

写真展の開催内容

http://konicaminolta.jp/plaza/schedule/2009june/gallery_c_090530.html

●日時:5月30日(土)〜6月8日(月)
●時間:10:30〜19:00(最終日〜15:00)
●場所:コニカミノルタプラザ ギャラリーC
●住所:東京都新宿区新宿3−26−11 新宿高野ビル 4F

      
 <展覧会趣旨>

 見知らぬ場所を訪れても、自分の眼差しが変わらなければ旅とは言えない。同じ場所にいても、惰性に陥らずに物事をみつめ、新たな発見と触発を通して自分を入れ替えていくことは、旅だ。
  現代社会の政治、学問、教育、経済等、知的エリートとみなされる人たちが主流の分野では、物事(他者)を細かく分析して標準的な答を見つけ出し、その答に大勢を従属させる点で似たような構造にあるが、そのようにして得られた答は、永遠普遍の価値を持つものではなく、この時代における便宜上の尺度にすぎない。
 それはそれで社会を維持していくうえで必要なものだが、その枠組みの中で自分自身の心の揺れを完全に抑圧して生きることが自然の理に適っているとは思えず、だからこそ人々は、自分なりの答を探し求めて旅に出るのだろうと思う。
 しかし、誰でも手軽に旅行ができるようになった現代社会で、せっかくの旅先でも、ガイドブックに書かれている有名なポイントをなぞるだけとか、他人がつくった価値観の枠組みの中でわかったつもりになる状況も増えている。遠方まで出かけたとしても、自分の眼差しが全く変わらなければ、時間の消費にすぎない。
 旅というのは、地理上の移動ではなく、あれこれと迷いながら、自分のまなざしでモノゴトをみつめ、自分なりの世界との付き合い方を体得していくプロセスのことだと思う。
 同じ場所に住んでいても、意識が変わり、視点が変わるだけで、世界も変わる。地球上のどこであっても、人間の営みには、それが成立していることじたいの奇跡を強く感じさせる尊い瞬間がある。そうしたものに出会う時、人間という存在のかけがえのなさを感じるとともに、自分が信じこんでいる価値観の偏狭さに気づくことがある。そのように自分の価値観を揺さぶられることは、心が蘇生するような快感があり、まさに旅体験そのものであると言える。
 しかし、人間の営みの尊さは、それをごく普通のこととして繰り返している当事者には気づきにくいし、通りすがりの人も見落としがちだ。そこに住みついたり何度も訪れたりしながら時間を共有することで、初めて見えてくるものがある。
 今回の写真展で写真家は、まさにそうしたアプローチで対象と向き合っている。
 彼らは、通りすがりの土地で自分本位に人間や風景を切り取るのではなく、一つの土地と長く付き合い、そこに生きる人々と心を通わせながら、人間の営みの尊さを写真で浮かびあがらせている。
 大阪生まれの奥山淳志さんは、10年間、岩手に住みついて撮影を続け、山下恒夫さんは、10年も沖縄の島々に通い続けている。鷲尾和彦さん、西山尚紀さん、有元伸也さんは、自分が生きて暮らしている場所の近隣で、自分にとっての他者の世界に深く向き合いながら、時間をかけて撮影し続けている。    
 彼らが撮影しているのは、大きな出来事や目新しいものでもなく、人間の当たり前の暮らしであるが、それらの写真を見ていると、人間の日常の何気ない一瞬がとても清新に感じられてくる。彼らの眼差しを通じて日常を見つめ直すことは、まさに「今、ここにある旅」を実践することであり、その“旅体験”は、きっと新たな認識につながっていくだろうと思う。