人間の普通の営みのなかに宿る厳かさ

 「風の旅人」第37号が、そろそろ書店に並びます。

 今回のテーマは、永遠の現在?「時と悠」です。

巻頭には、100年前、エドワード・カーティスが撮ったアメリカ先住民の荘厳なまでの写真が23頁にわたって紹介されます。

カーティスは、30年間にわたりアメリカ先住民とともに暮らし、親交を深め、通りすがりの人間の目には入らず、おそらく先住民自身も気付いていない生活の細部や彼らの表情のなかに煌めく美を掬い取りました。

100年前すなわち欧米人がアメリカ大陸に進出して300年の間、横暴の限りを尽くしてきた時点においても、先住民の顔は気高く、尊厳に満ち溢れています。

私たち近代人は、自己のために世界があるかのように錯覚していますから、その世界が自分に都合良くいかなくなると、苛立ち、ストレスを感じ、「顔」を歪めていきます。それに比べて、最初から世界が自分のためにあるなどと思っていない古のアメリカ先住民は、どんなに苛酷な試練のなかにあっても真っ直ぐな眼差しを持ち、気高く穏やかな表情を湛えており、カーティスは、見事にそうした人間の「顔」をとらえているのです。   

そのカーティスのことを深く尊敬しているというデビー・フレミング・キャフェリーの写真が次に続きます。彼女は、アメリカ合衆国の南部、ルイジアナ州に生まれ育った白人女性ですが、自分の農園で働く黒人達を、長期間にわたって丁寧に撮り続けています。

 カーティスが撮ったアメリカ先住民のように、キャフェリーが撮った黒人たちもまた厳かな美を放っています。

 他に、大阪生まれの奥山淳志さんが、10年間岩手に住みついて撮影を続けた写真。山下恒夫さんが、10年間、沖縄の島々に通い続けて撮った写真。鷲尾和彦さん、西山尚紀さん、有元伸也さんが、自分が生きて暮らしている場所の近隣で、自分にとっての他者の世界に深く向き合いながら、時間をかけて撮影し続けた写真が掲載されます。    

 彼ら5人の写真を「今、ここにある旅」と題して、5/30(土)から6月8日(月)まで、新宿のコニカミノルタギャラリーで展覧会を行います。http://konicaminolta.jp/plaza/schedule/2009june/gallery_c_090530.html

 これらの写真家たちが撮影しているのは、大きな出来事や目新しい物事ではなく、人間の当たり前の暮らしですが、それらの写真を見ていると、人間の日常の何気ない一瞬がとても清新に感じられてきます。

 彼らの眼差しを通じて日常を見つめ直すことは、自己を中心にして自己都合的に世界(他者)を切り取る自己顕示欲の強い表現(パフォーマンス)が蔓延する現代社会で、静かで力強く、新たな視点の可能性と方向性を示してくれるだろうと思います。