Ipadと、その後

昨日、初めてIpadに触れた。コンピューターのように説明書がなくてもすんなりと使え、起動がウインドウズなどに比べて圧倒的に速いことに驚かされる。使うかどうかわからない複雑なソフトを詰め込んで重くなり、かつ必要なソフトを得るためには高いお金を支払ったうえに面倒なセットアップがあったパソコンの世界が、ずいぶんと色あせて感じられた。Ipadは、安価で魅力的なソフトが簡単に入手できるのだから。

そして、この時期、アップルが時価総額マイクロソフトを超えたというニュースと、GOOGLEが、社内でウインドウズを使わないようにするという記事があった。http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPJAPAN-15637020100602

 グーグルの社員は、アップルかリナックスを使うのだそうだ。

 ウインドウズは、互換性の縛りによってシェアを広げてきた会社だ。

 私自身、ウィンドウズのワープロソフトは使いにくくいが、他の人と互換性を保つするために仕方なく使ってきた。

 グーグルは、ウインドウズを禁止するのはセキュリティの問題だと言っているが、グーグルが抱くIT世界の将来ビジョンのなかで、互換性で縛ることで収益を得るマイクロソフトは、過去の遺物。私にはそのように思える。

 アンドロイドによるGOOGLEのスマートフォンへの参入で、GOOGLEとアップルがライバルのように見られているが、アップルにとってグーグルが脅威であっても、グーグルにとってアップルは同胞みたいなもの。だって、GOOGLEは、マイクロソフトと違って無償でアンドロイドOS

を各メーカーに提供している。そこから利益を得るビジネスモデルではないのだ。

 ハードで競争するのは、あくまでもアップルと、アンドロイドを使う他のメーカーだ。GOOGLEは、スマートフォンだけでなく、Ipadや、これから出てくる競合メーカーが競いあって消費者の利便性が高まり、どんな場所でも簡単にグーグルが関係するインターネット上の世界にアクセスができる環境になりさえすれば、より多くの収益が得られるビジネスモデルを確立している。

 スマートフォンタブレット型コンピューター、GOOGLEテレビと、あらゆる場所からGOOGLEのインターネットサービスが受けられるだけでなく、gmaiをはじめ、グーグルのクラウドコンピューターが頻繁に利用されるようになる。

 アマゾンのIpadは、購入して使用を始める前にコンピューターによる認証が必要なので、コンピューターを持っている人をターゲットとして、その人達に最大限に満足してもらうためのコンテンツを作り上げていくことに精力を傾ける。それに比べて、アンドロイドは、コンピューターを持ってなくても使えるようにして、その他大勢を獲得していくのではないだろうか。

 アップルは、アンドロイドと同じ条件にしてしまうと、アンドロイドを使う競合メーカーの大きな渦のなかで存在感がなくなってしまうから、明確に差別化しておいた方がいい。アップル製品のつながりで顧客を囲い込んでいく戦略は、考え抜いたうえのことだろう。かつて、他社にOSライセンスを提供することでシェアを広げたマイクロソフトに対し、アップルは、自社のハードとソフトにこだわって負けてしまったが、当時と今では市場の規模が違う。15年前のように、マニアックなコンピューターを使う限られた人の中でシェア争いをするのではなく、これからは生活者全体がターゲットになってくる。すると、全ての消費者に当てはまるものを目指すのではなく、アップルが作り出す世界を“クール”だと感じる人達をファン化しさえすれば、その人達の生活シーンに応じて、様々な角度から収益が得られる。昔のように、コンピューターのハードとソフトを売るだけではなく、音楽、映像、本、その他、様々なエンターテイメントへとビジネス領域を広げていくことができるのだから。

  GOOGLEは、アップルのように“クール”でなくても、生活者が利便性を感じて、どんどん使ってくれさえすれば、自社の価値が高まる。

 アマゾンも、グーグルやアップルと競合するのではなく、市場規模じたいが大きくなれば、本だけでなくさまざまな物品を扱う流通業として役割も大きくなり、必然的にリターンも大きくなる。さらに、流通業として信頼を獲得するために自社のサーバーシステムのスケールと安全性を高めてきたことによって、クラウドコンピューターで小売業以上の収益を稼ぐことができており、目先の競争にとらわれず長期的な視点でビジネスが展開できる懐の深さがある。Ipadの発売に焦ってキンドルの開発を急激に進めなくても、電子書籍が広がるまでは既存の紙の本を売っていればいいし、今後、経営困難で書店が減っていけば、アマゾンで買う人が、これまで以上に増えることは確実なのだから。

 とはいえ、こうした様々な動きの大半は、生活周辺の利便性や趣味・娯楽の範疇で、人生そのものの在り方は、また別のところにある。

便利なものばかりに囲まれて、人生が物足らなくなることだってあるし、手間暇かけた時間が、後々まで心を満たし、人生を支える体験になることだってある。

グーグルも、アップルも、アマゾンが行っていることは、突詰めて言えば、20世紀に急速に広がった生活や趣味・娯楽や仕事の方法を、際限なくブラッシュアップしたものだと言える。

でも、そうしたものが当たり前になった時に、20世紀的な価値観が急速に色あせて感じられ、価値観の転換が起こる可能性だってある。

不便なことが、楽しく、うれしく、ありがたいと、20世紀には考えもしなかった方向へと、風向きが変わらないとは限らないの

そのくらいの気持ちで、自分の仕事を考える事の方が、性に合っているような気もする。