THE WORLD ITSELF

「風の旅人」第41号、「WORLD ITSELF〜永劫への旅」が、10月2日頃から書店店頭に並びます。今回の特集は、写真家においては、東松照明さん、川田喜久治さん、水越武さん、野町和嘉さんらの巨匠に並び立つように、若い世代を代表する岡原功祐さん、エリック、伊与田成美さん、デビューは遅いものの、現在、日本ではなく欧米で高い評価を受けている志鎌猛さん等の写真が、響き合います。

 また、執筆者として、田口ランディさんや蛭川立さん、望月通陽さん、皆川充さん、姜信子さんにくわえて、世界的に活躍する建築家の原広司さん、日本だけでなく海外でも公演の盛んなパパタラフマラの演出家である小池博史さん、紛争解決人として活躍する伊勢崎賢治さん等の文章が新しく加わります。また、縄文時代と同じ船を手作りで作り、縄文人そのままのスタイルでインドネシアから日本への航海を試みる関野吉晴さんのレポートも紹介します。

 非常に濃厚で多彩で、それでいて微妙に細部が連動し呼応し合った誌面をお楽しみいただければと思います。

8年前、この雑誌を発行した時も、出版不況と言われていました。社会が急速にインターネット化する情勢のなかで、紙媒体の雑誌を立ちあげ出版世界に新規参入することに対して現実的ではないという指摘もありましたが、紙媒体ならではの表現の仕方があると信じ、それに徹することで今日まで発行を続けてきました。

 また書店からは、「風の旅人」をどこに置けばいいかわからないという問い合わせをよく受けました。一般の旅雑誌でも写真雑誌ということでもない。従来の書店の棚では、うまく収まる場所が見当たらないのです。

 「風の旅人」を、「風の旅人」という一つの固有のジャンルとして認知していただくことは簡単ではありません。しかし、それができなくては、「風の旅人」は莫大な書籍・雑誌のなかに埋もれてしまい、誰にも認知されず、存続することもできません。

 8年間に渡って発行を継続できたのは「風の旅人」という定義不可能なものを好意的に受け入れてくださる人が存在するということでもありますが、相変わらず運営が安定しないのは、「風の旅人」が現代社会の枠組み(ニーズ)に適応できていないからとも言えます。

 いずれにしろ、この2,3年、「風の旅人」の運営が非常に厳しい局面にあることは間違いなく、この雑誌を単独で存在させていくことは不可能な状況であり、他の仕事との関係において何かしらの相乗効果を作り出さなくてはなりません。

 具体的に考えられる例としては、どこかの会社や団体等とタイアップし、互いの良さを引き出し合いながら、共存共栄をはかっていくことです。

 日本と中国の関係においても、1+1=2ではなく3にも4にもなっている筈で、その恩恵を双方が受けています。どんな関係でもそうですが、軋轢が少し生じただけで相手が存在しなくてもよいかのような過激で頑固な言動をする人達は、相手との関係を1+1=1以下の認識でしかとらえていないでしょう。

 どんな関係においても互いの持ち味を呼応し合えれば、1+1が3にも4にもなる可能性があります。個人主義が発達しすぎて蛸壺状態のなかでそれぞれが孤立し、人間本来が持つ力を減退させた社会を回復させる力は、そうした呼応力ではないでしょうか。

 互いの力を呼応させながら、時には反発し合いながらも、時間をかけて一つの場としての力を高めていくこと。風の旅人もまた、言葉や写真など、強い個性を持つものたちが力強く美しく呼応し合うことを目指して編集することを心がけてきました。

 「風の旅人」という一つの雑誌という場の中だけにとどまらず、そうした呼応関係を雑誌の枠組みを超えて広げていくこと。それができて初めて、この困難な時代を乗り越えて「風の旅人」を運営し続けていくことが可能なのだろうと思います。

 どういう方法と形で実践できるかはまだわかりませんが、現在の閉塞状況を少しでも改善しようと真剣になっている人々と出会い、向き合い、関係し合うことを大事にして、新たな可能性につながる兆しを見逃さないようにしたいと思います。