この国の大人社会は、ここまで腐ってしまったのか。(続)

岡田克也副総理は3日の記者会見で、国家公務員の2013年度新規採用の56%削減(09年度比)決定を受け、平均勤続年数を勤めたと仮定すれば、歳出削減効果は1兆1000億円に上るとの試算を示した。国家公務員の総定員数削減に引き続き取り組む考えも重ねて強調した。
 13年度の新規採用数は政権交代前に採用が決まっていた09年度と比べ4731人減となる。全員の平均勤続年数を25年、1人当たりの年間平均人件費を940万として試算した。
 岡田氏は「各省庁は頑張った。1年だけの削減効果ではない」と指摘。新規採用抑制に伴う仕事の効率化に関しては「人数が減ったから仕事ができないというなら管理職は要らない。決裁の在り方などを見直してほしい」と求めた。(共同)】

http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp3-20120403-928246.html

 岡田副総理という人は、よくもまあこんな詭弁を平気で口にできるものだなあと呆れる。1兆1000億円の削減というのは、例年であれば国家公務員になれた4700人ほどの25年分の賃金を足しあわせたものだ。つまり、若者4700人の職を奪い、25年かけて、ようやく1兆1000億円を削減できるのだという。
 東電に対する公的支援は、3.5兆円にも達するというのに。
 http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120331-OYT1T00808.htm
 その東電の社員40000人は、給与は二割減となったものの、昨年の夏も冬も賞与が出ていた。今年の夏の賞与見送りについて、ようやく”検討に入った”くらいだ。3600人の人員を減らす策も、2013年末までと悠長なことを言っている。さらに17人いる取締役の給与は、昨年の事故いらい半減されたものの、依然として平均1500万円だと言う。
 http://news24.jp/nnn/news89033708.html
 原発の被害者が、職を失い、収入を失い、離散している状態なのに、加害者側のリストラや賞与などを減らすことに慎重な態度で、じっくりと取り組むとは何事なのだ。
 
 国家公務員のことに話を戻すと、新卒採用の大幅な削減と同じ2013年度から、60歳で定年退職する国家公務員のうち、希望者は原則全員を再任用制度で雇用する基本方針案をまとめ、さらに、定年前の自主退職を望む人には退職金を上積みする「希望退職制度」の導入も検討すると言う。2013年度から、公務員らが加入する共済年金の支給開始年齢が65歳に段階的に引き上げられるのに合わせ、60歳から65歳の間の収入をつなぐ措置だ。2013年度の新卒者削減による支出の抑制は、けっきょく60歳以上の元公務員に食われてしまうことになるのではないか。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120322-OYT1T00222.htm?from=top

 年金の支給開始が60歳から65歳に引き上げられるために退職者を再雇用するというが、国家公務員の退職手当と共済年金の独自加算を合わせた2010年度の退職給付は2950万3千円で、民間企業の退職金と企業年金より402万も多い。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120307/plc12030717330007-n1.htm

 今の年金状況を見ると、65歳でも足らず70歳になる可能性だってあるし、さらにその後の世代は、きっと年金なんかもらえないだろう。しかも、就職することや、定年まで無事に勤めあげることじたいが益々困難な状況になっており、現在の高齢者のような貯蓄もできない。現在、政府がやろうとしていることは、今この時点の高齢者に配慮したものにすぎないのだ。
 2011年12月末時点の日本の個人の金融資産の総額は1483兆円で、
http://www.fmrd-kizuna.com/index.html/kojinkinyuushisan20120328.pdf
 そのうち60歳代が33%、70代が28%。
http://www.nli-research.co.jp/report/gerontology_journal/2011/gero11_007.pdf

 ローンとか子供の教育費から解放された高齢者の方が、金融資産が圧倒的に多く、そのほとんどが貯金になっている。そして、その貯金が、金融機関を通じて国債購入にあてられている。異常に膨れ上がった日本の国債残高(2011年3月末の国債発行残高は768兆円。それに対し2010年度の一般会計税収入は約39.6兆円)の1/2を保有しているのが、銀行や郵貯などの金融機関であり、1/4ほどが年金機関。実質的に、その2つが、国の借金を支えている。
http://rh-guide.com/saiken/kokusai_hiritu.html

 高齢者が貯金をたくさんする理由は、老後不安らしい。「十分な金融資産がないから」「年金や保険が十分でない」ということだ。人類が経験したことのない長寿国家で、長生きすることの不安に怯え、金融資産をためこんでいるということ。しかも、株式投資などのリスクの高い運用ではなく、低金利であっても銀行などに預ける。そのお金を、銀行は、国債の購入にあてる。政府は、様々な手法で金融機関を保護することで支配下に置き、国債を買わせているのだろう。
 老人の貯金→銀行が国債を購入→国の借金。この流れによって、国の借金の大半を国内でまかなうという状態ができている。
 しかし、普通に考えれば、高齢者がこれだけの金融資産を抱え込んでも、死ねば次世代に相続される筈だ。しかし、高齢化によって、高齢者の資産を相続するのも高齢者になってしまっているのだ。80歳以上の人が亡くなって、60歳前後の人が金融資産を相続する。その金融資産は、老後の不安に備えるために貯金にあてられ、銀行が国債を購入する資金となるという循環。
 つまり、どれだけ金融資産を貯めこんでも不安を拭えない高齢者の不安心理が、貯金を通して、国の運転資金となる国債購入につながり、その国債で、国は運営されている。
 こうして、今この一瞬だけを何とかごまかしながら、やりくりしながら、問題を先送りしているのが、現在の日本の状態なのだ。
  そして、未来を背負っていかなければならない新卒採用者のところから、人員削減を始めるという愚策を繰り出す大人社会。
 就職難のなか、高い子供の教育費や家のローンがのしかかり、貯金などする余裕もまったくない状態で、将来に対する不安を考える暇もなく、ただこの一瞬を何とかしのぎながら生きるという20代〜40代が、こうした政治状況にまったく期待できず、どんどんと政治から遠ざかり、政治と持ちつ持たれつの人たちだけが、政治に影響力を与えていくという構造。
 この状態から脱していくための簡単な答はないのだけど、一つ言えることは、戦後、大人が作り上げた価値観に従順になって、その仕組みの中に巻き込まることに対して、できるだけ抵抗することが大事なんだろうと思う。つまり、受験戦争とか、就活とか、将来に対する不安によって駆り立てられていることは、実は、大人が作り上げた”不安心理を利用した一種の洗脳なのだ。不安にさせることで、体制や既得権組に都合の良い仕組みへと巻き込み、その仕組みを強固なものにしていく企て”であることを、知っておかねばならない。
 不安の一時しのぎの為に、刹那的な消費生活に陥ることは、もっと悲しい。
 最近、若い人で増えている”シェア”という発想の生き方は、反消費主義の生き方であり、そこから新しい価値観や、これまでにない仕事の仕方や、不安を超越した生き方が育ってくる可能性もある。
 今の高齢者が引いた既定の道以外に、どんな道があるかわからないという人が多くいるけれど、無難・安全と言われた既定の道の先に何があるのかは、もう見えすぎるほど見えている。それとは違う方向で、どんな道があるかわからないけれど、もっと肩の力を抜いて、視野を広げて、道のないところを歩いていると、自然に道ができてくるということもあるだろう。
 不安を理由にする萎縮した生き方は、けっきょく今の多くの高齢者および、その予備軍のように、いくら貯金をしても不安を拭えないという結果しか残らないのだから。