戦後日本にも、こういう世界が残されていた。

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 一昨日訪れた能登で漁師の逞しさに触れて思い出したのが、この小関与四郎さんの九十九里浜の写真。小関さん自身も豪快な人だが、彼は、30年以上にわたって九十九里だけを撮り続けている。この写真は、戦後のものであり、ほんの30年ほど遡ると、日本にはこういう光景がまだ存在していたのだ。

 九十九里浜は、ご存知のとおり、砂浜の遠浅海岸であり港がない。だから、漁に出る時には、砂浜から海へ船を運び、戻ってきたら、海から砂浜に船をあげる。この重労働を、なんと女が負っている。とりわけ冬、水温が低くなると男の身体だと耐えられず、男よりも冷温に強い女に頼るしかないらしい。女は、凄い。

 九十九里浜の海岸は、戦後、護岸工事が繰り返され、かつての面影は急速に失われている。いくらコンクリートで固めても、台風に直撃されると壊れてしまうので、修復工事ばかりやっているらしい。さらに、海岸線をコンクリートで固めたため、近年、砂浜は急速にやせている。

 九十九里にかぎらず、日本各地で同じようなことが行われている。何百年、何千年と続けてきた人間と自然の営み。海に削られた陸は、他のどこかで砂浜となる。そのリズムを、この数十年の間で、人間が狂わせてしまった。

 人間は、欲心によって何でもかんでも自分のものにしたがるが、けっきょく、それ以上のものを失っている。

 堂々と裸になって海で働く女性達の神々しいまでの眩しい姿を、日本ではもはや見る事はできない。

 この写真は、風の旅人の第29号で特集した。