共同出版という名のいかがわしさ  

 自分が使っている媒体(風の旅人)が利用されることがあるので、ちょっと書いておきたい。

 最近、出版業界が不振であることは多くの人の知るところだが、そのため、写真集を発行する出版社はほとんどない。何年か前、新風舎という会社が、本屋に流通させるというふれこみで、けっこう高い金額をとって自費出版をして、大きな社会問題になった。その時は、ほとんど素人同然の人達もターゲットになり、新風舎の発行点数は、講談社を超えた。http://www.mynewsjapan.com/reports/519 

 あれほど露骨ではないけれど、現在、自費出版ではなく共同出版という形で、写真家達にお金を出させるビジネスが増えている。写真家達が自費出版だと割り切っていればいいのだけど、実際はそうではなく、写真家の心理にうまくつけこんでいる。

 いい仕事をしている写真家でも、現在の出版状況のなかでは、なかなか写真集を出せないし、雑誌などからも声がかからない。そういう人達がターゲットになっている。とくに若い人達は、この種のビジネスに免疫がないし、チャンスが欲しいので、狙われやすい。たとえば、共同出版の出版社が風の旅人に掲載した若手写真家に連絡をとって、「素晴らしい写真だ。我が社で写真集を出すかどうか検討したい」と褒める。それだけで、若手写真家は有頂天になる。そして、社長決裁で写真集を出す事になったと告げる。写真家がその気になったところで、今は、出版状況が厳しいので共同出版をしようと持ちかける。千部制作するので、半分の500部を買って欲しい、その500部は、定価の8割、写真家が買い取らなかった500部は書店に流通させると言うのだ。定価が2500円だと、その8割で2000円。500部だと約100万円ほどが写真家の負担になる。そして、残りの500部は書店に流通させるが、その販売利益は出版社がとり、写真家には印税は一円も払われない。もし500部全て売れると、2500円×500から書店流通の取り分の40%を引いて75万円が出版社の利益になる。

  共同出版という名で、出版社と写真家がリスクを折半しているような言い方だが実は違う。なぜなら、定価2500円程度の薄っぺらい写真集を1000部作るだけだと、今は印刷代が安いので100万円あればできてしまうのだ。つまり、写真家が出したお金で印刷はできてしまう。 共同出版と言いながら、原価は写真家に出させており、出版社はリスクを負っておらず、写真家に出させたお金で印刷して、その半数の販売を自分達の利益にしている。

 全体の半分を定価の8割でいいから買ってくれと言われると、なんとなく半分は出版社が負担しているように錯覚してしまうが気をつけなければならない。原価の8割ではなく、定価の8割だということ。定価は2500円でも、原価は1000円もかかっていない可能性がある。 本当に共同出版というなら、定価の半分ではなく、原価の半分を負担してくださいというべきなのだ。すると、100万円の負担ではなく、50万円以下になるかもしれない。

  そして、さらに写真家の心理につけこんで、初刷は印税無しだが、増刷になれば印税を出すと言う。写真家は、最初に100万円払っても、もしかして増刷にでもなれば・・・と期待を抱くのだ。でも実際は、写真集を出して1年以上経って、写真家が、「増刷の可能性はあるのかどうか、今、どれくらい売れているか」と尋ねても、「それはわからない。返本もあるから・・」などを分けのわからない言い訳をして煙に巻く。返本があろうがなかろうが、取り次ぎ流通を通して書店に流しているのであれば、毎月、売れた数が出版社に知らされる。書店は委託販売で、売れた分だけ出版社にお金を支払うので、出版社が売れた数を把握できないということは絶対にない。

 若い写真家は、この種のビジネスには気をつけてほしい。私は、自分の媒体が、写真家を褒める材料に使われているので、よけいに気になる。 この種のビジネスは、以前から出版社の一部が行っている。たとえば、上野の都立美術館で行われている日展とか二科展といった美術の公募展。あの入選者に連絡して、「入選おめでとうございます。素晴らしい絵です。今度、雑誌で二科展の特集をするので、●●先生達(その会の中では有名な人達)の絵と一緒に、あなたの絵を取り上げたい、承諾をいただきたい」と告げる。初入選の人はそれだけで舞い上がる。相手が承諾した後で、印刷経費その他をシェアして欲しいと言って10万円近く負担させる。そしてできあがった雑誌の中には、そうした手口に騙された初入選者の作品が名刺サイズくらいでズラリと並び、無料で掲載している有名人が何枚か掲載されているだけ。

 共同出版でも、写真家が支払う金額に見合ったものであるならばいい。でも、今は、プリオンデマンドなどでもわかるように、簡単に安く写真集はできてしまう。だから、自分で作ってしまえばいいのだ。実際にそうしている人は増えている。出版社だと売ってくれるというのは幻想だ。本を作っても書店に並ぶとは限らない。だって書店も、毎日届けられる莫大な出版物への対応で消耗している。書店に並んだところで売れるとは限らない。
500部くらいを出版社に売ってもらうために、多額のお金をかけるくらいなら、自分で売り方を考えた方がいい。何万部も売るのなら話は別だが、1000部くらいなら、やり方次第でなんとかなる。

 たとえば上にあげたケースだと、写真家は500部を100万円で買い取って、展覧会などを通じて全部自分で売り切った。写真家は、リスクを負って、プラスマイナスゼロ。 でも、もし自分で作っていたら、印刷会社にとられてしまった残りの500部も、自分で自由に使うことができた。写真集で利益は出ないという常識に縛られているけれど、写真集で利益を出す可能性もあるのだ。

 もし、共同出版の話がきたら、印刷会社に見積もりをとって(今はネット上で見積もりを依頼することができる)、その出版社が提示している負担金額が妥当かどうかを、検討した方がいい。 そして、出版社の流通力を期待しすぎないこと。SNSなどを活用して、自分のファンをしっかりと確保していく努力を行った方がいい。

 新風舎の時は、誰が見ても素人だとわかる写真で写真集が作られていたから、その欺瞞性に気づくことができた。でも今行われている共同出版は、そうではなく、実力があるのに写真集を出せない人がターゲットになっているので、わかりずらい。写真家達も、ベテランは、自費で作ったよと平然と言えるのだが、若手は、出版社が自分の作品を評価したから声をかけてくれたと思いたいし、人にもそう思われたいので、自分がお金を出していることを隠してしまう。もちろん、共同出版の出版社は、作品をある程度は評価している。リスクを負わないけれど、売れた分は自分達の利益にしようとしているので。でも、自分達がリスクを負ってでも(全額負担)やりたいというほどは評価していないということを理解していた方がいい。

 ただ、こういうビジネスも、そんなに長続きしないと思う。書店への流通制度じたいが、返本の山で崩壊しつつあるし、Amazonなど、ネット上での販売が普通に行われるようになってきているし、さらに電子書籍が増えてきて、その上、注文を受けてから一冊単位で本が作れるような時代になっているのだから、本づくりと,本の販売に関する古い概念は捨てるべき時なのだろう。出版社に本を出してもらう事、また自分の本が書店に並ぶ事だけで誇らしい気持ちになるという時代は終わりつつある。