軸にそって立ち、生きること

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 昨日の夕方、田口ランディさんが事務所に来て、色々と話をした。彼女は太極拳をやっている。この写真のお婆さんの写真(風の旅人の復刊第三号で紹介する木村肇君の”またぎの里”の写真)を見て、自分も、太極拳の成果で、このように両足がしっかりと大地をとられている感覚が具わってきたと言う。
 私は、こういう人間の姿形を見ると、惚れ惚れとする。なんだかすごいなあと思うのだ。
 その後、ランディさんは、私の事務所に置いてある歪な形の石ころを見事に積み上げてみせた。私は、それにも感心してしまい、自分もトライしてみたが、なかなかうまくいかない。左右アンバランスな形の石の尖った先端を、別の石の平ではない歪な表面に置いて立たせるのだから、簡単なことではない。手を離した瞬間、当然ながらすぐに倒れる。
 こんなのうまくいく筈がないじゃないかと匙を投げそうになった時、彼女が、「物事には軸というものがあるんだから、軸に沿って立てれば立つのよ」と言い、なるほど軸かあと心でつぶやいた瞬間に、石が立ったので、びっくりした。そして、その後、今に至るまでずっと、細い先端でアンバランスな全体を見事に支えて立ち続けており、倒れる気配すらない。これはいったいどういうことだと思う。

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 なんというか、常識的な力学とは違う原理が、この世界には宿っているのだ。常識的な力学というのは、左右に見た目が同じようなものを揃えることをバランス感覚というようなセンス。
 本当のバランス感覚というのは、そのように簡単に数式でも表せるようなことではなく、どう見てもアンバランスに見えるのに、細い先端で歪な形を支えて見事に立ってしまう世界。
 物事には軸というものがある。軸というのは、単に大地の上に立つ時にだけ関わってくるものではなく、生きていく全ての活動に関わってくるものなのだろう。整理しやすい、説明のつきやすいものだけを自分の周りに集めて、それでバランスをとっていても、見事さをまったく感じず、感動もない。
 「へええ、これとこれを組み合わせるか!」と驚きで瞠目してしまうような組み合わせを見事に実現している営みって、素敵だなあと思う。
 そういう意味で、現代人の営みは、どうにも予定調和で、傍から見ても大した興味深くもないし、やっている当人も面白くない。
 木村肇君が、この数年で撮ってきた”またぎの里”の人達の営みは、驚くべきものがある。”またぎの里”の人々は、狩猟だけをやっているのではない。焼き畑もするし、糸を紡いで織物もする。なんだかお伽噺の世界のようで、とても現代の営みとは思えない。

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 そして何よりも、人々の姿がかっこいいのだ。身体の軸、人生の軸がしっかりとあることが感じられる。木村君の写真の素晴らしさは、その軸をしっかりと捉えているところだ。彼もまた、写真家として、しっかりとした軸を持っているから、それが可能なのだろう。

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