日本の製造業を根本から変えていく、新しいスタイルのスゴイ仕事

 昨日、O2という会社の若い経営者 松本晋一さんと食事をした。
 http://www.busipla.net/companyDNA/o2-inc.html
 松本さんが、風の旅人の創刊号から第47号までの全巻を持っている読者であることがきっかけであるが、私が、前川製作所など老舗の製造会社とも色々な仕事をしているということを知り、会って話をしようということになった。
 私は、これまで各分野の色々なタイプのスゴイ人と数多くあってきたが、この松本さんがやっていることは、まさにこの時代の最先端であり、私自身も問題意識を持っている日本の物作りの現場改革に関係することで、非常に感銘を受けたり共感できるところが多く、久しぶりに大いに刺激を受けた。
 彼のスゴイところ所は色々あるが、無名のベンチャーでありながら、日本の巨大な製造企業の技術開発という核心部において、その改革のコンサルティングを請け負っていることだ。コンサルティングというと、MBAなどの資格を持ち、論理だけで実際は現場経験をもたない人がやっていることも多く、そのほとんどが実際の現場感覚から遊離していてうまくいかず、けっきょく人員削減などコストを切り詰めて利益を増やすという発想に陥ってしまい、その結果、会社の創造力が減退してしまったということが、この15年くらいの間に目立っていた。
 松本さんのO2は、そうではなく、口だけでなく手も出す。つまり自分達も現場に入り込み、現場の人達と一緒に問題に取り組みながら、改革をする。その改革というのは、サプライチェーンマネージメントではなく、エンジニアリングチェーンマネージメントの部分。これはすごいことで、私の知っている限り、この部分に特化してコンサルティングを手がけているところは知らない。
 サプライチェーンマネージメントは、調達、製造、物流など物の流れに関わる部分の効率化とコストダウンの為のマネージメントであり、これは多くの企業が、ここ数十年、改革を手がけてきたことで、かなりの水準に至っている。
 しかし、エンジニアリングチェーンマネジメント、つまり設計、開発の領域は、製造業にとって秘密の大事な部分であり、外部の人間にその改革を依頼することは、これまではありえなかった。それゆえ、内部の論理に染まり、自らを客観視することができにくく改革も進みにくかった。この部分に外部から入り込むことじだいが、奇跡的なことだと私は思う。
 ふつう、コンサルティングの会社というのは、コンサル経験者とか、MBA資格者とか、経歴に箔をつけた論理的なコンサルタントで構成される。しかし、松本さんは、そういう人材を集めていない。30名を超える社員は、みんな元技術者だ。この人は優秀だと松本さんが思った技術者を、松本さんが説得して仲間にしてきた。この現場感覚と実践主義が、口も出すけど手も出すという新しいコンサルティングを生み出し、それが大手企業の信頼を勝ち取ることにつながったのだ。
 日本の技術力はどうだこうだという言い方がよくされるが、技術というと、手先の器用さとか、アイデアとか、その程度のことだと思っている人がいる。それは昔の話であり、今、技術力を復活させる為には、複雑化して、どこまでが標準的な技術でどこからが独創的な技術なのか、技術現場自体に明確な線引きができておらず、経営資源が分散してしまい、独創の部分に集中できない構造がある。そこの部分にメスを入れていくことで、日本の製造業は生まれ変わる可能性があると私も思う。私はそう思いながらも、外側に立って、そう思うことしかできない。しかし、松本さんは、内側に入り込んで、自分が思うことに手を染めている。
 久しぶりに、ビジネスの分野で、新しいタイプのスゴイ人を見た。いろいろ世間で評判になるビジネスマンは、日本社会の既存のフレームに、新たなフレームを積み重ねていくタイプが多い。つまり、こんなものもあるよ、こんなやり方もあるよと、今までになかった何かをポンと出したり、アメリカで生まれたビジネスをいち早く日本に紹介することで優位性を獲得したりするタイプだ。目のつけどころの問題だけなら参入障壁が高いわけではないから、それがビジネスになると知って、そこに追随する人も多い。そうして、日本のビジネスシーンは、非常に多様で、各種のフレームが乱立して、顧客の関心の引き合いをしている状況にある。
 松本さんがやっていることは、そういうものとは異なる。日本社会で最も雇用者数が多い製造業という分野の、設計、開発という心臓部において、既存のフレームに新たなフレームを付け加えて複雑化していくのではなく、逆にシンプル化して、本来の創造性が発揮できるように改革するという仕事。そして、自分が所属する一社ではなく、コンサルという手段で多くの企業で実践していくこと。そのことが日本社会にもたらす影響は、甚大なものになるだろう。

 もし、この仕事が、巷に無数にある参入障壁の低い新たなビジネスモデルのようなもので、多くの人が参入して成果を出せれば、日本の製造業、そして日本社会は、根本の部分からあっという間に一新されるだろう。

 しかし、この仕事は、そんなに簡単にできるものではない。アマチュアをそそのかして稼ぐのではなく、物作りのプロを相手に、信頼を勝ち取っていく仕事なのだから。


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