デジタル力を包含するアナログの力?

 ソニーが相変わらず厳しい状況に置かれているが、これは”物事の考え方”の転換を示す象徴的な事態ではないかと思う。

 ソニーが、2015年3月期の連結純損益予想を下方修正し、2300億円の赤字になるとの見通しを発表し、株式上場後、初の無配となった。その最大の原因とされているのが、スマートフォンの販売不振ということなのだが、その内容は、今年の5月に、2015年3月期のスマホ販売台数の見通しを前期比28%増の5000万台と発表したのが、その後、3ヶ月足らずで700万台減の4300万台になる見通しだからだそうだ。そして、ソニーは、今後、スマホ事業で”規模”を追うのをやめ、収益を重視する戦略に転換し、先端技術を搭載したスマホが評価される先進国市場で頑張るのだそうだ。

 5000万台というとてつもない数量を前提とした経営戦略を組み、それが4300万台(これまたかなりの規模であるが)の見通しになってしまうことで大赤字になってしまった。そして規模から収益重視に転換するというが、その結果、4300万台という数字がさらに大幅に減った場合、収益性の向上によって数量減の損失分を取り戻せるのだろうか。量から質と口先で言うのは簡単だが、経営構造というものは畑で言えば土壌のようなもので、そんなに短期的に改良できない筈だ。
 たとえば、同じ今朝の新聞に京セラのスマートフォンの業績が出ていた。京セラは、防水性や防塵性、対衝撃性が高い端末で差別化をはかり、北米向けに根強い人気を得ており、世界販売台数は、前期比17%増の1400万台の計画で、利益率が大幅に上昇する見通しだ。一般的な人々が求める標準的な機能面の充実をはかり、多くの人の支持を得るという規模の戦略と、独自の品揃えで他者との差別化を行なうという戦略は、根本的に違う。前者は、強いところが圧倒的なシェアを握る傾向があり、競争相手の動向によって5000万台の計画があっという間に4000万台とか3000万台になってしまう。圧倒的に存在感を発揮するか、ちょっとした手違いで大敗北するかであり、自分達の努力を超えたところで形勢が決まることが多く、先が読むことが大変に難しい。
 最初から自社の強みを活かした特定の層向けの商品を作り、販売計画もそれに見合ったものにする経営構造ならば、自分達の努力が結果につながる確率が高くなる。そして、特定商品に企業の命運を賭けるという一点勝負ではなく、自社の特長を活かし、経営資源を共有化できる商品やサービスを他に持つ事で、経営リスクを分散できる。
 ソニーは、つい最近の不振では、テレビやパソコン、そして今は、スマートフォンプレイステーションイメージセンサーという、時流に添った部分を中心事業とし、勝つか負けるかの大勝負をするという経営戦略に陥っているように見えて、危なっかしくてしかたがない。
 アップルが、自らの企業イメージを最大限に活かしながら、特定商品で世界の圧倒的なシェアを握るという戦略で、効率性と利益率の良いビジネスモデルを構築したものだから、その路線を見習っているのかもしれないが、欧米流の徹底したデジタル的な合理精神が、いくら欧米人の取締役が多いとはいえ日本人社員が主体の会社に適しているかどうか疑問だ。もちろん、日本にも欧米流のデジタル的な合理精神は、かなり浸透している。しかし、これだけ各分野の発展と洗練が極まり勝負が紙一重の状況の中で、そこから頭一つ脱け出す為の思考と戦略が、欧米の後追いで学んだものにすぎないのであれば、今後も不利な状況がずっと続くだろう。
 というよりも、アップルをはじめ世界的に成功している新興企業は、もともと備えている徹底したデジタル的な合理精神にくわえて、後天的に、アナログ的な、感情を含めた、使う側の立場に立って考えるという、数値や言語で簡単に分節化できない微妙な領域を、とても大切にするということに力を入れている。
 ジョブスがいたころのアップルの商品開発は言うまでもないが、Amazon楽天の比較でも、そういうことを強く感じたことがあった。
 楽天は日本を代表するオンライン会社だが、先日、商品購入の振込におけるトラブルがあった際に、硬直したデジタル思考の現場社員の対応に驚いたことがあった。一言で言えば、応用力、類推力(アナログ)がまったくなく、マニュアル通りの機械なのだ。
 請求書を私の古い住所に送り、それが楽天に転送され、そのまま10日ほど放置して電話で請求してきたが、1週間ほどの遅延のペナルティとして250円ほどを加算して支払えという。楽天に請求書が転送された時点で連絡をしてくれば遅延料は発生しなかった。しかも、住所変更は郵便局に届けていたが、楽天がなぜか転送不可の郵便で請求書を送付していた。私は、買い物の発送先を新住所にして購入したが、カードの住所が旧住所だった為に、請求書が旧住所に送られたのだった。楽天社員は、そもそもカードの住所が古いのが悪いと一点張りだ。しかし、楽天のオンラインサイトで購入の時点で打ち込むのは新住所であり、当然ながら、そこに請求書が送られてくると購入者は思うものだと主張すると、そう思うのは購入者の勝手であり、手続きに関してはオンラインの契約書の中に書いてあるので、それに従って、遅延料の250円を払えと言う。私も経営をしているので、経営判断としては、請求書が自分のところに戻ってきた時点で10日間も放置することに問題がある。すぐに対応していれば、遅延料は発生しない。そのように告げると、楽天の担当オペレーターの上司だという者が、(忙しいので)個別対応はできないと言う。250円という金額は僅かだが、対応に呆れてしまい、楽天カードは解約した。
 その後、なぜか現場の上司のさらに上司が電話して謝罪してきたが、もう後の祭りだと答えた。250円は僅かな金額だが、ことの流れは些細とは言えないので、経営上層部と話をして今後の対策を練った方がいいよと言った。
 似たような事件がAmazonでもあったが、Amazonの場合、現場社員に応用力、類推力があるというよりも、個人にそれを求めるのは難しいという前提で、最終的に企業にとってどちらがメリットがあるかという判断を盛り込んだ、相手の心象を害さない対応がマニュアル化されているという印象だった。上司に相談することもなく、現場社員がすぐに判断したのが意外で驚いたことがある。
 楽天は、ガラパゴス化の著しい日本国内においては勝者だが、その傲りがあり、気付かず改善されないかぎり、現在のソニーのようになっていく可能性はある。もちろん、アップルやAmazonだって、我が世の春を謳歌しているあいだに頭が硬直化し、組織が官僚化し、衰退していく可能性はある。
 ソニーは、私が旅行会社の役員をやっていた15年くらい前、添乗員とツアー客のあいだのガイド用のイヤホンサービスの導入において、ソニー製の機械に大きな問題があったのだが、販売代理店の説明の問題だと言い逃れを繰り返し、自らの保身の為に、自らのイメージが傷つくことを極端に恐れ、結果として自らのイメージを大きく損なっているということに気付かないプライドの高い社員の対応に辟易としたことがあった。その時以来、ソニー製品は買わないし、それ以前に、テレビや新聞などでトップが会見したりしている時など、あのトラブル時の印象と同じような企業体質が透けて見えて、商品や会社に魅力をまったく感じなくなった。 
 今日の新聞の平井社長の一問一答でも、「中国メーカーが躍進し、競争が激化した。外部環境が変化している」とあるが、5000万台の見通しを発表した時点から3ヶ月程しか経っておらず、それで”外部環境が変化している”という言い訳ができてしまうのならば、今後も、同じような言い訳を何度も聞くことになるのだろう。
 

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