第946回 散るからこそ知る有り難み


 昨日の春の嵐で、桜はかなり散ってしまったけれど、緑は、一段と濃くなった。これからが春の本番。心の辛さは残り続けているけれど、だからこそ、あの頃の何でもないような日々が、とても幸福な日々だったということがよくわかる。
 辛さを経験しなければ、気づかなかったのかもしれない。後悔もたくさんある。でも、時間は逆戻りにはできない。人は誰でも、何かしらの選択をして生きていくしかなく、その選択を後から悔やんでもしかたがない。考えてもしかたないことを考えても何にもならない。全て宿命として受け入れるしかない。
 辛いことに直面しなければ、人生における様々な価値に気づかないかもしれないのだから、どんな選択も、人生の経験を深めるものなのだろう。
 桜も、散る運命であるからこそ、美しいのであって、いつも花を咲かせていれば、その価値はわからない。散ってしまうからこそ、思い入れも強くなる。そして、散ってしまっても、いつか必ず咲いてくれる。今年の桜を見逃しても、また来年があるのだ。
 いろいろと悔やむこともあるが、もしも、今の辛い状況を抜け出すことさえできれば、何でもないような日々の有り難みを、以前よりも強く感じながら生きていけるのであれば、これも恵みなのだ。
 そう信じて自分を支え続けていれば、花は咲いてくれるだろうか。