第1058回 今、認知症やそれ以外の理由で徘徊や失踪の恐れのある人を介護している人に、お伝えしたいことがあります。

 今、認知症やそれ以外の理由で徘徊や失踪の恐れのある人を介護している人に、お伝えしたいことがあります。
 背中とか、どこか明確なところに、名前と保護者の電話番号を目立つように書いてください。
 というのは、現在、タクシードライバーの中には、経験が浅くてナビやオートマに頼っているだけの人も多く、プロとしての勘を働かせられる人ばかりとは限りません。
 乗せた客が、たとえ手ぶらで着の身着のままにもかかわらず、はるか遠方の場所、九州の博多とか東京と行き先を告げて、「お金は着いた時に家族が払う」と無責任なことを言っても、なんの疑問も覚えず、そのまま行ってしまうドライバーがいます。20万円ほどの料金になることがわかっていても。長時間のドライブの前に到着先の家族の電話番号を聞いて支払いの承諾の確認してから出発するのではなく、そのまま行ってしまうということが起こります。
 そうすると、いくら捜索願を出していても、全国的な範囲となってしまうため、行方不明者が、非常に引っかかりにくくなります。
 本人が自分の名前をはっきり言えば、保護された時、もしくは料金未払いで警察の拘束された時に、パソコンの検索で身元不明者だとわかりますが、その本人が、自分の名前をはっきりと名乗れるとは限りません。記憶喪失だったり、違う名前を信じ込んでいるということだってあります。
 そうすると、どこの誰かわからない人間がお金を払う意思を持たないままタクシーに乗ったということで、その未払いの金額のために、タクシー会社が被害届を出します。その時点で保護者なり引き取り人が誰かわからない状態が続くと、無賃乗車の被疑者の逃亡を防ぐため、逮捕されて留置所に入れられてしまいます。さらに、保護者とのつながりが不明なままの状態が続くと、刑事ではなく検察の案件となり、検察の指揮下での逮捕状態ということになります。
 いったんそういう状態になると、刑事もさすがにそのままにはできないので、ようやく身元不明者との確認を丁寧にやりはじめます。しかし、身元不明者の捜索願の数は膨大で、名前がわからず顔写真だけだと、照会のためにものすごく時間がかかります。
 そして、ようやく身元がわかり、保護者に連絡が行き、保護者が引き取りに行き、説明を行っても、すぐに釈放されません。タクシー会社が被害届を取り下げるための手続き他、時間がかかります。しかも、保護者は刑事と会うことができても、検事に直接会うことはできません。検事の指揮下となっている案件だと、刑事がいくら事情を理解しても、その事情を検事に伝え、検事が、”事件解決”の様々な仕事をしてはじめて釈放となります。
 それでも健常者が拘留されている場合は、日数がかかろうとも、待っていれば檻の外に出られることはわかっているので、辛くても、ひたすら待てばいいのです。
 しかし、もしも、高血圧や糖尿病やそれ以外の薬を飲み続けなければいけない人であった場合、刑務所に拘留され続けているあいだは、家族が持っていった薬を飲ませることはできません。外からの薬は一切禁止です。
 たとえば薬を飲めていないことの症状が檻の中で出ていたとしても、留置所の職員がその症状が何なのか気づかなければ、そのまま放置されます。
 そして、ようやく保護者がわかり保護者が病状を説明してもダメで、通院している主治医と連絡をとり(お医者さんも忙しいので必ずすぐ連絡がとれるとは限りません)、症状を聞き出し、そのうえで、警察署の担当者が、その症状に対応できる病院を探し、病院に協力を依頼し、その病院の医師が診断を行い、そのうえで薬を処方してはじめて、その薬を飲むことができます。
 そうした複雑な諸手続きがあり、いつ薬を飲むことができるかわかりません。
 飲まなければならない薬を飲めないという状態のまま、検事が事件の解決と判断し、定められた仕事を終了しないかぎり、拘留は続きます。検事も忙しいので、すぐにその仕事をするとはかぎりません。
 最低10日ならば、まあ大したことないと思えるのは、健康な人間が拘留されている場合です。そうでなく、何かしらの病を抱えていて薬を飲めないという状態ならば、経過していく1日1日は、地獄のような思いとなります。
 繰り返しになりますが、認知症などの徘徊が、近場で起こっているとは限りません。そういう人を安易に遠方まで連れていってしまうタクシードライバーが存在します。保護者の想像をはるかにこえた所、行方不明の搜索の範疇をはるかに超えたところに、高速道路などを使ってあっという間に行ってしまっているケースもあります。
 さらに、その場所で、留置所に入れられて、しばらく出てこれないという事態に陥っているということも、ありえます。さらに、飲まなければいけない命に関わる薬を飲めず。さらに、ようやく保護者が特定化できても、そこから様々な手続きを踏まなければ、必要な薬を再開できないという恐ろしい事態です。
 そのあいだ、たとえ居場所がわかっていても、自分の懐に保護できず、不安に苛まれる日は続きます。
 今、認知症やそれ以外の理由で徘徊や失踪の恐れのある人を介護している人に、お伝えしたいことがあります。
 背中とか、どこか明確なところに、名前と保護者の電話番号を目立つように書いてください。