第1324回 石垣づくりの奥義と、未来の可能性。

 

 岐阜県中津川の苗木城あたりは、日本三大ペグマタイトの地、つまり宝石の産地。

 ペグマタイトは、主に花崗岩地帯に生じるが、中津川は、花崗岩の奇岩がゴロゴロしている。

 巨石とか大樹は、古くから信仰の対象だが、神籬(ひもろぎ)など神を迎えるための依り代となる前、縄文時代は、おそらくこれ自体が「神」だった。

 造形的にも人間の心を深く揺さぶる巨岩や大樹を、古代人は、ふだん目に見えない神が顕現化したものと実感していただろうが、それらは視覚的に圧倒的な存在感があるだけでなく、実際にエネルギーも発している。現代人は、こうしたエネルギーに対して鈍感になっているが、古代人は、鋭敏にそれを感じていた。

 

 

 岐阜県は、日本で最も自然放射線が強い場所だ。2011年の東北大震災の時の原発事故で、ガイガーカウンターによる放射線測量が各地で行われて、こんなところにも原発事故の影響がと不安になった人もいたが、もともと日本各地の古代からの聖域の多くは自然放射線がとても強くて、ガイガーカウンターに反応する。

 といっても原発事故のような害があるわけではなく、むしろ、良いエネルギーと言える。だから、ラジウム温泉が古代から湯治場になっている。

 地下深くから発せられている放射線や、放射線を浴びた水や気体は、人体に害はない。問題となるのは、放射線を帯びている微粒子であり、これが体内に入り込むと内部被曝を起こし、癌などの原因になる。

 アメリカ先住民の聖域がウラン鉱の上にあり、「決して地面を掘り起こすな、もし掘り起こしたら災いが起こる」と、古老たちが言い伝えてきたのも同じ理由だ。

 岐阜県瑞浪にも日本最大級のウラン鉱脈がある。廃坑になったウラン採掘鉱が、核のゴミの最終処分場に適しているかどうか研究が重ねられてきたが、断念された。

 恩恵と災いは、常に逆転の可能性がある。日本人は、「禍福は糾える縄のごとし」を人生の教えとしてきた。

 神社のしめ縄のように世界の構造は捻れている。捻れが、銀河宇宙のような秩序を形作っている。生物のDNAもまた同じだ。

 綺麗なものと汚いもの、真と偽、正解と間違い、物事は0か1に分断されたままではなく、時に応じて、0が1になり、1が0になる。

 近年、人工知能が人間を凌駕するのではないかという議論が盛んだが、量子コンピューターならともかく、古典コンピュータをベースにした人工知能に、0と1の捻れが、理解できるかどうか。

 巷で人気のCHAT GPTが作り出す文章の気色悪さは、テレビキャスターが発する言葉とも似ているのだが、世間的な正しさの典型を、淀みなく惑いなく伝えることを優秀さの証としているところだ。

 正しさだけでなく、面白さや、新しさや、賢さといった基準が典型的なものに固定されていく傾向が、ここ数十年、顕著になっているが、AIは、その傾向を加速させるだけなのか、それとも、捻れの可能性の幅を広げてくれるツールなのか。

 表現界においても、捻れのないものの方が世間に受け入れられやすいが、捻れの弱いものは、記憶からも消えやすい。

 世界の実態や本質から離れてしまっていることを、人間の無意識が察知しているからだろう。

 古典コンピュータは、エンジニアリング的発想の産物だが、400年以上の歳月を経てもビクともしない石垣は、古典コンピュータ(AIも含む)では作れない。

 多種多様な大きさや形の石材を寄せ集めて組み合わせる石垣づくりの奥義ことが、ブリコラージュだ。

 エンジニアリング的発想を基にした近代合理主義の行き詰まりからの出口は、必要に応じた寄せ集めによって0になるか1になるかが変わってくるブリコラージュ的発想であり、次の時代のコンピューターである量子コンピュータには、それが可能かもしれない。

 5月20日(土)、21日(日)に京都で行う「日本を深く掘り下げるためのワークショップセミナー」では、地理や地質的な側面からも、アプローチします。(2日に分けてではなく、同じ内容を両日とも行います)。

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