宇多天皇が創建した仁和寺で平寿夫さんの「熊野」に関する写真展を見た後、帰り道にある太秦の蚕の社へ。
宇多天皇は、日本で最初の法皇だが、熊野は、出家した宇多天皇が、たびたび修行のために訪問した場所である。
宇多天皇が、なぜ出家したのか? 様々な説があるが、私は、様々な制約のある天皇の身分を離れることで、改革を、より推進しやすい立場になろうとしたのだと思う。(宇多天皇は、平安末期の白河上皇などの院政の先駆けである)。
京都の太秦に鎮座する蚕の社は、日本では珍しい三本の鳥居で知られている。
この三本の鳥居が何を意味しているのか? どこを向いているのか? と色々な議論がある。
蚕の社は、秦氏関係の神社だとされるので、京都の秦氏関係の聖域、西の松尾大社と東の伏見稲荷大社、そして、北は、秦氏のものだとされる古墳のある双ヶ丘を指していると指摘している人たちが多い。たぶん、ネットで検索したら、そのように説明されているだろう。
しかし実際に線を引いてみるとわかるが、東は伏見稲荷大社ではない。
蚕の社から冬至の日に太陽が沈む方向に松尾大社が鎮座しているが、その松尾大社の真東で、蚕の社から冬至の日に太陽が昇る方向にラインを伸ばすと、現在は、壬生寺が存在している。
しかし壬生寺の創建は10世紀の後半で、それ以前、このあたりは朱雀院があった。
朱雀院というのは、天皇が法皇となった後に居住していた御所であり、日本初の法皇である宇多天皇が、ここを整備して、居住していた。
宇多天皇は、菅原道真を重用したことは、よく知られている。その道真が太宰府に流されて亡くなった後、宇多天皇は法皇として、道真がやり残した改革を行っている。
その改革とは、人頭税を廃止して、土地そのものに税を課するもので、律令体制の終焉を意味する。
当然ながら、既得権組(人頭税だからこそ潤った荘園経営の貴族たち)は反対するのだが、地方豪族化していった勢力は、この改革を後押しした。なぜなら、土地の計測や収穫を管理する地方豪族者の権限が高まるからだ。この改革の流れから、武士が生まれることになる。
宇多天皇というのは、もともと源氏の身分であり、天皇になる予定がない人だったが、急に抜擢された。おそらく、その背景には、改革を推進したい勢力がいたことだろう。
宇多天皇というのは、母親が、班子女王という渡来系の当宗氏の血を引く女性だった。
当宗氏というのは、桓武天皇の時に将軍として活躍した坂上田村麻呂の坂上氏の系統とされるが、坂上氏は、渡来系の東漢氏である。
そして桓武天皇もまた、母親の高野新笠が、土師氏の母と、百済系渡来人の和氏とのあいだの娘だった。
土師氏は、渡来系の秦氏と同じだとする説もあるが、このあたりは詳しくはわからない。しかし、宇多天皇が重用した菅原道真は、土師氏の末裔である。
こうした背景を踏まえて、蚕の社の3本鳥居の位置を改めて見直すと、北には秦氏関係の双ヶ丘があるが、その北に、宇多天皇が創建した仁和寺があり、さらにその北に宇多天皇の大内山陵がある。
そして仁和寺の真東が、菅原道真を祀る北野天満宮である。
つまり、蚕の社の3本鳥居が示している方向の西の松尾大社と北の双ヶ丘が秦氏関係であるが、東の壬生の朱雀院は、宇多天皇が法皇となった後、改革を継続するために指揮を執った場所であり、北には、宇多天皇の陵と、宇多天皇ゆかりの仁和寺がある。
明らかに、宇多天皇が、かなり深く関係しているように思われるのだ。
なぜそうなのかと考えると、おそらく、10世紀、菅原道真を重用して改革を進めようとした宇多天皇の背後に、東漢氏や秦氏など渡来系勢力がいたからだと思われる。
これらの渡来帰化人は、東漢氏系の坂上氏が、摂津の多田に拠点を置いた清和源氏の武力の要となっているし、秦氏の後裔である惟宗氏も、地方を統括する郡司などに多くの名が見えるが、後に、島津氏や安芸氏や宗氏などの武士勢力となっている。
その転換期が、10世紀の宇多天皇と菅原道真の怨霊騒ぎの時代であり、太秦の蚕の社の三本鳥居がいつ作られたかは謎なのだが、その位置関係からして、その変革と無関係ではないだろう。
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