マイクロソフトが、AIに最も影響を受けやすい40職種と、安全とされる40職種を発表している。
翻訳者・通訳者、歴史研究者、作家、カスタマーサービス担当者、テクニカルライター、ジャーナリストなど言語や情報処理中心の職種が、AIによる代替えリスクが高い分野であり、手作業や肉体労働、人間の接触を要する職種、例えばマッサージセラピスト、看護助手、清掃員、建設作業員、道路整備作業者などはAIとの親和性が低く、「現時点では安全」と評価している。
しかし、このように「職種」で仕分けする発想じたいが、古い思考だという気がする。
どの「職種」に属していたら、安全か、危険か、ということではないだろう。
最新の翻訳・通訳機械の発展に驚かされているので、翻訳者や通訳者の分野や、実際に大量解雇が進んでいるプログラマーなどはわかるにしても、代替えリスクの高い職種に、作家や歴史研究者が含まれているのは、けっきょく、今日の「作家」や「歴史研究 者」を名乗る人で、その程度の人が多く含まれすぎているということだろう。
ドストエフスキーの「罪と罰」や、ガルシアマルケスの「百年の孤独」や、源氏物語を、生成AIが作り出すようなことになれば、それはもう人間の領域を凌駕するレベルだと認めざるを得ないけれど。
営業職においても、出来合いの物をセールスするだけなら、AI以前のネットショッピングでさえ代替えできてしまっている。
しかし、日本企業の中で最高年収とされるキーエンスの社員の営業を、AIが簡単に代替えできるとは思ない。
相手のニーズを相手以上に読み取り、それに応えるものを具体的に提案し、納得させ、すぐに、相手の固有のニーズに即したオリジナルのものを設計して、実際に作り出してしまい、納品までの進捗を見守りながら、適時、手を打っていき、納品後も、適時、フォローしていくという営業スタイル。
これをAIが簡単に取って代ることができないと思うのは、文字化されていない暗黙知の領域が大きいからだ。つまり、機微や気配を読んで察する能力。思考力と想像力と洞察力と創造力と、瞬時の的確な修正判断。
こうした優れた能力が求められる営業は、生き残る。そういう意味で、通訳者だって、作家だって、歴史学者だって同じ。これらもまた、マイクロソフトがAIによる代替えリスクが低いとみなす「手作業や肉体労働、人間の接触を要する職種」と同じく身体を通じて現場を知り尽くす仕事になっていれば、社会にとって、人類にとって大事な仕事であり続けるだろう。
歴史学者に限らず、生命学者を名乗る人でも、自分ではオリジナルの研究を行わずに、他の研究者たちが創造したアイデアなどを一生懸命に勉強して、あれこれ生命に関する論を述べている人は、AIが最も得意とすることだから簡単に代替えされてしまう。そういう人は、そもそもが生命学者でないということ。
「作家」も、「学者」も、「ジャーナリスト」も、いわゆる肉体労働ではなく知的労働だからということで、マイクロソフトは、AIによる代替えリスクが高い分野にくわえているのだろうけれど、その人たちがアウトプットするものがオリジナルでないにもかかわらず、その肩書でお金を稼いだり社会的なポジションを得ることは、もはや難しいと言い換えた方がいいのだろうと思う。
そういう意味で、現在は、アーティストとかフォトグラファーとか、映画監督とかフォトジャーナリストとか、なんとか学者とか、なんとか研究者とか、なんとか大学の教授とか、その内実は大して深みがないのに、肩書によって「箔(はく)をつけたがる人が溢れかえっている時代であり、にもかかわらず、その肩書を鵜呑みにして騙される人も多い時代であり、肩書が無意味化されて内実とだけ向き合える時代になるのなら、その方が、人間精神として良好な方向なのかもしれない。
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