「風の旅人」の背景?

naomi obata様

 創刊号から読んでいただいているなどというのは、本当に有り難いことです。
 創刊号は思い入れが強すぎて破綻しているかもしれませんが、あそこに、その後のいろいろなことが象徴的に凝縮していますから。
 「風の旅人」は創刊号と6号と9号をまず見ていただきたいと思っています。
 
 「風の旅人」は、ユーラシア旅行社の一事業として私が創刊し、編集はずっと私1人で行っています。
 よく私の個人的な趣味のように言われましたが、趣味ではなく、会社の事業として採算ベースや販路もしっかり考えて始めたのです。
 一般広告をとらなかったのも、理由があります。ユーラシア旅行社は、一般の旅行会社のようにお土産物屋にお客様をお連れしてコミッションを懐に入れるということを一切やらない稀有なる旅行会社です。大半の旅行会社は、旅行そのものから収益を得ているのではなく、お土産物屋からのコミッションが収益なのです。ですから、現地で迎えにくるバスもガイドも、お土産屋の手配というのが大半です。
 ユーラシア旅行社はそういうことはやらず、旅行そのものの品質をあげ、そこから利益を得ることを戦略の中心に置いてきました。最初の頃はきつかったですが、そういうスタンスが評判を呼び、70%という高いリピート率を誇るようになりました。それゆえ、一般の旅行社が集客のために常に広告を打たなければならないのに対し、ユーラシア旅行社はその必要がなく、9.11テロのような緊急事態においても広告費をいっさい使わずそこそこ集客できたため、赤字決算にならなかったのです。
 旅行会社は値下げ戦争とお土産物のコミッションに頼るという不安定な経営をしているところが多く、経営も不透明で、8000社ある会社のうち、上場企業は、4社(HIS、近畿日本ツーリスト、ニッコウトラベル、ユーラシア旅行社)しかありません。
これは、広告収入に頼る経営体質で非上場企業の多い新聞社や出版会社の体質とよく似ています。上場が必ずしも良いというわけではありませんが、上場する場合、経営が透明でなければなりません。
 また、ターゲット設定の問題があります。不特定多数の大勢を相手にすると、そこに巨大なマーケットがあるようにも感じますが、その流ればかり追うと、こちらに主体性がなくなり、独自性もなくなり、存在価値もなくなり、うまくいきません。また、大きなマーケットということで参入企業も多くなります。
 ですから、そういう考えではなく、最初から、確実に存在するだろう1000人に1人に焦点をあてた仕事をするという発想です。1000人に1人でも10万人です。ユーラシア旅行社の顧客は60,000人です。その人々の信頼を掴み高いリピート率を実現できれば、うまくいくのです。
 駅前に旅行の営業所を開いて、道行く人に尋ねたら、たとえばアンコールワットに行きたいという人は、1000人に1人で、ハワイだと3人に1人かもしれません。ですから、駅前店舗でアンコールワットの旅行を販売するのは効率が悪い。ハワイの方がいいかもしれない。しかし、同じエリアにハワイを販売する旅行社はたくさんある。そのなかで泥仕合を演じるという方法もあるでしょうが、ユーラシア旅行社はいっさいそういうことをやってきませんでした。
 日本国中を探せば、アンコールワットエチオピアに行きたいというニーズを持った人はけっこういます。ですから、ユーラシア旅行社は、他社に先駆けて、そういうニーズに応える体制を整えてきました。その人たちは、近くの旅行会社では頼めないので、北海道や日本海側からでも、ユーラシア旅行社の東京本社に予約を入れてきます。
 ユーラシア旅行社は、おそらく旅行会社では異例の一店舗体制で、60,000人の顧客とコミュニケーションをとることができているのです。