第1315回 世間と渡り合う術を持つこと

このたび、写真家の新田樹さんが、「Sakhalin」という作品で、林忠彦賞と木村伊兵衛賞のダブル受賞をされた。 写真界の賞で、同じ年のダブル受賞は珍しい。(これまでは、できるだけ違う人を選ぶ、みたいなおかしな風習があった)。 林忠彦賞は予測できたが…

第1314回 酒=避けの神は、現代と未来の境の神でもある。

オオヤマツミ神社(愛媛県今治市) 古代、文字のなかった時代、「トポス」がとても重要だった。 トポスというのは、古代ギリシャ語で「場所」を意味するのだが、足場であり拠点であり、思考を進めるうえでの手掛かり、論点、定石といったものを含む。 つまり…

第1313回 ”酒”の神は、”避け”の神。

(京都 梅宮大社) 前回のエントリーで、酒というのは、厄災や悪霊を防ぐ「避け」であると書いた。 神事において清めに酒が用いられるのも同じ理由であり、日本三大酒神神社のうち、酒神といえるのは、京都の梅宮大社の酒解神(大山津見神)だけであるとも書…

第1312回 一つのことを知るためには、その背後の複雑なつながりのことも知らなければならない。

梅宮大社。酒解神の聖域。 一つのことを知るためには、その背後の複雑なつながりのことも知らなければならない。 他者を知ることも、歴史を知ることも同じであり、だから、どうしても説明が長くなってしまう。簡潔な答を求めることが癖になっている人は、そ…

第1311回 頭を使って考えるということは?

AI(人工知能)を使った文章生成ソフトのChat Gtpは、思考しているように見えて、実は、何も考えていないそうだ。 このソフトのカラクリは、一つの言葉の次にどの言葉がくるべきなのか、確率的に高いものを選び取る機能にあるらしい。 この半年間、Chat Gtp…

第1310回 大江健三郎氏に対する複雑で捻れた心情

大江健三郎氏が亡くなった。 ノーベル文学賞作家の死なので、各界から、品のいい賞賛や哀悼のメッセージが色々と発せられるだろうが、私の人生のなかで、この人の存在は捻れていて、とても複雑である。 私は、20歳までは彼の熱心な読者だった。『飼育』と…

第1309回 The creation vol.2  天と地の曼荼羅

「The creation vol.2 天と地の曼荼羅」が、まもなく完成します。 昨年発行したVol.1では、富士山の麓の生物たちのミクロコスモスをご紹介しましたが、今回の Vol.2では、「富士山」そのものの多彩で深遠な表情を、曼荼羅をテーマに構成しました。 詳細、お…

第1308回 自由からの逃走

エーリッヒフロムは、ナチズムに傾倒していったドイツのことを深く考察し、「自由からの逃走」という本を書き上げた。 ドイツ国民は何が原因であのような状況となり、また何に導かれてあのように進んで行ったのか? 一人ひとりは、真面目で、誠実で、決して…

第1307回 古代、東国は、本当に後進地帯だったのか!?

明日の3月4日に行う「現代の古代のコスモロジー」のワークショップセミナー。本日、風邪を引かれた方のキャンセルが出ましたので一名の空きがでました。 今回は、武蔵国(東京とその周辺)を掘り下げます。 一般的な歴史認識だと、日本の歴史は近畿を中心に…

第1306回 ”ことば”と写真家の関係

「写真集制作のためのポートフォリオレビュー」というのを始めたのだけれど、写真表現を行っている人で、「文学には興味がない」とか、「自分は言葉が苦手だから、言葉にならないことを写真で表現する」などと軽々しく言う人がいるけれど、果たしてそれでい…

第1305回 いのちを繋ぐ力とは

若い友人に返答するための文章を書いていたら、「コスモロジー」というテーマで、本作りやワークショップを行っている自分の潜在意識が浮かび上がってきた。 「Sacred world」の本作りにおいて、私は、古代史研究をやっているつもりはないし、写真においても…

第1304回 われらの時代の終焉(3)

現在、私が行っているワークショップセミナー「現代と古代のコスモロジー」でも、重要な鍵を握るテーマなのだが、私は、ブリコラージュ型の思考や仕事と、エンジニアリング型の思考や仕事について意識的に話をしている。去年の11月に行ったスタンフォードの…

第1303回 われらの時代の終焉(2)

私は、ここ数年、20年前の印刷技術革命よりさらに進化した新しい印刷方法によって本を作り続けていて、その方法も公開し、友人の写真家にも伝えているのだけれど、彼らの腰は重い。 写真業界に比べて新しいことに柔軟なのがアニメの人たちで、彼らはこの新し…

第1302回 われらの時代の終焉(1)

京都の私の家にはテレビアンテナがないのでテレビが見られないのだけれど、昨日、近くの温泉に行って、サウナに備え付けのテレビニュースを見ていたら、次の日銀総裁、植田和男氏のことが伝えられていて、植田氏の叔父さんがインタビューに出て、「ラジオ英…

第1301回 500年を区切りに起きる人類のコスモロジーの転換。

そもそも私は、古代のことについて、どの時代に何が起きたとか、誰がどうした、これこそが真実であるという類の、過ぎたことに対する一つの正しい答だけを求める原理的思考で、古代のフィールドワークを行なっているのではない。 蘇我馬子や藤原不比等の陰謀…

第1300回 古代のコスモロジーと、国譲りの神話との関係

(伊豆下田の伊古奈比咩命神社) 1月31日に東京から京都に移動する時、前から気になっていた岐阜の大垣あたりを探求し、東海と福井と近江から京都や神戸にかけて、古代、深いつながりがあり、そこに前方後方墳が関係しているらしい、ということを、前回と前…

第1299回 古代、東海と福井と近江の関係(2)

余呉湖 昨日、東海から近畿にかけての古い前方後方墳のことを書いた後に連絡をくださった人の在住場所が愛知県の新城市となっていて、ふと気になって、「新城」の位置関係を調べてみた。 というのは、三河の聖山である本宮山の麓の新城は、以前にも訪れてい…

第1298回 古代、東海と福井と近江の関係(1)。

朝7時、うっすらと雪化粧の富士山麓を出発して、高速道路を使わず走り続け、13時間かけ、夜8時に京都に着いた。 高速道路を使わない方が、それぞれの地域の地理上の関係や、地質的な特徴が掴みやすい。 車の運転は、ずっと運転ばかりしていると疲れたり眠…

第1297回 古代海人のコスモロジー

前回の記事で、福島第二原発がある場所の天神原遺跡(2000年前における東日本最大の集団墓)が、遠隔地交易の拠点だったのではないかということを書いた。 そして、この天神原遺跡の位置が、北海道の余市からまっすぐ南に来たところにあり、この東経141度の…

第1296回 日本古代のコスモロジーと、日本の地質。

日本という国の中を移動する時、列車や高速道路を使ってしまうと気づかないが、古くからの街道、とりわけ河川沿いの道を通ると、この国の地質的な特徴がよくわかるし、そうした地質的な特徴が、文献資料や考古学的成果から見えてこない歴史の真相に近づく鍵…

第1295回 古代のコスモロジーと、海人の活動

高幡不動の私のオフィスから冬至の日に太陽が沈む方向に富士山があり、このラインの延長上に伊勢神宮がある。そして夏至の日に太陽が沈む方向が奥秩父で、その延長上に八ヶ岳があって、さらに諏訪大社の上宮にいたる。 今週末、ワークショップセミナーを行う…

第1294回 日本古代のコスモロジーと、火山帯。

西崎山環状列石(余市町) 本から学ぶことも大切だろうけれど、現場から学ぶことで、本質にダイレクトに近づけることがある。 世の中に出ている本の大半には、その分野の専門家による、その分野の中での実績や経験が積み重なっている。そして、その専門分野…

第1293回  The Creation Vol.2 天と地の曼荼羅

年が明けてから集中的に取り組んできた「 The Creation Vol.2 天と地の曼荼羅 大山行男写真集」の全体構成とレイアウトとデザインが、ほぼできあがった。あとは、少し熟成させて、若干、写真を差し替えたり、整えたりの作業だけが残る。 この本は、富士山の…

第1292回 大学入試の変化がもたらす未来

2016年度から東京大学が『推薦入学』を導入し、2021年度の全国公私立大学の入学者のうち「推薦入学者」が50%を超えた。 resemom.jp 現在の日本の行き詰まりは、教育から変わらなければどうにもならないと思っていたが、近年、その教育に大きな変化が生まれる…

第1291回 現代を含めて全ての時代に、その時代特有のコスモロジーがある。

堂山3号墳(静岡県磐田市) 静岡県磐田市に堂山古墳群がある。 ここには5世紀に造られた県内最大規模を誇る全長約110mの前方後円墳と、その周辺に、6基の円墳や方墳が築かれていた。 磐田市の天竜川東岸には他にも御厨堂山古墳群があり、太平洋から天竜川…

第1290回 世界の三大リスクと、AI技術

国際情勢のリスク分析を手がける米コンサルタント会社が、今年の世界10大リスクとして、1位にロシア・ウクライナ戦争、2位に中国の習近平国家主席の権力独占をあげているのは、まあ多くの人が共有しそうなことだが、興味深いことに第3位として、人工知…

第1289回 古代のコスモロジーと、現代のコスモロジー

岩上神社(愛知県蒲郡市) 1月21(土)、1月22(日)、13:00- 東京都日野市の私のオフィス(京王線高幡不動駅から徒歩12分)で、「古代のコスモロジー」と題したワークショップセミナーを行います。 この6年間、私は日本国内の古くから人間が大切にしてきた場…

第1288回 時代ごとに変わる人間のコスモロジーと、歴史との向き合い方

今を生きる人にとって、「歴史」が、自分に関係ないもの、もしくは単なる知的好奇心の対象(趣味)、および大河ドラマ鑑賞などの娯楽になってしまったのは、歴史と向き合う時に、人間のコスモロジーのことが、あまり考えられていないからではないかと思う。 …

第1287回 古墳の形と、国譲り神話と、鬼退治の関係。

第1285回のブログで、前方後方墳と前方後円墳の違いを、弥生時代の「方形周溝墓」と「円形周溝墓」の違いの延長と捉えて説明した。一人の王が軍事や祭祀など全権を担う統治システムと、複数人物による分権統治システムの違いではないかという仮説を立てて。 …

第1286回 日本の近代化を促進させたもの

10年以上前、風の旅人編集部で働いていた中山慶が、現在、地域社会活性化と異文化交流を軸にした仕事を、京都の京北地方を拠点に行っている。 日本各地で様々な地域社会活性化の取り組みが行われているが、中山慶が行っているプロジェクトで私が興味深く感じ…