写真

第1459回 時代の先端を疾走し続ける91歳。

現在、東京と京都で同時開催中の川田喜久治さんの写真展。 本日、東京のPGIギャラリーでのオープニングパーティがあったので、野町和嘉さんと訪れた。 川田さんは、私と同じ1月1日生まれだが、今年、なんと91歳になった。 2022年の秋の展覧会でお会いして以…

第1458回 口先だけの分析なら、もはやAIの方が上手にできる。

昨夜の地震の状況を知ろうと思って、朝、テレビをつけたら、屋台を引きながら無料でハーブティーをふるまい、薬に関する相談などにのっている若い薬剤師が紹介されていた。 彼がこういうことをするようになったきっかけは、病院の待合室で、患者さんが隣の人…

第1455回 自分の計画通りに作るのか、何かに導かれるようにして作るのか。

レヴィ=ストロースは、生命原理は、エンジニアリング(設計思想)ではなくブリコラージュで成り立っていると述べた。 毎月、東京と京都で交互に行っているワークショップセミナーの冒頭で、このことについて詳しく説明してから本題に入ることにしている。 …

第1449回 大震災と、この国の祈り。

南海・東海大地震が起きた場合、もっともダメージが懸念される原子力発電所が、静岡の浜岡原発で、さらに、プルサーマル発電を継続中(2024年7月終了の予定)の愛媛県の伊方原発も不気味だ。 日本の原発は、岬や半島など、古代の聖域に建設されているものが…

第1432回  安井仲治と、鬼海弘雄の写真が示す未来。

安井仲治 「馬と少女」 安井仲治の写真について、2回にわたって書いたきたが、不思議なことに安井仲治は、38年の短い生涯で、近代写真の最初から、21世紀芸術として写真表現が存続するための唯一の在り方まで、全てをやりきって いる。 「21世紀芸術として…

第1431回 もし安井仲治が、あと30年長生きしていたなら。(2)

日本が太平洋戦争に突入する直前、安井は、驚くべき写真を創出する。 それは、「磁力の表情」と題されたシリーズで、鉄粉と磁石で作り出した磁場の形を浮かび上がらせたものだ。 このイメージは、私が編集制作を行っていたグラフィック雑誌『風の旅人』の第3…

第1430回 もし安井仲治が、あと30年長生きしていたなら。(1)

東京都国立近代美術館で展覧会が行われている中平卓馬の写真が、対象を観るというより、強い自我と呼応させるように対象に手をくわえているのに対して、虚心の目に徹し切って世界の実相を写真で捉えようとした安井仲治の展覧会が、東京都ステーションギャラ…

第1429回 現実とファンタジーをつなぐ写真 『ON THE CIRCLE』。

「円形の貯水槽の上に寝て目を閉じる。 宇宙に包まれるという感覚ではなく、宇宙を包み込むという感覚、そのような一瞬は来るのだろうか。 多分、その時は、生きることの不安からも死の恐怖からも解放されるに違いない。 瞼に柔らかな光を感じながら漠然とそ…

第1428回 ”いのち”のさだめと、もののあはれ。

今年の京都の桜の開花は、ウェザーマップによると平年より早く、3月21日に開花、3月30日に満開になると予想されているが、そのタイミングとなる3月30日(土)と31日(日)に、京都でワークショップセミナーを開催します。 当日は、嵐山の渡月橋あたりに集合…

第1424回 半島は、なぜ聖域なのか。

今年制作する予定の「日本の古層VOL.5」は、カラー写真を使って「もののあはれ」をテーマに深く掘り下げるつもりで、昨年の末に能登半島を訪れて取材した。これらのピンホール写真は、カラーで撮っていた。 しかし、この取材後、心にひっかるものがあって、…

第1418回 原始のエッセンスが持つ普遍性。

嬉しい頼りが地球の裏側から届いた。 アフリカのルワンダで、「イミゴンゴ」という伝統アートの調査活動と、普及のための展示や販売を行っている加藤雅子さんが、このたび私が制作した「始原のコスモロジー」を、現地でイミゴンゴの制作を行っている人々に見…

第1413回 写真に気配が写るとは?

私がピンホールカメラで撮っている写真において、”気配”のことについて質問されることがよくある。 「磐座」や「御神木」「滝」などの聖域に立った時、古代から大切に守り継がれてきた何か、もしくは秘められた先人達の声などを嗅ぎ取ろうとして撮影している…

第1411回 大震災と、細い運命の糸でつながる生命。

この写真は、能登の大地震の後に写真家の渋谷敦志さんが撮った輪島市の白米千枚田。 美しいというより、儚くて切ない風景。 昨年の11月末、輪島から珠洲に向かう途中、20年ぶりに立ち寄った時は、土と潮の香りが満ちていた。 何の説明もなくこの写真を見たら…

第1404回 神話の境界

『始原のコスモロジー』が到着して、わりと早い段階で写真についての感想をいただいていたが、文章の方は、今になってようやく感想をいただけるようになった。 この本は、ピンホール写真にも特徴があるけれど、やはり文章世界が軸になっているので、少しずつ…

第1403回 勘の働きと、人工知能。

14 ピンホールカメラというのは、単なる木箱に針穴が空いているだけで、その針穴から差し込んだ光が、フィルムに画像を定着させる。 裁縫で使うような針で穴を空けると1mmくらいの穴になってしまい、光の量が多すぎて画像全体がぼけすぎてしまう。それもまた…

第1401回 天命を全うすること

戦後写真界の巨匠で、現在も現役バリバリで、尊敬というより畏怖すべき存在である写真家から、このたび発行した「始原のコスモロジー」について、「白川静さんの『字統』や『字訓』に通じる極めて大きな仕事であり、(写真の)巨樹、巨岩、海、水が、なんと…

第1400回 ものづくりや表現の羅針盤。

自分が作ったものに対する人の評価というのは、気にならないというと嘘になる。 でも、その評価が自分に影響を与えるかというと、まったく関係ない。 「テレビや雑誌に取り上げられました!」みたいなことも、テレビとか新聞といった記号的な組織の評価基軸…

第1399回 シンギュラリティ(技術的特異点)と、古代のコスモロジー。

昨日と今日は、今年13回目、今年最後のワークショップ セミナー。 ちょうど一昨日、古代のコスモロジー〜日本の古層vol.4〜が納品されたので、ベストなタイミング。 (詳しい内容は、こちらのサイトへ) www.kazetabi.jp 今回の本、これまでの3冊より写真が…

第1398回 この時代における写真家の存在意義

昨日、私が選考委員をつとめさせていただいている笹本恒子賞の受賞式が行われ、久しぶりに、受賞者の高橋宣之さんにお会いしました。 今回の受賞に合わせて、アイデムフォトギャラリー「シリウス」(東京都新宿区新宿1-4-10 アイデム本社ビル2 F)において、…

第1397回 つながる縁の力に支えられて。

私の事務所にある鈴鹿芳康さんと鬼海弘雄さんの写真 鬼海弘雄さんに背中を押されなければ、私は、日本の古層の書籍化を考えなかったけれど、鈴鹿芳康さんとの出会いがなかったら、私はピンホール写真を始めていなかった。 不思議なことに、鈴鹿さんとは、テ…

第1394回 誌面を通じた旅体験。

私が、風の旅人を作っていた時、潜在意識に働きかけるビジュアルをリード役とし、その後に言葉によって意識化を深めるという読まれ方を想定していた。 本を買った人は、とりあえずビジュアルの全体に目を通して何らかのイメージを掴む。文章は、その後、少し…

第1393回 日本の大地と聖域について

日本は山国であることを誰でも知っているし、東京23区に住んでいる人以外は、日々、それを実感している。 しかし、なぜ日本が山国なのかという理由を考えることは、あまりない。 一般的には、日本が火山国だからと思っている人が多いのだが、たとえば近畿に…

第1392回 現代人が見失っている「視る能力」について。

中世の人に比べて現代人は、聴覚より視覚に意識が偏っているという話を聞いたことがある。 文化人類学者の川田順造さんが、「曠野から」という本の中で書いているのだけれど、無文字社会のモシ族のフィールドワークにおいて、神話の語り会があるというのでオ…

第1382回 吉備の鬼退治の真相。

楯築遺跡 吉備には、日本の古代史の真相につながる深い謎が幾つかあり、一昨日に書いた鬼退治のことや、鬼ノ城という山城の存在が、よく知られている。 それ以外の謎として、2世紀後半という、卑弥呼の時代以前に作られた楯築遺跡がある。これは全長70mとい…

第1378回 京都の水と地質。

京都最大の滝、空也の滝。愛宕山の麓 このたび、定期的に行っているワークショップセミナーとは別に、オーダーメイドの依頼があったので、その内容に応じたフィールドワークとセミナーを行った。 ガラスメーカーの方達で、日本および世界各地の砂を使ってそ…

第1377回 富士山の魔力に取り憑かれた写真家

東京と京都のあいだの移動途中に富士山を訪れている理由は、富士山の麓に住んでいる写真家の大山行男さんを訪問して、大山さんが撮り続けている写真を確認するため。 現在、大山さんの写真集の「Creation」シリーズ三部作を制作中で、Vol.1の「生命の曼陀羅…

第1376回 鬼海弘雄さんの魂を偲ぶ

映画監督の小栗康平さん、鬼海弘雄さんと、「黙示の時代の表現〜見ることと、伝えること〜」というテーマでトークを行った。 撮影:市川 信也さん 本日、10月19日は、写真家の鬼海弘雄さんが他界されてから3年目の命日。 この写真は、5年前の秋の京都で、…

第1373回 「写す行為」と「写る現実」のあいだ。

六本木のフジフィルム に、広川泰士さんの写真展を見に行き、その後の、関係者三名のトークも聞いた。 広川さんの静かな眼差しによって写し撮られた洪水による破壊の凄まじさと、それに対抗するための巨大な堤防は、まさに聖書の中の、ノアの洪水の後のバベ…

第1363回 始源のコスモロジー

日本は、海に囲まれた島国であり、大陸から近くもなく遠くもない絶妙な距離感が、日本という国の個性を作り上げてきました。 また、海に囲まれていながら国土の70%が山岳地帯であり、それらの山々を源泉とする河川が、日本を網の目状につないでおり、この…

第1361回 完成への問い。未完による成就。

このたび、写真家の奥山淳志君が自分の手で作り上げて、自分の手で販売していこうとしているこの写真集は、画期的なもので、この世に写真表現というものが在って本当によかったと思える本になっている。 彼は自費出版でこの本を作って、自分で作った販売サイ…