NHKのAIに関する番組で、AIは可能性の高い単語を予測しているだけであり、知能というのは予測力であるという趣旨の話があった。
だとすると、AIの「予測能力」は、桁違いの学習と、その学習の記憶力によるものだが、この学習量と記憶量において、すでにAIは人間を凌駕しており、この領域での人間の仕事は、AIに取って代わられることが自然の流れ。
しかし、この場合の「予測」というのは、突き詰めていえば、「こうすれば、ああなる」という類のもので、確かに、人間の文明は、この「こうすれば、ああなる」というシミュレーションを無限に積み重ねて構築されている。だから、そうした人工空間(都市)に慣れてしまうと、「こうすれば、ああなる」から少しでも外れてしまうと、許せないし、色々なことに支障が生じる。
電車が何らかの理由で遅れると苛立つし、その遅れが大きくなると仕事に悪影響が出て、最悪、都市機能が狂ってしまうこともある。
人間の文明社会は「こうすれば、ああなる」という予測シミュレーションを、極めて精密に組み合わせてできている。
なので、こうした都市文明世界の人工空間は、人間よりもAIの方が遥かに上手に、完璧にやってしまうかもしれない。
今では交通信号そのほか人間の動きをコントロールする仕組みはコンピューター制御で行われている。そのプログラミングは、これまで人間が行っていたが、今後は、AIが完璧に行えるようになるだろう。
問題は、人間の知能というものが、果たして、「こうすれば、ああなる」という予測力に限定されているのかどうかだ。
NHKの番組に登場していた専門家の方は、身体性というものとは関係なく、人間の知能は、究極、この予測力の範疇であるゆえ、知能とは何なのかという謎は、いずれ解明されるだろうと述べていた。
しかし、言語を持たない野生動物が、鋭い直感力を備えているように、身体性に基づく説明不可能な予測力というものがあり、それは「こうすれば、ああなる」という範疇を超えたものだ。たとえていうならば、自分と外部とのあいだの電気信号のようなもので、皮膚感覚とか気配といっていいもの。
知能とは何か?という問いを立てる時、その「知能」の定義は、「知能分別」という範疇に限定されているように感じられるが、本当の知能は、そうした分別を超えた世界の掌握力で、知力というより生命力と置き換えた方がいいかもしれない。
つまりこれは、生命とは何か?という問いにつながってくる。
細胞が寄せ集まって一つの個体を作っており、その個体は、自分と他者を分ける認知機能を持っているけれど、生命の基本単位である細胞レベルでは、自分と他者の違いはない。
個体は、自分と他者を分けてしまうけれど、細胞レベルにおいて、全てに違いはなく、つながっているとみなしていれば、細胞反応に敏感な生物(人間の場合も)は、外界の変化にも敏感かもしれない。野生の力は、そうしたものかもしれず、これは、「こうすれば、ああなる」という個々の領域の作用ではなく環境全体とつながっている作用。
NHKの番組では、身体性がなくても視覚情報だけでAIはバナナの剥き方を覚え、上手に剥けるようになるという話があったが、私はこれには疑問だ。
毎朝バナナを食べている人は分かると思うが、スーパーでまとめて買ったバナナは、日が経つにつれて柔らかくなっていき、最初の一本目は簡単に剥けるが、5日目となると、皮と身の密着度が強くなりすぎて、慎重に剥く必要がある。
そうした微妙な柔らかさの違いは、視覚ではわからないのではないか。
つまり「こうすれば、ああなる」というのは、あくまでも標準化された人工世界で通用する話で、不揃いが当たり前の状態では、それぞれに対する対応のパターンが複雑に異なってくる。
現代文明においては、不揃いであるより整然としていた方が良いという価値観が広まっており、スーパーなどにおいても、不揃いであるだけで、お得な価格になったりするのだが、不揃いであることの妙味は、AIには理解しずらいことかもしれない。
なので、不揃いの寄せ集め方によって、その世界を作ることこそが、AIがそう簡単に取って代われない人間の個性、すなわち人間の牙城でないかと思う。
ファッションなどにおいても、上から下まで高級ブランドの服を着ればセンスあると言えるのか?家の家具や、食器などにおいても、同じことが言える。
会社組織などにおいても、「こうすれば、ああなる」という領域は全てAIにお任せできるようになるのだから、どの企業もそうなるのだとすれば、他社との違いを発揮できるかどうかは、不揃いの人材の統合の仕方なのではないかと思う。
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京都と東京でワークショップを行います。
<京都>2025年7月26日(土)7月27日(日)
*亀岡のフィールドワークを予定。
<東京>2025年8月30日(土)、8月31日(日)
*いずれの日も、1日で終了。
詳細、お申し込みは、ホームページでご確認ください。
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