映画

第1427回 ビクトル・エリセと小栗康平の眼差しが交差するところ

ビクトル・エリセの最新作の「瞳をとじて」を観て思うところがあったので、昨日の夜、彼の処女作である「ミツバチのささやき」を久しぶりに観てきた。 素晴らしく心に染み込む映画ではあるのだけれど、この映画の魅力は、無垢の少女のアナの眼差しに引き込ま…

第1426回 瞳をとじて

昨日、久しぶりに新宿歌舞伎町まで足を伸ばし、ビクトル・エリセの31年ぶりの新作、「瞳をとじて」を観てきた。 同じように20代の頃に観ていたヴィムヴェンダースの新作の「perfect days」よりは、映画の時間の中に潜入することができた。 「perfect days…

第1412回 「Perfect Days」!?

1980年代、毎週のように映画館に通い、とくに日比谷シャンテ等でヨーロッパ映画をよく観ていた人で、ヴィム・ヴェンダースの「ベルリン天使の詩」など一連の作品が好きだった人は、きっと「Perfect Days」を観に行くんだろうな。 私もその一人なので、雨がし…

第1194回 映画「くじらびと」。11月7日、石川梵監督とトークを行います。

映画「くじらびと」。この奇跡の映画、革命的な映画の大阪での上映で、石川梵監督と、トークを行うことになりました。 大阪復活上映(第七芸術劇場) (11月7日(日)、14:10の回上映後 1時間のスペシャルトークイベント) 登壇者:石川 梵 監督、佐伯 剛(…

第1187回 「MINAMATA」と「くじらびと」、事実に対する誠実さの違い。

https://lastwhaler.com/bon-ishikawa/?fbclid=IwAR0SB70MpHebmRJByfpHiYdxelCDGQUCUA0cNRw_atUJEzi0os5dT_dc0qk 「これまで海の上の人間の物語を撮ってきた。しかし、海の下のもうひとつの物語があることに気づいた」 石川梵監督の映画「くじらびと」の誕生…

第1186回 たとえフィクションであっても、事実を伝える際のモラルは必要だ。

「Let truth be the prejudice」真実を偏見(こだわり)にしようというユージンスミスの有名な言葉の中のTruth(真実)は、神様の目ではなく、人間の目からの真実である。 ユージン・スミスは言っている。人間というのは、純粋に客観的であることはできない…

第1184回  水俣やユージン・スミスのリアルと向き合うことは、近代の問題と向き合うこと。

私が映画「MINAMATA」のことについて書くことに対して、「佐伯さんは、一般大衆に期待しすぎ」と、なんとも不思議なコメントをくれる人がいる。 一般大衆の定義がよくわからないが、期待しても、何にも変わらないよ、という程度の意味だろうか? 私がしつこ…

第1182回 桑原史成さんの水俣の写真から伝わってくる、正義よりも本当のことを伝える思い。

桑原史成さんの水俣に関する写真展が開かれている。 http://www.fujiwara-shoten.co.jp/whatsnew/9-15%EF%BD%9E10-16-%E6%A1%91%E5%8E%9F%E5%8F%B2%E6%88%90%E5%86%99%E7%9C%9F%E5%B1%95%E3%80%8Cminamata%E3%80%8D%E9%96%8B%E5%82%AC%EF%BC%81/ 大勢の人に…

第1181回 ハリウッドのMINAMATAと、石川梵が一人で作った「くじらびと」の差異。

映画「MINAMATA」を観た人は、ぜひ、石川梵製作の映画「くじらびと」を観て欲しい。 https://lastwhaler.com/ 私が、映画MINAMATAについて、あまりにも無防備に絶賛する人に対して懸念を覚えるのは、映画MINAMATAの手法が、ポピュリズムの常套手段であるから…

第1180回 映画MINAMATAー正義と真理の隔たり

ここ数日、映画MINAMATAについて、あまりにも無防備に絶賛する人が多すぎるので、私なりに感じる問題点を書いてきたけれど、これを最後とする。 この映画は、「事実に基づくフィクションである」という中途半端な逃げで、悪の集団役としてチッソ株式会社は具…

第1179回 映画「MINAMATA」と、当事者意識の問題。

ユージン・スミスを主人公にした「MINAMATA」の映画に対して、熊本県と水俣市の判断は違っていた。この映画の水俣での上映会において熊本県は後援したが、水俣市は後援を拒否した。熊本県の方が水俣市よりも懐が大きいなどと思う人は、水俣のことについて、…

第1178回 映画「MINAMATA」について、ユージン・スミスは、どう思うだろう?

「私は、男は泣かないということを承知しているが、私は泣いた。同室のものから顔をそむけ、涙と嗚咽を抑えるのに精一杯だった。私を深く感動させる写真、私の人生を変えてしまう写真は数少ない。森永純の写真はその二つを併せ持っていた。」 ユージン・スミ…

第1177回 「MINAMATA」なのか、「OUR MINAMATA DISEASE」なのか。

映画「MINAMATA」の製作に関わり、主演でもあるジョニーデップが、2020年ベルリン映画祭公式記者会見で、こう述べている。 「ユージンスミスとアイリーンスミスの水俣での記念碑的な仕事と、彼らの献身に! 」 MINAMATAという映画は、まず、このジョニーデッ…

第1175回 「MINAMATA」のユージンスミスと、森永純

ジョニーデップが製作・主演の「 MINAMATA」が、京都でも観られる。 この時代に、改めて水俣のことに注目がいくことは、大事なことかもしれない。 しかし、私は、風の旅人の誌面で、ユージンスミスの写真は、日立関係のもの(高度経済成長下の日本人)を編集…

第1063回 時間の流れ

http://www.bitters.co.jp/satantango/ タルベーラ監督の『サタンタンゴ』について、さらに重要なポイントについて、考えてみたい。 7時間を超えるこの映画を構成している僅か150カットの長回しのシーンの一つひとつ。5分を超える長回しの撮影のあいだ、…

第1062回 それぞれの世紀末 

http://www.bitters.co.jp/satantango/ タルベーラ監督の『サタンタンゴ」。7時間18分という驚くべき長さを誇る映画だが、カット数は、わずか150カット。 ハリウッド映画を見習ったような俳優の動きで物語を作り出していくようなタイプの映画は、2時間たら…

「風立ちぬ 生きねば」について?

そして、映画『風立ちぬ』を見た翌日にテレビで見たのは、極北の地、グリーンランドの狩人だった。 近年、グリーンランドの氷が少しずつ溶けており、地下資源の開発を行ないやすくなり、この地の人々も、産業化の歯車の中に組み込まれつつある。子供たちも、…

「風立ちぬ 生きねば」について?

宮崎駿は、『生きねば』という明確な主題をたてて、物事のディティールを丁寧に描き出し、具体的な物事そのものの積み重ねを通して、ストレートに主題を伝えようとした。 そして、物そのものから遠ざけてしまう色々な概念的な部分(多くの人が既に共有してい…