芸術

第1474回  日本人の心が、どう作られてきたか。「いろは歌」の果たした役割。

私たち日本人は、日本語を使って物事を理解し、日本語を使って物事を考えている。だから、私たちの思考やイメージが日本語の影響を受けていることは当たり前であり、日本文化も、日本語という言語の特質を抜きに存在しえない。 日本人とは何か?という問いに…

第1473回 現代の世界と、詩への希望。

シュテファン・バチウという亡命詩人について、知っている人はほとんどいないと言っていいかもしれない。 私も、知らなかった。 この詩人のことだけでなく、この詩人が生まれたルーマニアについても特別な関心を持っている人は、ほとんどいない。 だが、私は…

第1472回 日本文化に宿る自然体という美意識。

西欧の美というのは、例えばベルサイユ宮殿の庭園のように、それじたいが、「これこそが美だ!」と主張してくる。 それに対して、日本が長い時間をかけて洗練させてきた美は、例えば苔寺のように、それを観る人の心に自由の余地を残す。 ただ単に、綺麗とか…

第1471回 人間の心の変化と、時代の変化。

武信稲荷神武信稲荷神社(京都)。 一昨日、奈良に行った時、興福寺の近くの商店街にカメラ屋があり、店頭に、レトロな中古フィルムカメラと、オシャレな新品のフィルムカメラがずらりと並べられていた。 おしゃれなフィルムカメラの価格は2万円以下。レンズ…

第1470回 千年の時を超えて、今に伝わってくる叡智。

春日大社と空海展へ。 空海が関わって制作されたとされる神護寺の曼陀羅が、修復作業を経て公開。 西洋絵画だと、ヒエロニムス・ボスが、超精密な描写を行なっているが、それよりも700年も前に日本でつくられた超巨大な曼陀羅の中の超精密な描写には、驚くば…

第1469回 偶然性の仕打ちを受容する生存の美学。

明治時代になって、浮世絵などの日本文化が、二束三文の値段で海外に持ち去られたように、日本人は、日本にあるものの価値を知らず、欧米のものに価値があると思い込んで、高い値段を払ってまで手にいれてきた。そして、欧米から褒めてもらって初めて、自分…

第1466回 闇の深さと、色相の繊細かつ豊かさ。

嵐山から嵯峨野は、観光客で溢れかえっているけれど、清涼寺あたりまで来ると、それほどでもない。 私が、京都に移住することになったきっかけの一つが、11年前、風の旅人の第47号で、染色家の志村ふくみさんのロングインタビューのために、この清涼寺のすぐ…

第1465回 レトロでアナログだけれど、新しい世界!?

風の旅人第25号〜第30号。表紙制作/大竹伸朗 これまで世代論について、あまり深く考えたことがなかった。 交遊関係にしても、年代で分けて意識することもなかったのだが、近年、Z世代という生まれた時からインターネットが当たり前だった世代の社会的影響力…

第1464回 縄文人には見えていて、現代人には見えていないもの。

先ほど書いたことの補足だけれど、今回、北海道でもオーロラが見えた。 私は、自分でも縄文土器を作り続けていた時期があったのだが、縄文土器の文様は、オーロラのようなプラズマ現象ではないかという気がしていた。 縄文人は、実際にオーロラ現象をよく見…

第1463回 人間の目には見えない宇宙の真理。

太陽フレアの大爆発によって、低緯度でもオーロラが見られたというニュースが、各地から届いている。 その場にいた人たちがスマホで撮影したオーロラを、世界中のどこでも見られるわけで、地球上に起きていることを人類全員が共有化できる時代になっているこ…

第1461回 今年の木村伊兵衛賞の受賞作品展の、哀しいまでの空疎さ。

昨日、池袋の新文芸坐で小栗康平監督の「眠る男」と 「伽倻子のために」の デジタル4Kレストア版を観る前に、銀座に立ち寄って、写真界の芥川賞などとメディアが煽る木村伊兵衛賞の受賞展を観てきた。 そして、会場に入るなり、その空疎な内容に呆然。ポスタ…

第1459回 時代の先端を疾走し続ける91歳。

現在、東京と京都で同時開催中の川田喜久治さんの写真展。 本日、東京のPGIギャラリーでのオープニングパーティがあったので、野町和嘉さんと訪れた。 川田さんは、私と同じ1月1日生まれだが、今年、なんと91歳になった。 2022年の秋の展覧会でお会いして以…

第1455回 自分の計画通りに作るのか、何かに導かれるようにして作るのか。

レヴィ=ストロースは、生命原理は、エンジニアリング(設計思想)ではなくブリコラージュで成り立っていると述べた。 毎月、東京と京都で交互に行っているワークショップセミナーの冒頭で、このことについて詳しく説明してから本題に入ることにしている。 …

第1453回 『生成と消滅の精神史』下西風澄著について。

先週の21日(日)に行ったワークショップセミナーに、昔、風の旅人の編集部で働いていた中山慶が参加してくれて、会が終わった後、ノンアルコールビールを何本も飲みながら夜遅くまで話し込んだ。 その時、彼が、最近読んだ本として、「生成と消滅の精神史』…

第1450回 縄文時代に遡る巫女神が、時代を超えて伝えていること。

御前崎。(静岡県御前崎市)。 南海・東海大地震が起きた場合、もっともダメージが懸念される原子力発電所である浜岡原発は、太平洋に突き出た静岡県御前崎にある。 この場所は、四国から近畿にかけての中央構造線を東に伸ばして、伊豆下田の伊古奈比咩命神…

第1449回 大震災と、この国の祈り。

南海・東海大地震が起きた場合、もっともダメージが懸念される原子力発電所が、静岡の浜岡原発で、さらに、プルサーマル発電を継続中(2024年7月終了の予定)の愛媛県の伊方原発も不気味だ。 日本の原発は、岬や半島など、古代の聖域に建設されているものが…

第1448回 震災国日本の祈りのかたち。

(さらに昨日の続き)。 古来、日本の天皇は政治的権力者というより、この国の祭祀の要に位置しており、この国の祭祀の根幹は、古代の巫女が、自分の存在を打ち捨てる覚悟で神に仕えることで、その身に神を憑依し、神そのものになって人々に恵みをもたらし災…

第1446回 悶えて加勢する巫の力。

(昨日の続き) 世界中の文学のルーツには悲劇がある。悲劇には、人間の心の深いところを揺さぶる力がある。だから後々まで伝承され、記憶が引き継がれる。 現代社会のように、人間の欲望を刺激するものが溢れ、悩みや不安を一時的に紛らわす娯楽に不自由し…

第1445回 この時代の巫の力。

2011年の東北大震災から13年が経った。 ここにアップしている石牟礼道子さんの写真は、風の旅人の第48号(2014年6月1日発行)に掲載しているロングインタビューの時の写真で、写真データを確認したら、ちょうど10年前の2014年3月11日になっている。 このイン…

第1444回 源氏物語と、京都と吉野をつなぐ古代の巫の勢力。

(3月30日と31日に京都で行うワークショップのメモ②) 何度も書いてきたことだけれど、「源氏物語」というのは、11世紀の初頭に突然出てきた創作物ではなく、こういう文学が創造されるまでの歴史的な準備期間があった。 源氏物語の100年前、10世紀の初頭、紀…

第1433回 時代が変わる時。

(3月末に行うワークショップについて) 現代世界には、環境問題をはじめ様々な問題が横たわっているが、それらの問題の根元には、「万物の尺度は人間にあり」という、すべての物事を人間を基準にして測る価値観がある。 この価値観が人間の傲慢さにつながっ…

第1432回  安井仲治と、鬼海弘雄の写真が示す未来。

安井仲治 「馬と少女」 安井仲治の写真について、2回にわたって書いたきたが、不思議なことに安井仲治は、38年の短い生涯で、近代写真の最初から、21世紀芸術として写真表現が存続するための唯一の在り方まで、全てをやりきって いる。 「21世紀芸術として…

第1431回 もし安井仲治が、あと30年長生きしていたなら。(2)

日本が太平洋戦争に突入する直前、安井は、驚くべき写真を創出する。 それは、「磁力の表情」と題されたシリーズで、鉄粉と磁石で作り出した磁場の形を浮かび上がらせたものだ。 このイメージは、私が編集制作を行っていたグラフィック雑誌『風の旅人』の第3…

第1430回 もし安井仲治が、あと30年長生きしていたなら。(1)

東京都国立近代美術館で展覧会が行われている中平卓馬の写真が、対象を観るというより、強い自我と呼応させるように対象に手をくわえているのに対して、虚心の目に徹し切って世界の実相を写真で捉えようとした安井仲治の展覧会が、東京都ステーションギャラ…

第1429回 現実とファンタジーをつなぐ写真 『ON THE CIRCLE』。

「円形の貯水槽の上に寝て目を閉じる。 宇宙に包まれるという感覚ではなく、宇宙を包み込むという感覚、そのような一瞬は来るのだろうか。 多分、その時は、生きることの不安からも死の恐怖からも解放されるに違いない。 瞼に柔らかな光を感じながら漠然とそ…

第1428回 ”いのち”のさだめと、もののあはれ。

今年の京都の桜の開花は、ウェザーマップによると平年より早く、3月21日に開花、3月30日に満開になると予想されているが、そのタイミングとなる3月30日(土)と31日(日)に、京都でワークショップセミナーを開催します。 当日は、嵐山の渡月橋あたりに集合…

第1427回 ビクトル・エリセと小栗康平の眼差しが交差するところ

ビクトル・エリセの最新作の「瞳をとじて」を観て思うところがあったので、昨日の夜、彼の処女作である「ミツバチのささやき」を久しぶりに観てきた。 素晴らしく心に染み込む映画ではあるのだけれど、この映画の魅力は、無垢の少女のアナの眼差しに引き込ま…

第1426回 瞳をとじて

昨日、久しぶりに新宿歌舞伎町まで足を伸ばし、ビクトル・エリセの31年ぶりの新作、「瞳をとじて」を観てきた。 同じように20代の頃に観ていたヴィムヴェンダースの新作の「perfect days」よりは、映画の時間の中に潜入することができた。 「perfect days…

第1425回 「日本文明が与えることができる優れた教訓のかずかず」 レヴィ=ストロース 

第15回ワークショップセミナー(東京)を終えた。 この場で最初に私が話をしているのは、エンジニアリングとブリコラージュの話。 これは、20世紀の最高の知性、文化人類学者のレヴィ=ストロースが唱えていることで、近代文明の中で生きている私たちは、エ…

第1424回 半島は、なぜ聖域なのか。

今年制作する予定の「日本の古層VOL.5」は、カラー写真を使って「もののあはれ」をテーマに深く掘り下げるつもりで、昨年の末に能登半島を訪れて取材した。これらのピンホール写真は、カラーで撮っていた。 しかし、この取材後、心にひっかるものがあって、…