おぞましい世界 でもそれが私たちの世界

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 この内山英明さんの写真は、風の旅人の復刊第一号で14ページにわたって紹介する日本の地下世界の一つ。
 内山さんは、昨年の原発事故の直前まで、全国の様々な原発関連施設の中を撮影していた。原発それじたいもそうだが、大学などの研究機関や、六カ所村の核廃棄物処理場、日本では公然となっていないが、核燃料サイクルが頓挫した時のために、地下深くに核廃棄物を長期保存する為の施設なども。また、原発だけでなく、核融合研究やニュートリノなど宇宙線研究その他、科学の最先端と言われる現場を取材して
写真を撮り続けてきた。あの震災前は、それらの取材を行うことは比較的簡単だった。それらの研究が日本の明るい未来につながると信じる人達は、その活動の意義をもっと広めたかったからだ。しかし、あの震災後、取材は難しくなった。科学そのものがヒステリックに糾弾される対象になったからだ。しかし、たとえ原発がなくなったとしても、その後の廃炉や核汚染物質の処理など、科学的な研究と実践が不可欠になる。誰がいったいその仕事を負うのか。世間に後ろ指を指されるような仕事になってしまうと、その分野の人材もいなくなってしまう。生きることは、そう簡単に割り切れるものではない。生理的に合うとか合わないとか簡単に言う人がいるけれど、そんなに自分に都合良く世界ができているわけではない。おぞましい側面から目を背けて、自分に都合の良い解釈のできる範疇だけで安住する人は、その安住を少しでも脅かすものに対して過敏に反応し、時には過激に攻撃的になったりするが、その集団化の暴力の方が恐ろしい場合がある。私たちの今の営みを支える仕組みは、私たちが想像している以上に複雑であり、たとえば数字と記号の羅列にしか見えない計算式を見て、多くの人が、「ワシにはようわからん、関係ない、ワシには合わない」等と、意識の外に排除するものごとで支えられて成り立っていたりするのだ。それは、一歩間違えば危険極まりないおぞましい世界である。しかし、私たちの日常は、そういうおぞましい世界の上に成り立っていることを少しでも知っておく事は、何か悪い予兆があった時の、心の備えになる。「そんなこと知らなかったぞ、聞いていなかったぞ」と腹を立てて騒いだり、政治家に文句を言うことで、そこから逃れることができるわけでもなく、その不条理を恨むだけの人生になってしまう。地震が起こった時の為の非常食や水等の備えも大事だが、それ以上に大事なのは、自分の人生そのものに対する心の備えなのだ。
 風の旅人 復刊第1号(12月1日発行)
現在、オンライン申し込み受付中→→http://www.kazetabi.jp/
(書店での販売は行いません)