逆向きの力を自分に呼び込んで活かす意識

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 年が明けて、ようやく風の旅人の復刊第3号を手にとって、じっくり見ることができる心境になった。自分で言うのもなんだが、やはり、復刊後に制作した3冊の中で、この号が一番完成度が高いと思う。復刊第1号と第2号は、写真や文章は素晴らしいと思うが、編集者として、なんだか落ち着いていなかったということが、誌面から伝わってくる。心がバタバタしている。気合いは入っているけれど、静かに集中できていない。”気”が、上に上がっている。つまり肩に力が入っている。復刊第3号は、”気”が、下におりてきている。丹田あたりに力が入っている。
 今回の号は、製本上のちょっとしたトラブルがあり、作り直しをした。この写真にあるように、背表紙の上下に傷があるものが多いことと、p1とp2の接着面が悪く、思い切り開くと、ペリペリと糊がはがれる音がすること。そして、井津建郎さんの素晴らしいモノクロ写真の黒が浅く、締まりが悪く見えることが問題だった。

 井津さんの写真は、オリジナルを見たことがない人は、こんなものかと思っているだろうし(黒が浅くても素晴らしいと言う人はけっこういた)、製本上の問題に関しては、中身を見るうえでは影響があるものではなかった。しかし、風の旅人の場合、読み捨てるのではなく、長く手元に置いてくれる人が多いので、その不完全さが、私は気にいらなかった。 

 何よりも、校正刷りの段階で、何人かに見せたところ、復刊後の3冊でこれが一番好きと言ってくれる人が非常に多かったので、納入見本が届いた時には、がっかりした。制作者として目指している、この本の上質感が、製本のミスで損なわれていることは明らかだったそ これまで10年にわたり46冊も作ってきて、一度も起こしていなかったミスだったということもある。それだけ、風の旅人の印刷・製本においては、印刷現場の集中度も高かった。しかし、今回、印刷会社の製本担当者が、今までに使ったことのない下請け会社に仕事を流し、さらにその時に、これまでのいきさつ(風の旅人ならではの方法論とかノウハウ)を一切伝えず、事務的に発注したという問題があった。企業世界では、悪気はないのに、こうしたコミュニケーションミスというか熱意の無さで起るミスが、けっこうある。

 ただし、こうした小さなミスがあったとはいえ、致命傷ではないので、多くの定期購読者に発送会社からまとめて発送している段階では仕方ないと諦めることもできていた。

 以前のように、書籍流通会社を通して書店に並べている時であっても、もう手遅れだと諦めていただろう。

 しかしながら、今は直販であり、12月以降のお申し込みの人には、私自身が一冊ずつ封筒に入れて発送している。だから、発送のたびに傷が目に入り、毎日それが繰り返されると、どんどん憂鬱になり、2週間もした頃から耐えられなくなり、やはり思い切って作り直すべきだと決心した。

 そして、作り直したものを見て、しみじみとよかったなあと思う。
 後悔のようなものを引きずりながら仕事をしていくことは辛いことだ。エネルギーをふりしぼって風の旅人を復刊させたのは、人生において、中途半端なことをしたくない、やるなら徹底的にという思いが強くあったからなのに、こういうところで妥協したら、何の為に復活させたかわからなくなる。
 もちろん、たとえそういう思いがあったとしても、現実世界というのは、その思いを踏みにじることや、邪魔する要因がいくらでもあって、それを理由に簡単に諦めてしまうこともある。だけど、この現実において、何も障害物がないということは、あり得ないのだ。
 私たちは、スムーズに物事を進めさせてくれないものを障害物だと思う癖がついているけれど、宇宙的に考えればそうではないだろう。
 宇宙の秩序は、引力と遠心力、求心力と反発力のように、相反する力が同時に存在し、それらが互いに働き合うことで美しい渦巻き模様や回転運動などが生まれている。引く力と反発する力、どちらか一方だけだと、そうした美は生まれないだろう。

 そうした危うくも躍動的な動的均衡こそが活きた秩序であり、だからこそ、私たちは、そこに美を感じる。反発する力もないような静止状態があるとすれば、それは、生き生きとした躍動的な力を失い終焉に向かっている状態だということだ。

 相反する力を巧みにバランスをとることこそが、宇宙の秩序であり、生命の摂理だ。
 だから、人生においても、観念的に”障害物”だと判断しがちなものを相手にする時の、バランス感覚こそが重要なのだ。
 それ次第で、一人の人生も、生き生きとしたり、沈滞したりする。躍動的で美しい秩序を生み出したり、沈滞して醜く淀んだ状態に陥ったりもする。

 敢えて、逆向きの力を、自らに呼び込んで活かす意識を持ち続けること。自分という場を活性化させるうえで必須だと思う。


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