第905回 大石芳野さんの写真展「福島 土と生きる。」

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 川崎の「東海道かわさき宿交流館」http://kawasakishuku.jp/ というところで、大石芳野さんの写真展が開かれています。(6月14日まで)
 5月30日の3時から、対談も行われます。
 テーマは、「福島 土と生きる」。東京電力福島第一原発の事故で故郷を奪われ、仕事をなくし、それでも懸命に生きようとする人々と丁寧に向き合ったものです。
 風の旅人の復刊第5号(49号)において、大石さんの写真を、「福島の祈り」というテーマで子供に焦点をあてて特集を組ませていただきましたが http://www.kazetabi.jp/、この機会に、ぜひ、展覧会でオリジナルプリントをご覧になることをお勧めします。
 というのは、このたびの展覧会に合わせて、大石さんは、全紙サイズという大きなゼラチンシルバーのプリントを焼き上げました。
 ドキュメント写真においては、最近ではデジタルカメラで撮った写真を、デジタルプリントで紹介することが非常に多くなっています。
 大石さんは、ライカというフィルムカメラで撮影していますが、そのフィルムをもとに暗室で一枚一枚、プリントを焼きました。
 デジタルでもアナログでも、対象が写っていればそれでいいという考えもありますが、大石さんという写真家は、対象との向き合い方を、とても大事にして、丁寧に撮影し、丁寧にプリントをしあげます。
 ”丁寧に”、というのは、1人ひとりの心の内側を写真に焼き付けるために、1人ひとりとの距離の取り方が、とても丁寧なのです。
 大石さんは小柄で繊細そうな女性なのに、カンボジアとかコソボとかの戦地や、パプアニューギニアのジャングルに長く滞在し続けて、丁寧に撮影をし続けてきました。しかも、ズームレンズではないレンジファインダー方式のライカを使用していますから、遠くから対象を好き勝手に撮るということはできません。対象に丁寧に対象に近づき、丁寧にピントを合わせて撮るスタイルなのです。だから大石さんの戦地写真は、多くの報道写真とはどこか違います。彼女の写真は、視るというより、対象に視られるような感覚が強いのです。それは、大石さん自身が、その地の人々に、もしかしたら何の力にもなれない自分自身が冷ややかに視られているかもしれないという感覚のなかで、だからこそ丁寧に対象と対話をはかり、その対話の中でお互いの視線を交錯させ声にはなりにくい声を通い合わせるようにシャッターを切っているという感じなのです。
 3.11の東北大震災の後、テレビや雑誌や新聞などで福島の映像が洪水のように伝えられてきましたが、大石さんの写真は、それらとどこか違います。
 撮る方も撮られる方も、ぐっと何かを抑制して、こらえているような気配が漂う写真。写真だからこそ、声にならない声を届けることができる。そして、声にならない声の中にこそ、大切なものが潜んでいる。そうした声に耳を傾けさせる写真こそ、現代のように大きな声に大切なものが掻き消されてしまう時代において、きちんと向き合って見るべき写真なのだと思います。




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