第1650回 偶然の出逢いを、僥倖に変えるもの

人の縁というのは、単なる偶然と言い切るにはあまりに不思議で、時に深い感慨を抱かされることがあります。
 先日のワークショップでの出来事です。参加者の中に、日本を代表するジャズピアニストと、身体総合芸術をプロデュースする方がおられました。
 岩倉でのフィールドワークを終え、京都・松尾大社にある私の事務所で長い時間、座学を行いました。明確な終了時間を設けなかったため、参加者は、いつものように、それぞれの都合に合わせて一人、また一人と帰路につきました。
 松尾大社駅のホームには、暑さ寒さを凌ぐための小さな待合室があります。たまたま同じタイミングでそこへ足を止めたのが、先述の二人でした。電車を待つ静寂の中、ジャズピアニストがふと漏らした言葉。それは、釧路のジャズバーのことでしたが、その言葉が、プロデューサーの驚くべき過去の断片を呼び起こしたのです。
 かつて、そのプロデューサーが人生の転機を迎えていた頃、彼女は組織内で八方塞がりの孤独を抱えながら、島流しのような形で転勤させられた釧路のジャズバーに通い詰めていました。そのバーで出会ったオーナーに背中を押され、彼女は海外へ飛び出し、自らの理想を形にする道を歩み始めたのです。
 実は、そのジャズバーのオーナーこそが、二人を繋ぐ結節点でした。
 日本に帰国後、プロデューサーは、とある若き音楽家の音色と旋律に深く心惹かれ、自身がプロデュースするパフォーマンスへの共演を依頼したことがありましたが、その若きピアニストの父は著名なジャズピアニストだと知ってはいたものの、まさか、松尾大社の駅で一緒に電車を待ち合わせている人が、その当人だと想像もできないことでした。
 一人は香川から、一人は東京から、わざわざ京都まで足を運び、さらに「たまたま」帰りの時間が重なる。確率論では説明のつかないこの再会は、まるで小説や映画のワンシーンのようですが、「事実は小説より奇なり」を地で行く出来事でした。
 さきほど、そのプロデューサーからこんなメッセージが届きました。
「心からありがたいご縁と感じる時は、真摯に大切にしなければと思います。仕事に追われると丁寧さを失ってしまうことがありますが、大切にすべき瞬間を台無しにしてしまうのが怖いのです」
 この真摯な「心掛け」こそが、運命を引き寄せる力になるのではないか。私は、そう思わずにはいられません。
 科学的な証明は難しくとも、偶然の出会いが人生を劇的に変える瞬間、そこには必ず事前の「何かしらの準備」が整っています。特に組織の後ろ盾を持たず、独立自尊の精神で闘う人々は、自らの直感やインスピレーションと、その直感やインスピレーションに基づく行動と、その行動に対して世俗の分別によってブレーキをかけないことの大事を弁えています。
 その判断や行動で、その後の流れの大半が決まってくることを知っているからです。
 忙しさを言い訳にせず、いろいろな理由付けで、不精や消極性や後ろ向きになりがちな自分を正当化しない。そうした潔い覚悟を持つ人同士は、単なる「邂逅」を超え、幸運な「僥倖」へと繋がりやすい特性があるのでしょう。
 それはまるで磁場のように、どれほど離れていても引き寄せ合う力。あるいは「量子もつれ」のように、距離を超えて同時多発的に何かが始まっていく現象。そんな目に見えないネットワークが、私たちの人生を豊かに編み上げているようです。

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新刊の「みちのく古代巡礼」は、ホームページで発売しています。
 2月28日(土)、3月1日(日)に、東京でワークショップを行います。
 お申し込み、詳細は、ホームページアドレスからご確認ください。
https://www.kazetabi.jp/