第931回 物の作り方が変わるから買い方が変わり、また作り方が変わる。

 アマゾンが、プライム会員向けに、注文の当日しかも一時間とか二時間以内の配送サービスを行うと知り、今の自分にはそこまで急ぎの注文はないが、アマゾンはいったい何をやろうとしているのかととても気になってプライム会員になった。年会費3900円で会員になるメリットとして、とりあえず物が届くのが速いし、配送料が無料の物がたくさんある。また、プライムミュージックやプライムビデオなど、現時点ではソフト数が十分とは言えないが、音楽や映像が見放題、聞き放題。これらのことは、もはや誰でも知っていることなんだろうけれど、この便利なアマゾンのサービスを使えば使うほど、私自身のデータがアマゾンのサーバーに蓄積される。アマゾンは、そのデータを手に入れるために、様々なお得なサービスを展開している。データーをとられるのは恐いと思う反面、そのデータに基づいて実に適格に推奨してくるので、有り難いなあと思ってしまうところもある。しかも、色々な人のレビューを読めるので、情報を分析して、自分が求める物を買うことができる。
 現在、リアル店舗で店員にアドバイスを求めても、なかなか”プロ”と思える人に出会うことがない。彼らの多くは、あまり知識を持っておらず、店が売りたいものを売ろうとする姿勢が見え見えのところもある。店頭に欲しい物がなかったので、色々尋ねても、「店頭にあるものしかございません」としか言わない。うまくニーズを聞き出して、「そういうことならこれで代用できますよ」と推奨できるのがプロだけど、なかなかそういう人はいない。そもそも知識がないので、お客と対話をしても、自分のボロが出てしまうだけなのだろう。
 家電の量販店にしても、最近は、メーカー側の余剰人員の整理の都合と量販店の人件費削減の都合が合致しているのか、メーカー社員が店頭に立っていることが多く、他社製品との公正な比較などを聞けない。こういう状況だから、リアル店舗における推奨の価値をほとんど感じなくなっている。
 アマゾンは、今や物販よりもクラウドサーバー事業の方が儲かっているようだが、書店から始めて様々な物品を取り扱い、顧客のデータを蓄積し、プライムビデオやプライムミュージックによって顧客の思考特性や行動特性も手にとるようにわかるようになり、一人の人生をトータルにコーディネートするようになるのだろう。ソニー不動産とヤフーが組んで、http://www.sankei.com/economy/news/151022/ecn1510220039-n1.html  不動産会社を通さずに個人が自分の中古住宅を自分が決めた価格で売り出すことを目的とした新サイトを立ち上げることを決め、それに対して不動産会社が反発しているが、膨大な顧客情報を持つアマゾンは、急ぐ必要はなく、じっくりと準備をして、不動産を媒介するビジネスも始めるのだろう。従来のオンラインの不動産紹介サイトでは、お客は、自分が所有している情報や自分で自覚している自分のニーズに基づいて物件を探すが、新しい不動産仲介サイトでは、「あなたのような方なら、何も東京で住居を探さなくても、福岡にこんなに良い条件の物件がありますよ」と、逆提案してくれるのではないだろうか。
 私たちは、無意識のうちに固定観念で選択の幅を狭めており、その狭められている選択肢の中から物事や人生を選んでいく癖がついている。良き友人は、そうした選択肢の幅を広げてくれるのだが、アマゾンをはじめ人工知能を活用したインターネットの新しいシステムが、その代わりをしてくれる場合もありそうだ。不動産だけでなく、結婚式場、新婚旅行、葬式その他、自分の経験がないイベントの場合、何をどう選ぶべきか誰かに相談せざるを得ないが、リアル店舗に傭われているカウンセラーだと情報の幅が狭められてしまうし、多くの場合、私個人の特性に相応しいものではなく一般的な解答しか得られないことも多い。人とコンピュータでは、データの蓄積量が違いすぎるので、人にしかできないことは何なのか真剣に考えておかないと、その種の仕事は、間違いなく人工知能をフル活用したインターネットシステムに取って変わられるだろう。(物販に限らず、医療などにしても、わざわざ病院に行ったところで、「風邪ですね」とか、「鬱病ですね」と言われて薬を処方されるだけのことも多い。)
 そもそも、そんなに物欲はないということもあるが、これまでアマゾンで本以外の買い物をしたことがなかったし、オークションもやったことはなかった。しかし、先日、カメラをオークションで安く買えて喜んでいたのだが、ここ数日、リアル店舗では出会えなかったルートで、思わぬ買い物ができて喜んでいる。
 一つは、コンピュータのマウス。ここ数年、右手の肩周辺を動かすと痛くて、不自由をしていた。50肩の症状かとも思ったが、手がまったくあがらなくて歯も磨けないというほどではなく、生活には大きな支障がなかったので整骨院や整体には行かずに、自分で体操したりしながら治そうとしていた。でも、どうやらマウスに原因があるのではないかと思い、ちょっとネットで調べてみた。
 そうすると、トラックボールのマウスで肩の凝りとかが治るとあったので、色々とレビューを読んでダメ元で試しに買ってみた。ところが驚いたことに、一日使っただけで、右肩の不調が完全とは言えないが、ほとんど治ってしまった。こんなことってあるのだろうか。
 このタイプのマウスは、マウスの上に手をのせて、一切、前後に動かず必要がない。Macの付属のマウスは私には小さくて、カーソルを動かす際、マウスも動かさなければならないのだが、画面に集中していると、肘を机から離してしまって微妙な動きをしていることが多く、そのため、肩から肩甲骨あたりが常に緊張感にさらされてしまう。それが、不調の原因だろうということがわかったのだが、マウスを変えることでその緊張を和らげることができたとしても、治療効果があるとは思わず、少しずつ良くなってくれれば有り難いなあと思っていたのだが、たった一日で肩甲骨の痛みや張りが治ってしまった。トラックボールをいじる親指の動きは、これまでのマウスではなかったもので(だから慣れないあいだは使いにくいし、人によっては疲れやすいかも)、その異なる指の使い方が、腕全体に良い作用を及ぼしたのかもしれない。

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 二つ目の思わぬ買い物が、デスクライトだ。量販店では、価格もデザインも機能も気にいったものが見つからなかった。デスクライトは、目新しい家電ではない。しかし、最近では、LEDランプを使うものが増えている。LEDランプは省エネ効果がある。ならば、デスクライトでコードレスの充電式のものがあるに違いないと思って検索したら、やはりあった。しかも安い。メーカーの名前は聞いたことのないものだから量販店では見つけられなかった。しかし、デスクライトなんて構造は簡単なのだからどこのメーカでも大して変わらないだろうと思って購入した。結果は正解だった。デザインも、家電量販店で見たものよりもすっきりとして好ましいし、価格も安い。しかも一度の充電で3,4時間は持ち、どこにでも持っていける。USBでノートパソコンと接続すれば、パソコンから給電できる。これは便利だ。
 この製品にしたのは、廉価なコードレスタイプの中で一番明るく、連続点灯時間が長かったため。

 電気自動車の時代になれば、大手自動車メーカーでなく中小企業が多彩なデザインの車を生産できるようになると言われているが、デスクライトも、LEDランプの発明で、いろいろなデザインに対応できるようになっている。そうなると、大工場を稼働させるために生産数を大きくする必要のある大手メーカーの標準的、画一的な物作りでなく、中小企業の方が、創意に富んだものを作りやすいのではないだろうか。そして、昔は大量生産することで低価格になっていたが、今は、金型が3Dプリンターで対応できたり、商品管理もコンピューターやロボットでシンプルにできるようになり、少量生産でも低価格に抑えることができるようになっている。
 物の買い方は、物の作り方とは関係ないと思っている人が多いが、物の作り方に応じて、生産者側は宣伝プロモーションを行い、そのプロモーションに乗せられて無意識に買ってしまっていることがある。物の作り方が変わってきている現代において、従来のようにプロモーションに乗せられたり、企業の有名度を信頼度だと錯覚して物を買うことほど愚かなことはないだろう。
 最後に、大当たりだったのが、炊飯用の土鍋。

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 冬はやっぱり鍋。近所の店で、新しい鍋を探したのだけれど、あまり気にいったものがなかった。それでネットで探していたら、検索のなかに、ご飯を炊ける土鍋が色々登場してきて、ちょっと興味が出てレビューを読むと、意外と簡単に炊けそうなのですぐに購入した。ご飯がうまくいかなくても、煮物作りとかに使えそうなので。
 そして実際に炊いてみると、あまりにも簡単で驚いた、中火よりやや強めで15分ほど炊いた後、火を消して20分ほど待つだけ。それだけで、艶々とした米が立っている。お焦げまである。ご飯がうまくて、ご飯を食べ過ぎてしまうという問題があるけれど、お漬け物とか日本の伝統食のうまさが、今まで以上に引き立つご飯になる。
 米のうまさを追求した10万円以上の高価な電気炊飯器がある。しかし、土鍋は3000円ほど。電気炊飯器で遠赤外線を実現するために、相当な技術が必要なのだろうが、土鍋は、ごく当たり前に遠赤外線になる。土鍋は、電気炊飯器に比べて保温機能で劣るのかもしれないが、冷めてもおいしいご飯が炊ける。何も問題ない。洗う時に、米がへばりついて苦労するかと思えばそうではない。自動車でバーベキューやキャンプに出かける時に、この土鍋と卓上コンロを持っていけば、おいしいご飯が、どこででも食べられる。もっと早くに気づけばよかった。
 ご飯は電気炊飯器で炊くものだと、かってに思い込んでいた。
 人間は、これまで色々な技術を発展させてきたけれど、衣食住に関しては、けっきょく長い歳月の間、継続してきたものに還っていくのではないかと思う。
 着る物も、最近は、流行ファッションにはまったく興味をもてず、”うさと”の天然繊維の草木染めと手織りの衣服ばかり着ている。そうした昔ながらのものが、工場で大量生産される安価な規格品が全盛の頃、金額的に高くなってしまい、競争力が低下して衰退してしまった。しかし、近年、物流が変わったり、材料の調達その他の仕組みが変わったことで、比較的、手頃な値段で手に入るようになってきた。そういった物の良さに目を向ける人が増え、生産も増えていけば、さらに価格も落ち着くことだろう。何よりも、長く使えるので、けっきょくリーズナブルということになる。
 様々な技術革新が、過去の良い物を淘汰してしまったが、さらなる技術革新が、それらのものを蘇らせるような予感がある。
 あと10年も経てば、そのことがもっとはっきりするだろうと思う。



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