第932回 肥大化した自我を、自然に還して治癒していく年に

 12月上旬から試練のなかにいて、今回は、お正月を祝えるような状況ではありませんでした。でも、こういう時こそ、いろいろ学びの機会だと思っています。今まで考えていなかったようなこともいろいろ考えましたし、わかっていたつもりになっていたことも、もう1度考え直すことになりました。

 平穏な状況が続くと、いろいろと欲が出てきて、現状に対してあれこれ不満も出てくるものですが、試練の嵐の中にいると、当たり前のように過ぎていく日々の一つひとつの小さなことが、とてもかけがえのないものであることが、よくわかるようになります。

 小さな喜びを積み重ねていきながら少しずつ成長し、ピークに達したらあとは自然に枯れていくものだと、おそらく昔の人はよく理解していたのでしょう。それが当たり前だと認識できていれば、様々な軋轢や葛藤によって複雑に歪んでいく混迷が生じることもなかったでしょう。

 自我の肥大化した近代以降、過剰な自己意識が、自分のために人を押しのけ傷つけるという悪徳も大問題ですが、その自己意識が、刃となって自分自身に向けられ、自己自身を責め続けて蝕むことに力を発揮しすぎるケースもあることは、さらに複雑な問題です。

 自分も他者も傷つけず蝕むこともない調和した世界の実現は可能なのでしょうか。ある程度の抵抗力を身につけるために、他者とも自己とも闘うことが時には必要だったとしても、自然のフィードバック機能に従って、傷が致命的にならない程度に抑制できることは可能なのでしょうか。

 自然から遠く離れて歪められた人間の自我を、少しずつ自然に還して治癒していくためにどうすればいいかということを、もう少しじっくりと考えていく年にしなければいけないと思っています。