第978回 使用済み核燃料のことから、原発問題を考える①


(使用済み核燃料の再処理行程の模型)

 2018年上期から使用済み核燃料の再処理が予定されている青森の六ヶ所村に行ってきた。
 原発に賛成か反対かを議論する前に全ての人が考えなければいけないことがある。それは、これまで日本人が溜め込んできた放射性廃棄物をどう処分するかだ。この現実を知れば知るほど、解決の道筋がさっぱりわからなくて途方に暮れてしまう。
 六ヶ所村では、2018年に再処理工場を稼働させた後、2019年上期までにMOX燃料工場が完成する予定になっている。再処理で取り出されたプルトニウムとウランで、MOX燃料(ウランとプルトニウムの混合酸化物燃料)が作られることになっているのだ。
 このMOX燃料は、もともと核燃料サイクルの要として位置付けられていた高速増殖炉で使われる予定だった。高速増殖炉MOX燃料のプルトニウム核分裂させると、燃料の中に含まれているウラン238に中性子が衝突して、新たにプルトニウムが生まれる。燃料で使ったプルトニウムよりもたくさんのプルトニウムが得られるので、日本がエネルギーを自給するための手段になると考えられていた。
 しかし、昨年末の12月21日、政府の原子力関係閣僚会議は、福井県敦賀市の高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉を正式決定した。これまで1兆円以上の事業費を投じながら、相次ぐトラブルで今後の見通しも立たず、幕を下ろすことになったのだ。
 「もんじゅ」は、実験の原型炉でしかなく、高速増殖炉を商用にするにはさらに巨大な設備が必要で、その建設や試験などのことを考えると、「もんじゅ」ですらトラブル続きで莫大な費用が投入されているのに、その先のことなど想像もつかない。
 しかも、高速増殖炉は、ウラン238にぶつける中性子の力を殺さないように、原子炉の中を、一般の原子力発電所が使う水ではなくナトリウムで満たしている。プルトニウム爆発のエネルギーがナトリウムの温度を上昇させ、その熱がタービンをまわす力となって発電される。しかし、ナトリウムは大気に触れると爆発するので取り扱いが極めて難しい。高速増殖炉の事故は、福島原発の事故と比較にならないほど甚大だろう。
 海外ではフランスが原型炉から一歩進んだ実証炉を開発したが、経済性に乏しく実用化が困難なことから閉鎖。米国、ドイツ、英国なども開発から撤退した。
 だから、もんじゅ廃炉決定で、日本も危険な核燃料サイクルへの執着も捨てるのかと思っていたら、そうではなかった。
 政府は、もんじゅ廃炉決定と同時に、使用済み核燃料の再利用を目指す核燃料サイクル政策は維持することも決めた。「新たなチャレンジを求める」として、もんじゅに代わる高速炉の開発を続けることになったのである。
 その決定の背後にあるのは、現在でもロシアや中国、インドなどは高速増殖炉の開発を推進しており、とくにロシアは、ウラル地方ベロヤルスク原子力発電所に建設した設備で、もんじゅの3倍の発電能力を誇る高速増殖炉を送電網につなぎ、試験を経たのち2016年10月末からフル稼働体制に入り、産業用に電気を供給するのも間近という状況で、「日本は先を越された。」と声をあげる政府および経済関係者も多いからだ。
 ロシアで高速増殖炉が事故を起こしても大変なことになるだろうが、国土の狭い日本と広大な土地を持つロシアを同じ土俵で語ることはできない。
 にもかかわらず日本が高速増殖炉の夢を捨てきれないのは、エネルギー自給のためだけでなく、どうやら放射性廃棄物の問題が関係しているようだ。 
 文部科学省は、高速炉は、中性子を高レベル放射性廃棄物の核種にぶつけることで、非放射もしくは短寿命の核種に変え、放射性廃棄物の体積を大幅に減らしたり、管理期間を約10万年から約300年に減らせる可能性があると説明している。
 さらに、日本が核燃料サイクルの計画を放棄しますと言えないのは、2018年に満期を迎える日米原子力協定の問題も関係している。この協定によって、日本は、非核兵器保有国として唯一、再処理施設や濃縮施設を持つことを許されている。原子力エネルギーの平和的利用を最重要国策にもあげ、それを認めてもらうことによって日本はプルトニウムを貯め込んでおり、その量はすでに48トン(4000発分の原発を作れる)に達している。(北朝鮮プルトニウム保有量は50kgと見積もられており、日本はその約千倍だ。)
 私たちは、戦後、原子力発電を主なエネルギー源として経済を発展させてきたが、その代償として、莫大な量のプルトニウムと、1万7000トンもの使用済み核燃料を貯め込んでしまっている。そのうち7000トンは、イギリスやフランスに再処理の委託が行われ、MOX燃料とガラス固化された高レベル放射性廃棄物が日本に戻ってきている。
原発を作っている国は、原発の材料となるプルトニウムを取り出すために使用済み核燃料の再処理を行ってきた)
 日本の場合、これまで使用済み核燃料は、原発の敷地内の冷却プール(常に水を入れ替えて冷やし続けなければいけない)と、六ヶ所村の再処理工場の冷却プールに保管されている。六ヶ所村のプールはすでにほぼ満杯であり、各原発のプールも、限界に近づいている。
 昨年末、もんじゅ廃炉が決定された時、にもかかわらずなぜ、六ヶ所村で使用済み核燃料を再処理しなければいけないか理解できなかった。もともと、使用済み核燃料の再処理は、プルトニウムを取り出して高速増殖炉で使うためだったから。
 「高速増殖炉の計画が頓挫してしまっているのに、なぜ危険を伴う再処理を行ってMOX燃料を作る必要があるのか?」と、六ヶ所村の再処理工場のPRセンターで質問すると、「MOX燃料は、もともと高速増殖炉ではなく、プルサーマル原発で使うものだ」という答えが帰ってきた。
 しかし、その答えは明らかに矛盾があり、1997年、もんじゅのトラブルのために高速増殖炉の運転が延び延びになってしまったからプルサーマル計画が立ち上がったことは知っている。
 プルサーマルは、普通の軽水炉原子力発電所プルトニウム核分裂させるという付け焼き刃的な計画で、ウランの時よりも中性子のエネルギーが大きいために原子炉が痛みやすく危険度も高いし、この方法で生まれる使用済み核燃料は高温で、より長いあいだプールで冷却しなくてはいけないし、放射性廃棄物の毒性も強くなると考えられていて、どのように処理すべきか、まだ決まっていない。
そして、日本にはまだMOX燃料を作る工場はないからイギリスやフランスに作ってもらっているが(日本から使用済み核燃料を両国に送って、 MOX燃料と高レベル放射性廃棄物が送り返される)、そのコストは、ウラン原料の9倍にもなる。
 どう考えても、何らメリットがない方法なのだ。
 とにかく、付け焼き刃的にプルトニウムを減らす方法として捻出されたプルサーマル計画であるが、当初は16〜18基を予定していたものの、危険性から地元の人々の説得も難しく、結局、愛媛の伊方や福井の高浜など5基だけとなり、そのうちの1つ福島第一原発の3号機は、2011年に爆発した。
 現在は、愛媛の伊方原発一つだけが稼働しているが、プルサーマル計画の現状は、日本が貯め込んだプルトニウムを減らす方法とはとても言えないし、コストも高すぎるし、何よりも使用済み核燃料の問題をより複雑にしている。 
 ②に続く


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