第979回 使用済み核燃料のことから原発問題を考える②

①から続く

 原子力規制委員会は1月18日の定例会合で、九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県)が新規制基準に適合したことを示す審査書を正式決定した。これで安全審査に合格した原発は全国で5原発10基となった。九電は年内の再稼働を目指している。このニュースに合わせて、報道ステーションでは、使用済み核燃料プールが満杯状態であるという問題を取り上げていた。
 http://www.dailymotion.com/video/x58y9fg
 この指摘は重要なポイントではあるが、実に巧みに、使用済み核燃料を中間貯蔵しなければならない現状の啓蒙報道になっている。
 日本の各原発の冷却プールは満杯に近づいており、2018年度から使用済み核燃料を再処理する予定の六ヶ所村のプールも、すでに満杯。他にスペースがなく、すでにあるプール内で、燃料と燃料のあいだを詰めて保管するか、乾式という方法でプールの外に保管することを決定しなくてはならなくなっている(これを中間貯蔵と言うが、2000年6月の原子炉等規正法の一部改正で、原発敷地外において使用済み核燃料の貯蔵が可能になった)。
 先週、六ヶ所村に行った時に、むつ市で準備が進められている中間貯蔵施設を見てきた。テロ対策ということで、入り口の看板以外、写真を撮ることは許されなかった。
 この中間貯蔵施設は、50年間を限度に東京電力日本原燃の使用済み核燃料が保管されることになっている。当初は3000トン、のちに2000トンを保管する施設が作られる。東電以外の電力会社は、この中間貯蔵に関して、まだ何も決まっていない。
 それはともかく、玄海原発の再稼動を伝える報道ステーションのニュースでは、大事なことに触れられていない。それは、今回、新基準の審査に通ったという玄海原発3号機が、プルトニウム核分裂させるプルサーマルであることだ。報道ステーションの報道は、私の考えすぎかもしれないが、中間貯蔵に関しては国民に問題意識を持ってもらいたいがプルサーマルのことは騒いでもらいたくないという政府に配慮しているように思われた。
 昨年の1月に再稼動をして、その後、停止になった高浜原発3号機もプルサーマルだった。また、現在、日本で稼動している原発は、九州の川内原発1号、2号基と、愛媛の伊方原発3号基だけだが、伊方もプルサーマルだ。原発の再稼動が、プルサーマルを中心に行われているという印象がある。これは明らかに、国内に貯まっているプルトニウムの処分の方法が他にないからであり、原爆を作ることができるプルトニウムを商業用に使っていかなければ、国際的な批判にさらされ、昨日のブログにも書いたように2018年に満期を迎える日米原子力協定にも影響を与える。
 もんじゅ廃炉が決定した今、日本は、プルサーマルを使ってプルトニウムを使っていくしかない。しかし実際には、MOX燃料中のプルトニウムの割合は、日本原子力研究開発機構の報告書では、発電後に4分の1弱しか減らないという。ウラン235の9倍もの価格で発電して、プルトニウムもたいして減らないし、使用済み核燃料の取り扱いも難しく核のゴミもさらに増えてしまうというプルサーマル計画は、プルトニウムを商業用に使っていますよというポーズでしかないのだ。
 今後も六ヶ所村で使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、そのプルトニウムが商用目的であることを証明するために高いお金をかけてMOX燃料を作るという、悪夢としか言えない核燃料サイクルを行わなければならない理由は、いったいどこにあるのか。
 いつでも核武装ができるようにするためだと極論を言う人もいるが、すでに4000発分の原爆を作るだけのプルトニウムが存在しているのだから、さらに作る必要などないだろう。
 本当のところはわからないが、一つの理由として、使用済み核燃料の最終処理の問題があるかもしれない。
 使用済み核燃料の再処理の危険性に関して様々な議論があり、再処理ではなく、原発から出た使用済み核燃料をそのまま直接処分する方法にすべきだという話もある。
 使用済み燃料は膨大な放射能の塊で、人間が近づけば即死してしまうような非常に強力な放射線を出し続けているが、再処理は、この使用済み燃料をブツ切りにし、大量の化学薬品を使ってプルトニウム、燃え残りのウラン、核分裂生成物に分離するわけで、放射能にまみれた廃液の問題もある。
 また、再処理の過程で大量の放射能が出るので人は近づけず、遠隔操作をしなければならない。コストも直接処分よりも遥かに高い。使用済み核燃料からウランやプルトニウムを取り除いた後、ガラス固化体にすることで少しは発熱量も体積も減り、放射能も弱まるらしいが、それでも人が近づけば20秒で死亡するほど危険なものであり、チタン等で作られたオーバーパックに納められる。表面温度は200℃以上の高温のために、すぐには動かせず、30-50年間冷却して発熱量が減ったところで地中に埋めるなど最終処分される予定なのだ。もとのウラン鉱石と同じレベルにまで低下するには10万年もの歳月を必要とする。
 なぜそこまでして再処理をするのかという問いにたいして、六ヶ所村に同行した経済産業省の人は、ウランやプルトニウムを取り除くことで臨界核分裂が起こる可能性がなくなることや、高レベル放射性廃棄物の量が減ること(4分の1と言われている)、さらに、10万年の保管期間を約8000年と短くできると説明した。(それに対して、異論を唱える学者も多い)
 しかし海外では、フィンランドスウェーデン、カナダ、アメリカなどは直接処分することになっている。
 しかし、再処理をした高レベル放射性廃棄物でさえ引受先がないのに、プルトニウムも含まれた使用済み核燃料を、いったい誰が引き受けるのか。
 直接処分であれ、再処理処分であれ、高レベル放射性廃棄物を処分しなくてはいけないという現実は変わらない。
 日本に限らず、韓国、ドイツ、イギリス、アメリカなどもまだ最終処分の候補地が決まっていない。アメリカはユッカマウンテンに一旦決まったが、オバマ政権になり白紙撤回された。ドイツや最大の原発国であるフランスはほぼ候補地が絞り込まれていると。フィンランドスウェーデンは最終処分地を、それぞれオルキルオト、エストハンマルに決定し、20年、24年に操業を予定している。
 最終処分地を決定したフィンランドは、オルキルオト原子力発電所のある島にオンカロという施設を準備中で、2020年から、地下420メートルを超えたところに、再処理を行わない高レベル放射性廃棄物を半永久的に埋めていく方針だ。
 曲がりくねったトンネルは最終的には42kmになる。内部は低温に保たれ、廃棄物を水分による腐食から保護するために岩盤は極度に乾燥している。鉄の鋳造物で囲った使用済み核燃料棒を、分厚い銅の容器の中に封印した上でトンネルに運び込み、この容器を、周囲の岩盤の揺れや浸水を防ぐ働きをするベントナイトと呼ばれる粘土で覆う。最終的には、さらに多量のベントナイトや粘土の塊を使い、トンネルを埋める計画だという。
 フィンランドは日本に比べて地震が少ないところだが、それでも放射能漏れを心配する声も大きいし、10万年という途方もない時間について一体誰が責任を負えるのかと反対する人も多い。
 このフィンランドの最終処分場で、日本の放射性廃棄物も処理してもらえばいいと無責任なことを言う人がいるが、その人は、現実がわかっていない。
 オンカロは、これから先100年かけてトンネルを拡大していくのだが、そこで処分することの出来る廃棄物の量は9000トンに過ぎない。
 我が国で廃棄処分しなければならない廃棄物は、「核燃料」だけですでに1万7000トンに達し、そのうち7100トンはイギリスやフランスに再処理が委託され、ガラス固化された高レベル放射性廃棄物が、フランスからは1310本返還されており、イギリスからは、2010年から10年かけて850本が返還される予定だ。(ガラス固化体の重量は、ステンレスキャニスター約100kgと合わせて500kg。さらに強力な放射線を遮断するチタンや炭素鋼でつくられるオーバーバックが6トンになる。)
 そのうえ、原発事故によって、福島原子力発電所の4つの原発は、建物自体が、高レベル放射性廃棄物になってしまった。
 フィンランドオンカロには入りきれない核のゴミを、日本はすでに生み出してしまっているということだ。
 六ヶ所村の再処理工場で処理して臨界による核分裂爆発の可能性のあるプルトニウムとウランを取り除いてガラス固化体にすれば、高レベルの放射性廃棄物の体積は小さくなるのかもしれないが(取り除かれたプルトニウムも、廃棄物とは呼んでいないだけで、取り扱いの難しい放射性物質に変わりない)、同時に膨大な低レベルの放射性廃棄物が発生する。その量はフランスのラ・アーグ再処理工場では元の使用済み燃料に比べて約15倍、六ヶ所再処理工場でも、事業申請書から試算すると約7倍の放射性廃棄物の発生が見込まれている。さらに工場の操業後は、施設全体が放射性廃棄物となる。
 こういうことを考え出すと、気が遠くなる。
 にもかかわらず、日本は、エネルギーのためだけでなく、プルトニウムが問題視されないように、まったく採算が合わない高コストで、原発問題を複雑化させるプルサーマル計画を優先的に推進しようとしている。
 これまで行ってきたプルサーマルで、MOX燃料の放射性廃棄物が、国内に少なくとも127トン保管されていることがわかっている。この放射性廃棄物をどうすればいいか何も決まっていないのに、愛媛の伊方に続いて、玄海原発プルサーマルを稼動させることになった。現在、安全審査に合格した原発10基のなかに、プルサーマルを実施する4つの原発がすべて入っている。愛媛県の伊方と佐賀県玄海に続いて福井県の高浜3号機と4号機のプルサーマルが稼動していくと、日本は、形は違うけれど、80年前にズルズルとはまり込んだ悲劇のスパイラルを繰り返しているのではないかと心配になる。
 福島原発事故は、80年前の満州事変かもしれない。あの時に辞めておくべきだったのだという歴史的節目は必ずある。改憲問題も大事だけれど、悲劇は、人々が意識できるような形で起こらない。戦争の悲劇は体験があるから不穏な動きには敏感になれるかもしれないが、原発問題は経験に乏しく、福島原発事故とは違う形で、現時点では予測できない新たな問題が起こる可能性がある。

③に続く