第1097回 新型コロナウィルスの死者と、肥満の因果関係。

 医療施設が整っていないから死者が膨大になると予測されている発展途上国では、いつまで経ってもさほど死者が増えず、飽食の国に犠牲が集中したという皮肉な結果。そこに今回の新型コロナウィルスの特徴がある。
 ベトナムは、人口が1億に近い大国だが、今回のパンデミックで死亡者が出ていない。
 今年の2月、ベトナムを訪れた。毎日、豊富な野菜を食べることができ、健康的な食生活であることを再認識した。そのベトナムは、世界中で肥満の少ない最上位の国である。そして、日本もまたベトナムよりは劣るが、世界のなかで肥満の少ない国の一つである。
  世界中の感染による死者数と、高齢者との関係は明らかだが、糖尿病などの持病や肥満の関係は無視できない問題だと思う。
  日本の死者数も欧米のようになると脅かされ続けたが、幸いなことに欧米の100分の1ほどの犠牲ですみ、緊急事態宣言が39県にて解除された。
 それでも、気が緩んだらまた感染クラスターが起こる、第二波がくる可能性が高いなどと、依然として不安から自由になれないが、不安の内容があまりにも抽象的であることが問題だ。
 感染してしまえば、本当に死んでしまうのか。たとえ自分が感染して死ななくても、大阪泉南市の愚かな市議が言うように、感染者は高齢者にとって殺人鬼なのか?
  そうした抽象的な不安の背景には、数理モデルという新しい感染者数分析モデルが政策決定で重要な役割を果たしてしまったことがあった。そのため、実生活でのリアリティと、専門家によるシミュレーションに大きな乖離が産まれた。実質、死者の数は、専門家が告げていたものの1000分の1ほどであった。
 この結果を、ロックダウンなどの成果だと主張することもできるが、被害の桁がこれほどまで違うということは、分析そのものに問題があるということだ。
 数理モデルの何が問題だったのか?
 数理モデルは、まあ簡単に言ってしまうと、たとえば感染被害が先行する地域の感染者数や死者数の伸びをもとに、一人の人間が持つウィルスが感染させる数などを割り出し、ウィルスの感染力の強さを決め、今後の感染の広がり予測や、他国においてもそうなる可能性があると決めてしまうことだ。
 このやり方が問題なのは、初期段階で感染したり、感染によって亡くなった人を、人類普遍のモデルとしてしまうこと。
 初期段階でPCR検査も大して行われていない時には症状が悪化した人たちが、感染者と数えられる。そして、その人たちが亡くなると、それが死亡率になる。
 だから、最初は、今回の新型コロナウィルスの死亡率は20%だなどと主張されていた。そうして亡くなった人たちが、高齢で、肥満で、持病のある人たちであっても、そうした個人的環境要因が無視されて、数字が作られる。
 世の中の全ての人が、高齢とか肥満とか持病があるわけではないのに、そして感染していても無症状の人がどれほどの数になっているかわからないのに、感染=死というイメージが作られ、複数の事例だけをとりあげてマスコミがウィルスの脅威を喧伝する。
 しかし、新型ウィルスは、ウィルスそれ自体が脅威なのではない。
 第一次世界大戦の時に世界中で多数の死者を出したスペイン風邪でさえ、ウィルスそのものの攻撃力はさほど強くなく、死因は複合的な細菌感染で栄養失調や劣悪な衛生状態との因果関係が強く、世界大戦という特殊環境下で、その条件が合致してしまったのだ。人類史最大のパンデミックとされるスペイン風邪は、人類史でもっとも多くの犠牲者を出したが、それは人類ではじめての世界大戦と関係している。
 歴史を振り返っても、疫病で多くの人が亡くなった史実が残っている時というのは、ほとんどにおいて気候異常や天変地異の記録がある。環境条件が変わった時、ウィルスによる致死率が高まったのだろう。
 つまり、ウィルスの犠牲は、ウィルスそのものの攻撃力によるものではなく、犠牲が大きくなる環境条件の方が問題で、そちらの方をより詳細に分析する必要がある。
 今回の新型コロナウィルスにおいて専門家が注意を促す第二波の対策も、その分析を生かすべきであり、次もまた全てを封鎖するという安易な手段を講ずるとしたら、経験から何も学べていないということだ。
 今回の新型コロナウゥルスに関しては、初期段階から、高齢者や糖尿病などの持病のある人の死者が多いことは注目されていた。
 平均寿命が低く、60歳以上で持病などを抱えながら生きている人がほとんどいない国々(ラオスカンボジア)では死者が出なかった。
 そうした新型コロナウィルスの被害が少なかった国々のなかで、私は、ベトナムが気になっていた。ベトナムの平均寿命はラオスカンボジアよりもかなり高く(75歳)、人口も1億に近い大国であるにもかかわらず、新型コロナウィルスの死者が0だからだ。いくら政策が優れていても、政策でそれほどの結果になるとは思えない。
 ドイツの感染政策も褒められているが、日本の10倍の人が亡くなっている。
 台湾やドイツや韓国が新型コロナウィルス対策の優等生のように言われるけれど、人口大国のなかで、かつ高齢者が多いのに死者がいないベトナムことが、もっともコロナウィルスに強かった国といえる。
 その理由として、見逃せないのは肥満率だ。
  WHOの統計で、189カ国中ベトナムより肥満率の低い国は、バングラデシュ、ネパール、エチオピアだけで、その差はごく僅かだ。
  ちなみに、ベトナムより肥満率の低い国々のコロナウィルスの死者は、人口1億のエチオピアが5名 人口2800万のネパール0名、人口1.6億のバングラデシュ283名と、かなり少ない。
 新型コロナウィルスの死亡者数の少なかった日本の肥満率もかなり低く、189カ国中の上位25に入っている。
 興味深いのがインドで、人口が13億5000万人で貧困層も多いので、コロナウィルスの死者がどれほどになるのかと心配されたが、死亡者1391人で、欧米よりはるかにすくなかった。そして、インドの肥満率は、ベトナムと大きく変わらず、世界で7番目に少ない。
 また、パキスタン(人口2億7000万人で、死者457人)やインドネシア(人口2億6200万人で死亡者は845人)など、人口が多いわりに死者の少なかった国も肥満率が低く、 WHOがAランクとしている。
 そして、コロナウィルスの死者が多かったのは、ベトナムの10倍以上(アメリカの場合は20倍)の肥満率の高い国々(ランクCとかD)ばかりである。
 とくに今回、欧米の高齢者施設での死者が多かったが、世界の中で、高齢で肥満で持病を抱えていながら生きていられるのが欧米諸国だけなのだ。
 私はこれまで日本の介護現場を長年取材してきたが、日本の介護現場に一貫しているのは、高齢者を世話するところではなく、高齢者の自律を支援すること。だから、ほぼ毎日のように身体を動かすレクレーションがプログラムに取り組まれている。
 欧米のように、身動きのできないほど肥えた高齢者が、じっと横たわっているという光景をほとんど見たことがない。そもそも欧米の高齢者のように太っていると、足も悪くて身体を動かせない。
 このあたりに、欧米諸国が新型コロナウィルスに狙い打ちされた大きな原因があるのではないか。
 第一次世界大戦の時のスペイン風邪は、栄養失調と劣悪な衛生状態と結びついて多くの犠牲者を出した。
 今回の新型コロナウィルスは、エチオピアバングラデシュなど衛生状態や栄養状態がけっして良いとは思えないところの犠牲が少なくて、豊かすぎて肥満率の高い国、成人病の多い国々の犠牲が多かったことは間違いない。
 新型ウィルスをただの殺人兵器のようなイメージで伝えていると、なんでもかんでも自粛ということになり、リアリティとかけ離れた得体のしれない不安ばかりが増幅することになる。
 
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