第1098回 総括/新型コロナウィルスの教訓。「ソドムとゴモラに追随するな。」

 最近になって、感染者の数、死者の数が急激に減ってきて、専門家が脅かしていたような欧米のような事態にはならず、緊急事態宣言の全面的解除の方向に向かっている。

 そして、「日本の対応がうまくいっていった理由」が、あれこれ語られたりする。そして、まだ安心できないとか、第二波が怖いと、主張する声が相変わらず大きい。

 そもそも、日本の対応がうまくいったなどという視点は、日本国内のことにしか意識がいっていないからだ。

 世界を見渡せば、うまくいっているのは日本だけではない。ベトナム、ネパール、カンボジアラオスエチオピアエリトリアパキスタンやインドやインドネシアでさえ日本より優秀、日本よりも人口あたりの死亡率の低いところや死者がゼロのところはたくさんある。

https://news.google.com/covid19/map?hl=ja&gl=JP&ceid=JP:ja

 対応がうまくいかなかった、というより対応することすら難しかった国は、実は世界の中のごく少数だった。

 アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、ベルギー、オランダの8カ国が、飛び抜けて犠牲が大きかった。

 そして、この8カ国は、今日の西欧文明が世界を覆い尽くしていく状況のなかで、常に注目を集めている国々である。海外のニュースでも、アフリカや中南米だけでなく、ヨーロッパでも、この8カ国以外のニュースはほとんど入ってこない。北欧や東欧で、今何が流行っているかを知っている人などほとんどいない。

 今回のパンデミックは、皮肉なことに、世界が注目する国々において悲惨な状況が発生した。だから、日本だけでなく、世界中が、この8ヵ国のようになってしまったら大変だ、医療設備がわりと整っている世界でもっとも豊かな国々ですら酷い状況になっているのだから、自分たちの国で同じことが起こったら悲劇がどれほどのものになるか想像もできないと戦慄してしまった。

 そうして数ヶ月が経った現在、結果はどうなったこいうと、世界全体の死者数30万のほぼ8割近くが、この8カ国に集中している。さらに、この8カ国の高齢者施設で、その4割が亡くなっている。つまり、世界の死者の三分の一が、欧米の高齢者施設という非常に限られた空間の中だけで発生している。しかも、その死のほぼ100%が合併症で、死者や重症者のほとんどが肥満である。

 この事実が、報道などであまり前面に出てこない。アフリカなどでパンデミックが起きたら、冷たく分析するのに、これら8カ国は、特別視されているのか、その実情に対して、あまり辛辣な意見は出てこない。

 はっきり言おう。この8カ国に象徴されるものこそが、この近代文明に覆い尽くされた世界のなかで、典型的なソドムとゴモラだったのだ。

 なぜ、この8カ国の、とくに高齢者施設に死者が集中したのか。それは、肥満で持病(生活習慣病)を抱えた高齢者が、世界中でもっとも集中した場だったからだ。

 世界で肥満率が一番高いのは、トンガやサモアなど太平洋の島々。このあたりは、コロナウィルスの被害は出ていない。彼らの肥満は、おそらく体質的なものだろう。

 そして、その次の肥満圏が、欧米の先進国。中世ヨーロッパ人の肥満が多かったわけでないだろうから、体質ではなく生活習慣病の可能性が高い。

 最近のThe Centers for Disease Control and Prevention (CDC) の調査で、2017年と18年の2年間、アメリカ国内の2歳から19歳の肥満率が19.3%ということがわかった。 2005年の頃は15%くらいで、増加しているようだ。なかでもニューヨーク州がひどいのだが、原因として、加工食品、砂糖入りの飲料、運動不足があげられている。

 今回、コロナウィルスが狙い撃ちした国々の特徴は、植民地支配や奴隷制などを通じて、外国から搾取して自国の繁栄を成し遂げた国々だ。

 それらの国々の現在の高齢者たちが現役の頃は、世界の中で唯一、長期間バカンスや短時間労働を謳歌していた。そして、肉体労働などキツイ仕事は元植民地からの移民にまかせ、自分たちは身体を動かさなかった。

 世界の富を独占し、キツイ仕事を他に押し付けた代償が、この8カ国の高齢者の肥満率の高さにつながっている。

(イタリアも、貧しい南部ではなく、豊かな北部で感染の被害が大きかった。)

 奇しくも、今回のパンデミックは中国から始まったが、その被害の大半は武漢で、国中に広がることはなかった。いくら封じ込めたからといっても、一人でも外に感染者が出れば、次々と感染が広がるはずで、アメリカなども早い段階で中国からの渡航者を拒絶していたにもかかわらず、感染爆発となった。

 ハイテク都市の武漢は、中国のなかの欧米先進地帯と一緒である。ここから感染爆発が起きた。しかし、それ以上にならなかったのは、高齢者たちが、その人生の大半を貧しさのなかで過ごしてきたからだろう。

 なので中国の成人肥満率は、5.6%で、日本の4.5%に比べて少し高いが、 WHOは Aランクとしており、欧米先進国の20%や、アメリカの30%に比べて、はるかに低い。

 

世界・成人の肥満率ランキング(WHO版)

http://top10.sakura.ne.jp/WHO-WHOSIS-000010R.html

  アメリカ31.8%、イギリス24.9、スペイン24.1、ベルギー19.1%、オランダ16.2%、 イタリア17.2%、ドイツ21.3%、フランス15.6%。

 アメリカは若い人でも肥満が多い。それに対して、フランスやイタリアやオランダなどの場合、若い人はスタイルのいい人が多く、全体は押し下げられているが、その分、高齢者の肥満率が高く、ほとんどの高齢者が肥満だということになる。

 それに対して、コロナ感染の死者が出なかったベトナムは1.6%、ネパールは1.5%。人口の割に少ないインドは1.9%、日本は、4.5%であり、欧米との差は大きい。

 インドは、欧州の国の人口の20倍ほどあるから、実数として、50万人とかの死者が出てはじめて欧米並みの被害ということになる。しかし、実数でも欧米の10分の1の犠牲者となっている。

 全てがそうだと言えないが、 WHOの肥満ランキングを見る限り、現在でも、仕事をする際、自分の身体を使う、自分の足で歩くといったことが普通に行われていて、加工食品がそんなに流通していないところは、肥満率が高くなく、それらの国で、欧米のような感染爆発が起きたところはない。

 日本においても、今回のコロナウィルスの死者は、東京周辺や大阪周辺など大都市圏に集中し、感染者が一人も出なかった岩手など東北は被害がなかった。

 たとえば岩手の人たちが、毎日の食べ物で、どれくらい加工食品を食べているのか。そして肥満率はどうなのかを調べれば、感染が少なかったこととの因果関係がわかるだろう。

 世界を見渡しても、土地の食べ物が食卓に並び、野菜をふんだんに食べ、身体を動かすことが当たり前の地域、たとえばベトナムやネパールなどは当然ながら肥満率は低く、それらの地域では、コロナウィルスの死者が一人も出ていない。 

 現在の欧米先進国の高齢者だけが、長いあいだ、飽食の時代を過ごしてきた。

 日本も決して褒められたものではないが、それでも、今の高齢者は、敗戦後、貧乏な時代を長く過ごした人が多い。

 そういう人たちが入所している介護施設においても、太った人はそんなにいない。

 しかも、日本は世界一の長寿国であるため、数十年前から、介護制度の在り方を真剣に議論し続け、介護施設で高齢者のお世話をするという概念がない。

 日本の介護制度の優れているところは、高齢者の自律支援を行うということが、ケアマネジャーを軸に、徹底されていることだ。

 なので、介護施設などにおいて、毎日のように身体を動かすトレーニング、レクレーションがプログラムに入っている。食事においても栄養士がついて、栄養面、健康に気が使われている。

  そういう詳細な分析をせずに、コロナウィルス対策の先生方は、緊急対策後の対応を練るために、相変わらず、ドイツやイギリスを参考にするなどと言っている。

 日本の知識人は、明治維新以降の欧米追随意識が抜けきっていない。それが、今回の過剰な騒動につながった。

 アフリカの8つの国で20万人が亡くなっていても、これほどまで騒ぐことはなかっただろう。心配そうな顔はしても、心のどこかで、「ああアフリカね、仕方ないね」と整理して終わり。

 現在、日本国内のコロナ騒動が少し鎮静してきて、専門家が主張していたようなイギリス並みの結果にはならずに拍子抜けしたのか、メディアは、新しい話題を探し出してきて、懲りずに大衆を煽ろうとする。

 昨日、夕食を食べながらニュースを見ていたら、今度はインドがコロナウィルスで大変になっているぞーという調子で情報が流れてきた。

 この24時間内で感染者数が3970人にのぼり、アジア最大の感染者数となった。事態は悪化する一方であると。
 しかし、アジア最大というが、アジアはもともと感染被害が小さい。死者がまったく出ていない国も、ベトナムカンボジアラオス、ネパール、ブータンとたくさんある。そして、インドの人口は13.5億もある。
 現在、感染が収まりつつあると報道される欧州の新規感染者数だが、スペインは5月15日で2138人。イギリスは3560人。これらの国々は、人口で、インドの20分の1しかないのに、今現在の新規感染者は、インドとさほど変わらない。ということは人口あたり、今現在でも、欧州はインドの10倍以上ひどいということ。
 アメリカに至っては、5月14日、1日で26,776人の新規感染者。人口はインドの4分の1なのに、新規感染者は7倍もある。今のアメリカは今のインドよりも30倍近く酷いということだ。なのに、次はインドが酷い状況になっていると煽るメディア。ゴールデンタイムの NHKでもこうだから、昼間のダラダラと時間の長いワイドショーの場合、どうなっているのか(よく知らないが)。

 あの不衛生なインドなら仕方ないだろう、これからが大変だという印象だけ植え付けているメディア。
 ニュースの印象操作は、ひどすぎる。分母を伝えなかったり他国と比較することなく、感染者数だけ(しかも重症かどうか、死者がどれくらいかも伝えない)を吹聴するなど印象を操るばかりでなく、もっと実態に即した数字を比較したりしながら分析する努力をすべき。

 インドの死者は2870人。人口のわりにかなり少ない。そして、インドの肥満率は、世界トップレベルの1.9%で、欧米の10分の1だけれど、人口が欧米の国の20倍だから、肥満の人の数は、欧米よりは多い。しかしインドの平均寿命は、欧米よりも10歳以上低い。高齢で肥満で生活習慣病を抱えながら生き続けている人が少ないのだろう。結果、人口あたりの死者は欧米の200分の1なのだ。

 結論として、今回のパンデミックの皮肉は、ウィルスが集中的に攻撃したのが世界中の人々が常に注目して憧れて追随したがる欧米8カ国であったことだ。しかしそこは、自らの豊かさや安楽さだけを優先して、植民地支配や奴隷制度で他者を搾取してきたバビロンの飽食の世界だった。

 文明の末期に生きるわたしたちは、今回のような災いに対して、「ああ、アフリカやアジアね、しかたないね」ではなく、「ああ、あの飽食の欧米ね、それはしかたないね、自分たちも気をつけなくてはいけないね。」とならなければいけない。

 ソドムとゴモラに追随してはいけない。

  今回のパンデミックは、飽食をターゲットにしており、100年前のスペイン風邪と逆のパターンの文明病のようなものだ。

 100年前のスペイン風邪は、栄養失調と劣悪な衛生が複合感染を引き起こして人命を奪った。そうした環境要因を作り出したのが第一次世界対大戦だった。

  いずれにしろ、パンデミックの歴史を振り返ると、必ず、人為的な要因がからんでいる。

 (上に述べた8カ国の共通点は、もう一つあり、結核発展途上国の病と決めてBCGワクチンをやめた国々であるということ。このことについては、第1094回の記事で書いたので、ここでは省略した。)

 

 

*この文章を読んで、じゃあブラジルはどうだ、ロシアはどうだと言う人がいますので、念のために書き添えますが、私は、欧米8カ国でパンデミックが終わると言っているのではない。

 欧米8カ国のライフスタイルが、豊かさの基準のように信じ込んで、その真似をしたがる人は世界中に増えており、実際に各国の肥満率は高まっている。

 ブラジルの成人の肥満率も19.5%で、アメリカよりは低いが欧州とさほど変わらない。

 ただ、ブラジルは人口2億でベルギーの19倍もあるのに、死者はベルギーが9500人に対して、ブラジルは15000人。数だけ見れば、ブラジルは世界で感染死者数が多い国ということになるが、人口あたりの数字は、欧州よりもかなり低い。

 しかし、そういう重箱の隅をつつくようなことはどうでもよく、問題は、明らかに感染死が多いところと、感染死がまったくないところがあり、それぞれの傾向を読み取ったうえで、なぜ詳細に研究分析しようとしないのかということ。

 

 肥満率との相関関係は明らかにある。しかし、たとえば発展途上国で、ここ数年、急激に肥満が増えて青年や中年でも肥満が多い国と、欧米のように長いあいだ豊かさを享受してきた結果として、高齢者の肥満が非常に多い国があり、その違いも分析する必要があるかもしれない。

 データを見ても、肥満や持病が、コロナウィルスによる死の危険性を高めることは間違いないが、さらにそれが高齢者という条件と重なったら、ほぼ絶望的に厳しくなるという事実。

 そういうことを踏まえて、生活を見直していかなくてはならないし、現状の対策においても、今の大人たちが原因を作り出した文明病とも言えるこのパンデミックで、若い人も巻き込んで、彼らの夢や学習機会を奪うという愚かなことはやめた方がいい。

 

 

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