特定秘密保護法が、政府の権限をさらに強化してしまう。

特定秘密保護法」についてのパブリック・コメントは9/17迄です。(こうした動きに対して、自分の身元を明らかにして政府に異を唱えることじたい、目をつけられそうで、なんとなく恐い雰囲気になってきました。本当は、堂々と身元をあかして内閣官房内閣情報調査室に意見を提出すべきなのでしょうが、自分の名を入れなくても意見提出は可能です。)

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060130903&Mode=0

 東京オリンピック決定で、各メディアは、浮かれたように騒ぎ立て、招致活動メンバーを英雄扱いし、これからの七年間で日本に新たな目標ができた、よいことだと気分を煽っています。この時代に設定すべき目標が、そうしたバブル的な、お祭り騒ぎの盛り上がりであることは、何だかとても残念です。だって、そういう高揚感は、その期間だけのものにすぎず、それが終わったら反動が残るだけであり、また新たな刹那的な目標と興奮を求めることに一生懸命になり、根本的な問題から目を背け続けることになるのだから。

 昨日もNHKで消費税の問題が議論されていました。その中で、消費税はあげるべき、できれば20%まであげて、その代わりに社会保険や年金などの負担は無しにすべきだなどという意見もあった。消費税をあげると生活が苦しくなるから反対、それに対して、借金が莫大にあるのだから消費税をあげるのは仕方が無いという意見。それぞれがメディアなどの影響を通じて抱いている漠然としたイメージだけで、意見を言っている。

 消費税を5%から10%にすることで、どれだけの税収アップになるのか、日本の社会保障で、どれだけのお金が使われているかすらよくわからずに意見を言う。そうした意見が出た時に、NHKも漠然としたイメージしか伝えず、詳細なデーターすら出そうとしない。

 単純に計算しても、消費税を20%まであげたところで(販売状況がまったく変わらないとしても),消費税による税収は40兆円ほどで、今より30兆円増えてトータルで75兆円程度。日本の社会保障は、税金の投入分(国債も含む)と、毎月天引きされている社会保険費や年金を足し合わせて、毎年100兆円必要だから、消費税を20%にして、社会保険や年金の負担をゼロにしても、まったく足りない。

 テレビなどに出てくる良識的知識人(大勢の人々を敵にまわさないことしか言わないが)は、増税社会保障につながらなければ意味はないと胸を張って言う。

 そういう声は、既に正しいとされていることを、大きな声でなぞっているだけであって、現状を変えていく力にはならない。だって、既に100兆円も使っている社会保障の金額を上積みすることで、税収が40兆円ちょっとしかない国の借金が減っていくはずがないのだから。一番やりにくいことだけど、社会保障のお金が本当に適正に使われているか、見直していくしか道はないのだ。ちょっとしたことで病院に行ったり薬に頼る人々の数の多さとか・・・。本気で国の借金を減らそうと思ったら、税収アップと、社会保障も含めて支出を減らすという、国民に嫌われる策をとるしかないだろうが、それを実行すれば間違いなく次ぎの選挙で負けるから、そうはできない、ということが、ずっと続いている。

 それはともかく、消費税を5%から、いったんは8%にして、政府が今言っているように5兆円を景気対策に使うという判断にしたがえば、増税による税収アップは6、7兆円で、そこから5兆円を公共事業などの景気対策に使うわけで、さらに設備投資を促すために法人税を減らすことも検討などと言っているわけだから、消費税をあげても収支バランスはさらに悪くなる可能性があり、1000兆円もある国の借金が減っていくことに、ほとんど貢献しない。

 けっきょく消費税アップによる景気の減退と、公共事業投資などによる景気刺激との綱引きでしかない。それでも、自民党政府にとっては、国民一人ひとりからすくいあげたお金を、自分達の判断で、自分達の支持者たちに使うことができるという構造になる。

 安倍政権が、現在強引に進めようとしていることを見ると、アメリカのオバマ大統領がそうであったように、国民にできるだけ嫌われないように策を講じながら、選挙で勝たせてくれた経済界など諸々の支援者達にどれだけ還元していくかということに尽きるのではないだろうか。

 さらに今、「特定秘密保護法」などという政府の権限を教化する法律が作られようとしている。

 http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013091302000147.html

 原発問題がまだ解決していない状況のなか、東京でオリンピックを開催することに対して、海外の人々が、まだ完全に納得しているわけではない。そのことをわかっている日本政府は、これからの七年間で、日本に関するネガティブな情報が海外に漏れることを極端に怖れ、隠そうとするのではないか。

 そうした情報が外に漏れることは、国益に反するという判断を行なう可能性が高い。
 恐いのは、こうした法律を盾にして、政府に取り締られることだけではない。オリンピック開催という大義名分と、その熱狂の渦の中にいる人達が、政府と一体となって、怒りの目で、そうした、彼らにとっての”裏切り者”、”国賊”を許さないという雰囲気を作り出すことだ。
 これから、日本社会が、オリンピックに向けて盛り上がっていくなか、福島原発において非常に大きな問題が発生した時、福島に関係する組織の長は、それを正直に発表できるだろうか。おそらく政府に相談し、政府は、それは黙っていた方がいいという判断をする可能性がある。それでも現場で働く人間で、その事実を知り、良心のある者は、情報を伝えようとするかもしれない。その際、この『秘密保護法案」は、その良心のある者を、特定秘密を漏らした罪ということで、最高で懲役十年の重罰を科すことができる。(現在の国家公務員法では最高一年、自衛隊法では五年)。
 オリンピックによって、真の意味で日本が活性化することは、とても望ましいこと。しかし、オリンピックという大義名分によって、あまり人に知られたくないような不吉なことが、隠される可能性も大きい。いくらそうしないようにすると誓っても、人間心理として、いったん大きな流れとなって走り出して大勢が興奮して盛り上がっている状況に水を差すようなことは、なかなかできにくくなる。よほどの信念と勇気がなければ。
 少しずつそういう方向になっていくことが、一番不気味だ。法律によって、私たちの中の問題意識などが、少しずつ解体されていく。そして、難しい問題はよくわからない、政府に任せておくしかない、面倒くさい事は考えたくないという、開き直った心理がはびこっていく。

 戦争は、多くの人々が牽制する状況の中で、突然起こったりするわけではない。

 多くの人が、情報を絶たれ、情報を得ようと努力もせず、感覚的に麻痺した状況で、一部の者の判断で、少しずつ戻れないところまで進んでいき、ニッチもサッチもいかなくなって暴走速度が早まり、崖から転げ落ちるようにして始まる。

 人間だから、誰しも判断ミスをするが、その判断ミスを、鬼の首をとったように大騒ぎするしか能のないメスメディアにも問題がある。そういう姿勢が、けっきょく人々を思考停止に導き、政府や官僚に秘密主義の方向に導く。

 一つひとつの判断で大騒ぎするのではなく、この国が、今どういう状況に置かれているのか冷静に伝え、下された判断を、場合によっては柔軟に修正しやすい環境を残しておくことが大事なんだけれど、今の日本の空気は、それが一番難しいことになっている。進路にしても、他の人生プランにしても。