今、起こっていることが、将来を決めていく。

 今日の新聞には、今後の社会変化に大きく関与しているのではないかと思われる記事が幾つかでていた。
 連日、ニュースになっている集団的自衛権のことは言うまでもないが、TPPにおける「国有企業改革」のことが、とても気になる。TPPの話題は、コメや麦、牛、豚肉などの農産物「重要5項目」に焦点が当てられていたが、本丸は、この国有企業改革ではないかと以前から思っていた。
 農産物に関する議論は今に始まったことではなく、数十年も前から交渉が続けられてきており、色々と探り合いながらも、日米のあいだで、その時々の状況に合わせた落としどころを確認し合っているように思われる。
 国有企業改革に関しては、郵政改革など、これまでも取り組みがなされてきているが、これから益々加速化していくのではないか。
 TPP参加国のあいだでは、政府が支援する国有企業などが力を持っている国は、他国の企業が進出するうえで公正な競争ができないという理由で、国有企業に対する優遇措置を撤廃していくことや、国有企業そのものを排除していく圧力が、今後、強まっていくことだろう。
 保険契約数800万を超える世界最大の生命保険会社であるかんぽ生命は、郵政民営化までは郵便局が運営しており、大株主の日本政府の後ろ盾があるため、アフラックやアリコなどアメリカの保険会社が日本でビジネスを行なう上でフェアではないという理由で、独自にがん保険を開発したり販売できなくなっているが、同様の措置が、さらに広がっていく可能性がある。
 ベトナムやマレーシアなど、数十年前の日本のような新興国は、現在でも国有企業が経済を牽引し、主要なインフラなどの整備を担い、政府がそれを支援する形がとられているが、それは仕方が無いことだと言える。 
 日本においても、鉄道、電気、ガス、水道、郵便、(放送?=NHK)や、その他の主要な産業においては、国有もしくは半官半民の企業が、それを担ってきた。
 世界に誇る日本の素晴らしい制度である国民皆保険は、直接的に、国家が管理運営してきた。
 社会が未発達、未整備の状態から脱け出して安定的に成長していくうえで重要な領域において政府が保護していくことは、安全保障上も重要なことであった。
 しかしながら、長期にわたり政府の保護を受け、国の発展のためという当初の志も次第に喪失し、競争にさらされていないがゆえに緊張感がなく慢心してしまうと、次第に、機能不全に陥り、コスト意識も低いために運営効率の悪い組織になってしまう。日本における政府系の組織を見れば、それは明らかだ。
 そして、今朝の新聞に、2008年から始まった公益法人改革で、公益法人が三分の一に減ったという記事もあった。
 これまで、公益法人の設立や運営監視は監督官庁に委ねられ、それが天下りや不透明な契約につながっていた。しかし、改革によって、第三者機関が審査するようになり、公益性が低いのに公益法人を名乗り税等の優遇措置を受けていた法人の存続や、安易に仕事を受注するための官僚とのもたれあい、官僚の天下りが、少しずつできなくなっているということだ。
 これもまた、公正な競争の阻害を防止する一種の国有企業改革と言えるだろう。そのことによって、無駄な税金使用が減少することも間違いない。
 もちろん、審査が厳しくなって、公益性が高いのに申請を諦めた法人もあり、過渡期ゆえの問題もあるだろうが、時代が変容していることは実感できる。
 さらに今日、光回線を独占的に支配していたNTTが、光回線を一般企業に卸売りにする方向へと動き出したという記事があった。
 NTTドコモは、NTTの光回線などとセットにしたAUのスマートバリューのような「セット割り」を、総務省から認められていない。独占的な光回線を、グループ内で独占する事が電気通信事業法で禁じられているからだ。しかし、その光回線を一般企業にも解放すれば、セット割りができる。ソフトバンクAUに押されて減収減益の続くドコモの業績を向上させる為に、独占体制を崩さざるを得ない状況になっているということだ。
 それによって、光回線もまた、スマートフォンでイオンやビックカメラが売り出したような、速度などに制限はあるものの格安なサービスが始まる可能性が高まる。
 スマートフォンもそうだが、インターネット回線の契約は、メールだけ確認できればいいという人も、動画を頻繁に使う人も、これまでは最低料金がほとんど同じだった。速度は遅くても格安ならばそれで十分という人は、けっこういる筈であり、大手の独占的支配が崩れることで、細分化された顧客ニーズに応えた多様なサービスが生まれる。
 またサービス料金が格安になることにより、さらにスマートフォンユーザーが増え、一人一台という時代になれば、災害時において無人飛行期にWIFIアンテナを積んで飛ばしてWIFI通信によって生存者の居場所を探り当てて救済するアイデアや、重度の要介護状態で一人暮らしをしている老人支援などの具体性が増す。(同時に、一人ひとりが国家に監視されやすくなるということも意味する)

 さらに今日のニュース記事に、原発保有する大手電力会社の独占的支配の構造が崩れつつあることが書かれていた。
 大手電力会社と契約を打ち切った企業や自治体が、2013年度に14400件にものぼる。その大部分が、新電力に契約を切り替えた。国が進める電力改革によって2016年度には家庭向け市場も全面自由化される計画であり、その巨大な市場を狙って、続々と、一般企業が参入している。
 新電力参入200社突破→http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140508/biz14050808110003-n1.htm
電力小売り自由化、なぜ異業種から参入続々?携帯、石油、外食…各社“武器”を活用
http://biz-journal.jp/2014/04/post_4627.html

 そしてもう一つ、国の保護と管理を受けていた農業について、今日の新聞では、農協の権威的存在であるJA全中の影響力を弱めて、各地の農協が地域の特性に応じた自由な経営をできるようにする動きのことが伝えられていた。これまでJA全中は、地域農協から負担金として77億円(全収入は116億円)を徴収していた。その金の力で、おそらくロビー活動を行なって政府の保護を引き出し、全国の農産物の生産と流通を安定的にするという口実のもと、生産者を金融面で支援しながら借金で縛り、ルールを強要し、標準的で画一的な農業生産体制が築かれてきた。そのことによる貢献もあったが、弊害が大きくなってきた。その弊害を解消するために、これまでの制度に依存してきた自民党の農林族の強い反発を受けながらも、改革が進められている。JA全中に対する地域農協の負担金を廃止することは、その要になるかもしれない。JA全中の一極支配体制を崩すことで、各企業と各地域農協が自由意思によって共同設立する農業生産法人を増やしやすくなる。


 TPPというのは、アメリカの要求に対して日本が抵抗しているという印象を持たれがちだが、もしかしたら官僚の中には、このTPPを利用して、これまで議論されながらもなかなか進まなかった国内の改革を一挙にやってしまおうと考える人達がいるのではないだろうか。
 それは陰謀というより、国の借金が1024兆9568億円もあり、国債残高のGDP比が、日本の財政が完全に破綻した太平洋戦争末期と同水準という状況を改善していくためには、そうした試みなくしてはあり得ないと考える官僚がいてもおかしくないだろう。
 その中に、現時点で年間115兆円(2014年度予算)にもなる社会保障給付(年金56兆円、医療37兆円、それ以外の福祉22兆円)に関することが、どれだけ含まれているのか。
 社会保障に充当する金額の64兆円が社会保険料(事業主が29.7兆円、被保険者が34.4兆縁を拠出)、そして42.9兆円(国が31兆円、地方が12兆円)が税金である。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/09.pdf
 
 現在、税収が45兆円ほどしかなく、仮に消費税を5%から10%にしたところで10兆円ほどの税収増になるだけで、必要な社会保障給付の金額とは大幅な差があるわけだから、この制度に何かしらのメスを入れざるを得ないと官僚が考えることは自然であり、その為に、TPPという黒舟が利用される可能性がある。
 それがいいとか悪いとかの議論ではなく、自分自身の人生を考えるうえで、そうした可能性がある以上、それに備えた生き方をせざるを得ないということだ。
 今日のニュースでも、田村厚生労働大臣が、年金の支給開始年齢を、当人が希望すれば75歳まで引き下げる提案が与党から出されているということを表明した件について触れられていたが、年金をあてにした老後生活などは、私の将来においてあり得ないかもしれない。
 TPPの国有企業改革は、日本国内の改革に関することだけを見ていればいいのではない。日本はアメリカと足並みをそろえ、ベトナムやマレーシアなどの新興国に対して圧力をくわえ、自国の企業の海外進出や輸出拡大につなげることを目論んでいる。原発技術の輸出なども、それに絡んでくるだろう。家電製品や自動車を販売していた時よりも、他国の、よりシビアな領域に関与していくことも想定される。
 集団自衛権の問題は、同盟国であるアメリカが攻撃を受けた時に云々と、国民を納得させる為に極めて単純化した話が展開されているが、現実的には、たとえば、現在、中国と緊張関係にあるベトナムと日本が、これまで以上に深い絆で結ばれるようになり、ベトナムの要請を受けて日本の自衛隊が中国と戦う状況になる可能性が、今では想像しにくくても、TPPなどを通じて、次第にそういう国際環境が整えられていくかもしれない。
 現在の状況に照らし合わして考えるだけではダメで、現在の様々な出来事が、今後どういう状況を作り上げていくかということをしっかりと想像したうえで、法律の改正や、法律の解釈の変更のことについて考えなければ、一度、確定させてしまったものは、当初は想定していなかった様々な事態に対しても、強大な影響力や支配力を持ってしまう。

 現在、安倍政権が、57年前の砂川事件最高裁判決に、集団的自衛権の行使容認を合理化する論拠が含まれていると詭弁を弄しているように。
 いずれにしろ、今日一日でも、将来に大きな影響を及ぼす可能性のある出来事を、幾つも視野に入れることができているわけで、それらは単に目の前を流れ行くニュースではないことを自覚し、だからといって不安を膨らませるばかりではなく、冷静に自分の人生設計を行ない、少しずつ実践し、備えておかなければ、本当にどうにもならなくなってしまう可能性が高い。


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