有機体は、それがそれ自身であるために全宇宙を必要とする。

 まもなく、復刊第5号(4月1日発売)ができあがります。現在、お申し込みを受け付けております。→http://www.kazetabi.
 復刊第4号は「死の力」でしたが、次号は、いのちの文(あや)です。
 死あってこそ生ですが、その生は、何一つ単独で存在せず、何一つ切り捨てることができず、言うに言われぬ関係性の中で微妙なバランスを保つことでこそ輝きを放つということを、誌面でお伝えできればと思います。
 20世紀でもっとも重要な哲学者の1人であるA.N.ホワイドヘッドは、『科学と近代世界』の中で、「有機体は、それがそれ自身であるために全宇宙を必要とする。」と書いていますが、宇宙の全歴史が流れ込んだ現在という一瞬の生を、どう生きていくかという大きな課題が、私たちの前に横たわっています。
 現代社会は、経済優先などのスローガンのように、全体のごく一部の効率化や最適化をはかることが目的にされがちで、それを徹底すると、その目的に適わないものは安易に切り捨てられ、個と個が分断され、関係性が歪になり、生が蝕まれてしまいます。
 いくら物質が溢れようとも、幸福感に乏しいのは、そのあたりに理由があるのではないでしょうか。
 このたびのロングインタビューは、哲学者の鷲田清一さんにお願いしました。生きた方として正しいか間違っているかではなく、健やかに生きるためのセンスというものが重要な気が致しますが、鷲田さんには、「いのちのはずみー生存の美学」というテーマで、じっくりとお話を伺いました。話の随所に、日本人の美意識の一つである、自分に執着しない「いきの哲学」が出てきますが、この美意識を現代に蘇らせる必要性も感じました。
 今朝の京都新聞の第1面に、その鷲田清一さんのエッセイと、京大の「統合創造学」創設の記事が紹介されていました。「統合創造学」は、宇宙物理学、基礎物理学、経済学、解剖学等々、分野を超えた人達が参加して、従来の縦割り構造の研究では解決しきれない現在の様々な問題を見つけ、その解決策を探る新たな学問のようです。
 現代の様々な問題は、政治や経済、環境など多様なシステムが複雑に絡んでおり、個別の研究では対応しきれず、統合的な視点が必要になると思われます。にもかかわらず、例えば経済優先の論理によって、金融など一部のシステムの効率化や最適化を計ろうとすると、逆に他のシステムの負荷が増大し、全体として非常に危うい状況になると思われます。原発問題などは典型ですが、経済の論理だけで捉えようとすると、全体として非常に危機的な状況に直面することになってしまうのではないでしょうか。
 「統合創造学」という新しい学問が目指すものは、これまでの学問の多くのように要素還元的に個別の原因究明を目指すことではなく、世界そのものがカオスであることを前提に、想定外の事態が起きても全体が破綻しない柔軟なシステムをつくる基本原理や理論を導きだすことのようです。問題を起こす要素を特定化してそれを消し去るという発想ではなく、問題が起きるメカニズムの解明と、問題が大きくならないようにすることの方が大切であるというスタンスで、学問が蛸壺状態に陥ると、それは不可能で、領域を超えて、学際的なネットワークが必要になってくるでしょう。
(癌の治療でいえば、特定の癌細胞を攻撃して殺しても、その負担で身体が弱まれば、癌の転移など、問題が複雑化するので、いのちのメカニズム全体にとっての健やかさを追求するということでしょうか)
 この統合創造学のキーマンが、京大総長の山極寿一さんや、京大の基礎物理学研究所の村瀬雅俊さんで、私が京都で行なっている「風天塾」で、山極さんには第一回目にご協力いただき、第2回目と第3回めで、村瀬さんにご協力をいただきました。村瀬さんには、次号の風の旅人の復刊第5号(4月1日発行)で、『生命と全体性」という目も眩むような内容の原稿を執筆していただきました。
 そして、今朝の京都新聞の同じ誌面で、同じく次号の風の旅人のロングインタビューを依頼した鷲田清一さんが、現在の大学教育について論じていました。
 鷲田さんは、この中で、昨今の大学が、効率や効用、短期的な業績などといった経済合理性を目指すことを強いられ、窒息しかけている状況を憂いています。大学が専門学校化し、まさに全体のうちのごく一部のシステムの効率化や最適化をはかる組織に成り下がってしまい、個と個が分断されて関係が歪になり、結果的に、全体を統合する新たな視点というのが生み出されにくなっているわけです。
 鷲田さんが指摘している現代の教育の問題と、それに反旗を翻すような村瀬雅俊さんや山極寿一さん達の取り組みは、まさにこれからの「学び」の行方を占ううえで、とても大事だと思います。
 偶然とはいえ、鷲田さん、山極さん、村瀬さん達の問題意識と壮大なチャレンジは、次号の風の旅人のテーマと深く関係のある内容で、色々なことが複雑に絡みあって、シンクロ現象を起しているように思われます。
 風の旅人の復刊第5号<49号>は、ホームページで受け付けています。

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