第916回 今この一瞬ではなく、今に連なる全ての時間の中を生きる。

12(撮影:川田喜久治) 

 

 まもなく発行される風の旅人復刊第6号。2003年4月に創刊して以来、50冊目の節目となります。テーマは、「時の文」〜不易流行〜。

 現在、多くの人が感じているように、一つの時代の価値観が終焉を迎えつつあるような気がします。そういう時、安易に過去に戻ろうとするのではなく、時の流れを俯瞰することで時代を超えて変わらないものを察知し、そこから、現代の状況に応じた新たな価値観が立ち上がってくるのではないかと思います。

 それは、今この一瞬ではなく、今に連なる全ての時間の中を生きる、ということです。
「時の文〜不易流行〜」というテーマには、そういう思いが反映されています。
 巻頭の写真は、今年80歳でありながら現役バリバリの川田喜久治さんの新作が、26ページにわたって展開します。川田さんは、現在、「Last things」というテーマで撮影を続けていますが、これらの一連の写真には、”今”に流れ込んでくる時間のありとあらゆる様相が凝縮しています。”今”に流れ込んでくる”時間”の凄まじい奔流です。その時間を通り抜けた時に、”今”のこの一瞬ではなく、”今”に連なる時間の全貌が、見渡せるような感覚になるでしょう。新しい視点は、そのように”今”を俯瞰するところから始まるような気がします。
 現在、世間で話題になっている東京オリンピックのエンブレムに関わる本質的な問題は、泡のように生まれては消えていく"今”の現象に、いかにうまく寄り添ってうまく処理し、うまく根回しし、うまく立ち回るかという矮小なビジネス発想を、”今”の代表作品のように祭り上げるところにあると思います。(グラフィックデザインにかぎらず、建築やアート分野にも類似は多い)
 そんなビジネス発想もまた、泡のように消える今の現象にすぎず、”表現”とか”作品”というからには、もっと大きな時間のなかで”今”を捉え治す視点が必要だと思います。
 風の旅人 復刊第50号は、ホームページで詳しく紹介しています。お申し込みも受付中です。http://www.kazetabi.jp/
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*「風の旅人だより」にご登録いただきますと、ブログ更新のお知らせ、イベント情報、写真家、作家情報などをお送りします。 「風の旅人だより」登録→

風の旅人 復刊第6号<第50号> 「時の文(あや) 〜不易流行〜」 オンラインで発売中!

Image

鬼海弘雄さんの新写真集「TOKYO VIEW」も予約受付中です。

Img003