第1147回 アメリカの横暴と、大統領との関係について思うこと。

 バイデン氏が、第46代アメリカ合衆国大統領に就任した。78歳というのが過去最高齢ということは知っていたが、就任式で歩く姿を見て、お年寄りの雰囲気が漂いすぎていて、少し不安になった。年齢に関係なく元気で、頭も冴えて、適切な判断ができる人もいるだろうが、前任者のトランプ大統領が、あまりにもギラギラしていたからか、バイデン氏には、枯れた印象がつきまとう。
 極度の物質文明で世界をリードしてきたアメリカが枯れていくのは、物質文明が鎮まっていくことにつながりそうで、それはそれでいいのだが、現存するギラギラした輩(軍産複合体など)と、トランプ大統領のように張り合っていけるのだろうか?
 オバマ大統領は、口から出る言葉はノーベル平和賞が与えられるほどの穏健派だったが、実際は、戦争ばかりやっていた。それに対して、過激派のようなトランプ大統領の時代は、アメリカが発展途上国などを新兵器の見本市にすることはなかった。だから、トランプ大統領は、世界中の良識派以上に軍産複合体に嫌われていたことは間違いない。
 私たち日本人は、アメリカ大統領を選ぶ権利がないが、アメリカ大統領は、国際的に大きな影響力を持つので、関心は高い。その際、どうしても、その人の表面化する性格とか言動に意識がいってしまい、トランプが好ましいか、バイデンが好ましいか、という議論になってしまう。
 自分の国の政治家を選ぶ場合、ほとんどの人が、候補者の印象で投票してしまうのは仕方ないが、他国のリーダーを見る場合は、少し違う視点が必要だと思う。
 アメリカのリーダーに対する好感度と、日本や世界への悪影響が、リンクしているわけではないからだ。
 誰がアメリカ合衆国の大統領になろうが、国益を優先するのは当然のことで、アメリカという巨大な国が、その国益を優先した政策をとる時、世界は、大きな影響を被る。その最たるものが、発展途上国などを舞台にした内乱や戦争だ。アメリカは、言うまでもなく世界最大の武器製造国であり、作った武器は、使われなければ商売にならない。とくに新兵器は、実戦こそが、最新技術のお披露目になる。
 そして、現代のアメリカのニューディール政策は、公共事業よりも、海外での戦争だった。アメリカが、世界を不安定にすることで経済復興を遂げてきたのは、歴史を見れば明らかだ。リーマンショック後の経済危機の時だってそうだ。
 これまでのアメリカは、大義名分をふりかざして、けっして悪いことはしていないと饒舌に語りながら、それをやってきた。オバマ大統領のように、善人の顔をしながらそれを実行してきた(圧力に負けてさせられてきた?)。
 また、2001年の9.11のアフガン侵攻からはじまった長期の戦闘などが典型的だが、巨大なアメリカが一枚岩となり、国民の90%以上が大統領を支持するような偏った状況になると、戦争が止まらなくなる。
 そして、そうしたアメリカの戦争の深刻さはあまり伝えられず(それに反発するテロ行為の大々的な報道に比べて)、大衆メディアは、大統領の好印象を伝えながらアメリカの行為を正当化していく。これが、従来のアメリカのやり方だった。
 しかし、トランプ大統領になって、なんだか奇妙なことになった。
 対外戦争がなくなり、メディアは、トランプ大統領を敵にまわし、アメリカは一枚岩ではなく分断された。
 もちろんそれは、トランプが善人とか悪人とか、そういった表層的なことが原因でそうなったわけではない。ただ、もしかしたら、不動産が主戦場だったトランプにとってのニューディール政策は、対外戦争ではなく、国境に壁を築くといった時代遅れの公共事業だったからかもしれない。
 いずれしろ、トランプは、彼独特の性格ゆえか、陰で悪さをするのではなく、表立ってムチャブリをしていたので、誰もがアメリカを警戒をした。
 もし、トランプが、オバマ政権の時のような他国を舞台にした戦闘行為を行ったりしたら、世界中で一斉に非難の声があがったのではないか。「ああ、やっぱりやると思った、なんてヤツだ。」と。
 アメリカで、自分の利益を優先して悪どいことをやりたい輩は、トランプが過激すぎるので、こっそりと悪どいことをやりにくかったのではないだろうか。「しばらくは黙っていてくれ」と言えば、オバマは賢明に従っただろうが、トランプはすぐにツイッターで暴露してしまいそうで。
 それが、トランプの天然なのか、高度な戦略なのかわからないが、とにかく、アメリカの次の一手に対して、世界中が警戒していたことは間違いない。
 トランプというのは、アメリカの横暴を計るためのセンサーになっていた。そして、アメリカは、歴史をふりかえってみても、トランプでなくてもいつも横暴だった。強大な力を持っているのだから、その力を使いたくなるのは当然なことだ。
 問題は、それが、アメリカの正義として誤魔化されてしまうか、アメリカの非道として明らかになるかの違いだけ。
 バイデン大統領になったとたん、アメリカが、自国のことより世界のことを優先するようになるはずがない。それは、どの国の指導者だって同じ。
 温暖化問題への取り組みなどにしても、大統領1人の意思でなんとかなるはずはなく、産業界の意思としてそれができるかどうか。
 大統領が強硬な意思を持って、産業界その他の利益を損なってでも何かをやろうとすると、過去の歴史では、暗殺されてしまった。
 アメリカ大統領について、選挙権を持たない私たちが、自分だったら誰に好感を持ち、誰に投票するかといった視点で、論じない方がいいと思う。
 アメリカの影響を受けざるを得ない状況で、さらにアメリカの国益第一というスタンスがそんなに変わるはずがないとしたら、その悪事がわかりやすい状態であるというのも、警戒を怠らないようにするためには、決して悪いことではない。
 もちろん、それがベストだなんてまったく思わない。しかし、トランプよりも厄介なのは、メディアも一蓮托生となって好イメージだけをふりまき、あげくにノーベル平和賞まで受賞し、にもかかわらず、酷いことをたくさん行ってきたオバマ大統領のような存在なのだ。
 それは、オバマ大統領個人が悪人だからそうなるということではなく、アメリカの軍需産業を含む巨大な産業界にとって、誰が、脅かしやすくて動かしやすいかという違いによるものだと思う。
 トランプは、巨大メディアを敵視していた。その敵視の仕方は極端のようにも見えるが、本質的な部分でもある。巨大メディアの害は、日本でも同じだ。
 これまでのアメリカでも日本でも、あれだけ巨大メディアを敵にし続けて政権運営を行ってきたリーダーは、かつてなかったのではないか。
 トランプ大統領には、オバマやバイデンのような賢明さがない。そのクレイジーぶりが周りに危険な人物であるという印象を与える。
 しかし、暴力団などでも一番恐ろしいのは、凶暴さがはっきりと表に出ている者ではなく、賢明で、したたかで、周りに好印象を与えながら心が冷血動物のような輩だ。
 バイデン大統領がそうだとは思いたくないが、なにせ78歳であり、任期中に80歳を超える。エネルギーも気力もそんなに続かない可能性があり、バイデンが好印象をまわりに振りまいて表に立ち、誰か他の人物が陰で動くということもある。その輩が、したたかな冷血動物でないことを祈ろう。トランプ大統領の時のような、わかりやすさ、見えやすさが無くなるので、より警戒が必要だ。