第1150回 ジェンダー平等って? 

 帰宅した若い女性が「会社の先輩、産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけど、もうすっごいかわいくって。どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかってスローガン的にかかげてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」と笑う。

 さらに、「化粧水買っちゃったの。もうすっごいいいやつ。それにしても消費税高くなったよね。国の借金って減ってないよね?」と語った後、画面に「こいつ報ステみてるな」との文字が示される。

 このテレビ朝日の報道番組「報道ステーション」のCMが非難され、何が問題なのか色々と議論されている。

 それに対して、番組側は、「今回のWebCMは、幅広い世代の皆様に番組を身近に感じていただきたいという意図で制作しました」と謝罪文を掲載した。また、ジェンダーの問題について、「世界的に見ても立ち遅れが指摘される中、議論を超えて実践していく時代にあるという考えをお伝えしようとした」「意図をきちんとお伝えすることができませんでした」と釈明。

 つまり、この釈明でも、「産休あけて赤ちゃん連れて会社に出社することがジェンダー平等の実践」だと責任者が判断して、決裁が通ったから、CMが世の中に流れたということ。

 そして、「消費税が高い」、「国の借金が減ってない」と何となく感じている程度の意識を、報道ステーションを見ている人の証にしている。これまで報道ステーションをあまり見ていない人たちに、報道ステーションの内容を身近に感じてもらうための方法が、これだったわけだ。

 (あまりにも多くの非難を受けたので、このCM削除されているけれど、ネット上に残っているのを見た。あまりにもくだらないので呆れた。テレビ局が、この程度のCMで報道ステーションを見ようと思う人がいると考えていることに、さらに呆れた。「コイツ、報道ステーション見ているな」、というクレジットもひどいね。どういう神経なんだろ、コイツって。番組を身近に感じてもらおうという魂胆でお笑いタレントばかり起用しているスタンスと似たセンスだ。もう本当にどうしようもなく、テレビは終わったなという感じ。) https://www.youtube.com/watch?v=FBpCpdgX3Gg

 このCMを作った人たちも、この内容でオッケーとしたテレビ朝日の人たちも、自分たちに関わりのある報道ステーションや、似たような日本のニュース番組は見ているかもしれないが、もはや、ニュース情報が背負う役割が何なのか、わからなくなってしまっているし、世界に軸足を置いた時代感覚を持ち合わせておらず、日本国内の現象をちょっと知っているかどうかを時代感覚だと思っしまっているのだろう。

 数日前、アフリカのタンザニアで、スルフ・ハッサンが、初の女性大統領になったということを海外のニュースで知って、検索しても、日本のメディアはどこにも取り上げていない。もちろん、その日のテレビのニュースを見ていても、いっさい報道されない。

https://www.voanews.com/africa/samia-hassan-poised-become-tanzanias-first-woman-president

 日本のニュースソースって、その程度のもんだよなあと思っていた。

 そして、当然ながら、スルフ・ハッサンのことを知りたいと思っても、日本の情報ソースだと、まったくわからない。

 海外のニュースでは、この女性は、タンザニアの中では、イスラム系住民とアフリカ系住民の対立が激しく、もともとは別の国だったけれど60年ほど前にタンザニアと統合したザンジバル島の出身で、日本の女性議員に多いタレントとかスポーツ選手とか元総理の娘など知名度のある人ではなく、経済などの専門的な知識をもとに政治的実務の分野でも長年活躍していた人のよう。

 2018年には、エチオピアでも、サーレワーク・ゼウデが女性大統領になっている。この人も、大学を卒業後、外務省に入省し、駐フランス大使など外交官として活躍してきた人。母国語以外、英語もフランス語も堪能で、バリバリに実務能力がある人。

 タレント議員やスポーツ選手がダメということではないが、日本のように、女性の地位向上をアピールするために著名人の顔を並べるという大衆迎合のやり方ではなく、エチオピアタンザニアは、国の未来のために本当に必要な人材として、能力のある女性をリーダーにしている。

 アフリカの国々について、日本や西欧の人々は、遅れた地域と考えているが、そうではなく、長い植民地時代の西欧人による分断政策によって、アフリカ諸国は、国内内部での対立でボロボロにされていた。その対立を2度と繰り返さないために必死であり、たとえばルワンダでは、1994年の民族対立で10分の1が虐殺されたといわれており、憲法において、「国の指導的機関の地位のうち少なくとも30%を女性が占めるものとする」と規定した。その後、選挙では,国会議員に占める女性の割合が48.8%に上昇し,それまで長年1位であったスウェーデンを抜いて世界で女性議員割合の最も高い国となっている。

 男というのは、どうしても頭でっかちになって、観念的な大義、競争、対立構造の中でしか物事を考えられなくなる。もちろん、女性にもそういう性質がまったくないわけではないだろうが、観念よりも日々の生活の方が大切だと本能が知っている。

 女性のメンバーが増えると会議が長引きますよ、といった森元首相の台詞とか、太った女性タレントと豚で結ぶオリンピック開会式のブレスト会議とか、日本の政治、テレビ、コマーシャル業界というのは、なぜか非常に同じレベル、同じ質のところにあって、ものすごく遅れている。

 「何それ、時代遅れって感じ」と言っている報道ステーションが、本当の意味での時代感覚からどれだけ遅れているかを、自分のことをアピールするテレビコマーシャルで、あまりにも見事に証明している。

 きっと報道ステーションのニュースにおいても、ジェンダー平等というテーマだと、

赤ん坊を職場に連れてきている会社などを探してきて、それを紹介し、ジェンダー問題に詳しい人、に登場していただいて、ありきたりの言葉を添えて、こうした先進的な取り組みもあるようです、と伝える程度なのだろう。

 この型にはまった伝え方は、グルメ番組でも何でも同じ。事例紹介、そして詳しい人の言葉、まとめ。

 オリンピック開会式の案にしても、ブレストなんだからと擁護する輩は多い。そして、この報道ステーションのテレビコマーシャルにしても、たまたま作られたコマーシャルの内容が悪かったと制限付きで捉えようとする人もいる。

 しかし、ブレストであれ、こうしたコマーシャルであれ、当人たちが、どの程度の意識しかもっていないかを示している。

 アウトプットされたものが問題なのではなく、その意識の低さが大問題なのだ。

 オリンピックには莫大な人と、お金が動いている。つまり、意識の低い人間の判断によって、それらが動かされる。

 テレビ局は、総務省から独占的にライセンスを受けていて、影響力を駆使しやすい立場にいる。こうした間抜けなコマーシャルを作り、決裁が通ってしまうような組織が、ニュースを選別し、伝えているということ。選別されなかった大切な情報も膨大にあるわけで、けっきょく、それらの情報を大切だと思うかそうでないかを決める選別者によって、情報に偏りが生じるということ。

 まあ、ジェンダーのことはともかく、消費税高くなったよね。国の借金って減ってないよね? くらいの意識に合わせたニュースを届けておけばいいというテレビのニュース番組なんか、観る必要がない。ネットニュースだと、1分で確認できる内容を、どれだけ時間かけているんだよ、という形でしかテレビは伝えないのだから。

 

 

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