第1374回 始原のコスモロジー

 年に一冊を目標に制作している日本の古層シリーズ、昨年までに3冊作ってきて、今年は4冊目だけれど、今回は、2016年10月から始めたこのプロジェクトの集大成。

 「始原のコスモロジー」というテーマに凝縮させている。

 この一年の間に、ブログなどでも膨大な取材記事を書いてきたけれど、それらはあくまでもメモで、ワインでいうならば収穫したブドウにすぎず、そのブドウを熟成させてワインにしなければいけない。この数ヶ月ずっとその熟成を行って、量でいえば収穫したブドウの10分の1にも満たないけれど、ぐっと凝縮した濃厚なワインになりつつあるという手応えがある。

 目標とするところは、情報提供ではなく、これ自体が一つの神話的空間になること。

 今年は、毎月、東京と京都でワークショップセミナーを行っていて、毎回、5時間以上かけ、そのための資料も毎回100ページ以上作ることを自分に課してきた。この機会があることで、かなり熟成が進んだように思う。

 熟成させるためには、全体の隅々まで自分の意識が行き渡らなければならない。だからワークショップセミナーも、全体を幾つかのパートに分けて1回ごとに部分を積み重ねていくという学校やカルチャーセンターのようなことはやらず、常に「全体像」を見せるという方法をとってきた。

 意識しなければいけないのは、常に全体の中の部分であるということ。部分の積み重ねが全体なのではなく、最初に全体ありき。

 現在は、この全体が非常に見えにくい時代であり、全体に対する解釈と理解が正しいか間違っているかは二の次で、まずはその全体について、それぞれが、それぞれの視点で認識したうえで、議論を始める必要があると思う。

 部分に限定した分析や議論は簡単なことで、そういうことはAIの方が得意だ。そして、部分の分析ばかり積み重ねたところで、けっきょく、その部分をさらに細かく部分に分けていくばかりで、全体像からは、ますます遠ざかってしまう。

 「部分について詳しい」ことは、 AIに任せて、人間は、その全体をどうするかを、しっかりと議論していかなければならないと思う。

 たとえば、古事記には様々な神話が描かれている。

 イザナミの死、アマテラス大神の天岩戸隠れ、スサノオの八岐大蛇退治、国譲りの神話、神武天皇の東征、第10代崇神天皇の時代の大物主の祟り、第11代垂仁天皇の時代のホムツワケの物語、そしてヤマトタケルの英雄物語など。

 これらは、過去に起きたことを時系列的に伝えているのではなく、同じ頃の状況を、様々な角度から描いている。

 それは、神話時代から王権秩序の時代への移行期に起きた社会の変化、祭事の変化、価値観の変化などである。

 この神話時代から王権秩序への変化は、今から約1500年ほど前に起きた。この時代に即位したのが、事実上の初代天皇とされる第26代継体天皇だ。

 神話のなかで初代神武天皇とされる「神武天皇」という名は、奈良時代後半、淡海三船が名付けたもので、正式には、「イワレビコ」であり、イワレというのは、継体天皇が、奈良に入った後に築いた宮、磐余宮と同じである。

 神武天皇には、ハツクニシラススメラノミコトという美称もあるが、「シラス」というのは、タケミカヅチオオクニヌシに対して国譲りを説得した時の言葉であり、強いものが全てを独占する「ウシハク」から、新しい知恵が技術を皆で共有する状態である「シラス」へ移行した状態が「国譲り」である。

 ハツクニシラススメラノミコトというのは、その状態を、はじめて実現した帝という意味。

 さらに、神武天皇は、「ヒコホホデミ」の別名があり、これは、山幸彦のことである。

 山幸彦というのは、コノハナサクヤヒメという南九州の海人族の血を受け継ぎながら、豊玉姫という綿津見系の海人族の娘と結ばれ、つまり二つの海人勢力とつながった存在であるということ。

 古代において、日本を一つにまとめるために、この二つの海人勢力とつながることが重要だった。

 初代の天皇は、それを実現した。それは、継体天皇のことである。



 まもなく完成する「始原のコスモロジー」日本の古層 VOL.4では、そのあたりのことを掘り下げて、教養的にではなく、神話的に伝えられるように、編集している。

 今週末、10月14日(土)、15日(日)に、東京で、その辺りのことも含めたワークショップセミナーを開催します。

 日曜は満席ですが、土曜日は、まだ若干、席があります。

 

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ワークショップセミナーの第11回目を、 10月14日(土)、10月15日(日)の両日(それぞれ1日で完結)、東京にて、午後12時半〜午後5時にかけて行います。 

 詳細、ご参加のお申し込みは、こちらをご覧ください。 

 

https://www.kazetabi.jp/%E9%A2%A8%E5%A4%A9%E5%A1%BE-%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%97-%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC/

 

両日とも、10名限定。

場所:かぜたび舎(東京)

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ピンホールカメラで向き合う日本の古層。Sacred world Vol.1,2,3 販売中 https://www.kazetabi.jp/