第1386回 AIが、クラウドサービスを通じて企業内情報を学習していくことで起きること。

 驚くべき速さで、オープンAIに動きがあった。

 昨日の投稿で、CEOを解任されたアルトマン氏と、理事会(企業の取締役会に相当)のあいだに起きた軋轢について書いたが、マイクロソフトが素早く介入し、アルトマン氏と、オープンAIの社員を丸ごと吸収する動きに出た結果、オープンAIという非営利集団のなかで、AIの開発の動きを注視し、AIが人類にとって安全なものであるよう牽制する役目を果たしていた旧理事会のメンバーは退陣することになって、アルトマン氏が、オープンAIのCEOに復活することになった。

 そして、理事会(取締役会)の新しいメンバーが発表された。

 ラリー・サマーズ元米財務長官と、米セールスフォース元共同CEOのブレット・テイラー氏だ。

 米セールスフォース及び、ブレット・テイラーの仕事領域は、ビジネス管理の分野。そして、経済学者のラリー・サマーズ。彼らのガバナンスは、AIを人類にとって安全なものにするための牽制というより、AIを、いかに経済分野やビジネス分野を効率化するために発展させるかという部分に向けられる気がする。

 彼らは、AI技術のマネタイズ化を積極的に行うだろうから、昨日書いたように、オープンAIの株式の価値は巨大化し、株を所有している社員も万歳ということになる。

 こういう決着になることは、人類史を振り返っても明らかだったが、かつての技術革新と、AIは、同じようにいかないかもしれない。

 かつての技術革新は、人間の驕りによって、人間以外のものを侵す速度を加速させたが、AIが、人間の驕りのまま使われると、その刃は、人間に対して向けられる可能性がある。

 オープンAIの舵取りが、新しい理事会によって、今後どうなっていくのか、細心の注意が必要だ。AIを使っているつもりで、AIに管理されてしまわないように。 

 米セールスフォースとオープンAIのアルトマン氏は、とても仲が良いビジネスパートナーだが、当社の顧客関係管理ソリューションを中心としたクラウドコンピューティング・サービスが、AIによってさらに強化されると、世界中の多くの企業が導入していくだろう。

 そして、人類の大半は、フリーランサーではなく企業組織に所属しているので、AIによって管理されるセールスフォースのシステムに組み込まれていくことになる。 まだしもSNSであれば、自分の意思で使うかどうか選択可能だが、企業が業務効率のために導入するということになれば、社員は拒めない。わかっていても、どうにもならない状況のなかで、少しずつ侵されていく可能性がある。

 アルトマンと懇意のセールスフォース関係者が、オープンAIの取締役になれば、企業向けのビジネス支援のクラウドサービスで企業を拡大させてきたセールスフォースは、彼らのサービスを、AIによって強化させることを、これまで以上に行うことだろう。

 そして、今回の騒動で素早く手を打ったマイクロソフトも、結果的にオープンAIを丸ごと吸収できなかったけれど、オープンAIに巨額の投資を行っており、AIのビジネス利用に対して足枷になりかねなかったオープンAIの旧取締役陣がいなくなったことで、今後、支障なくAI技術を自社のために使えそうな状況に落ち着いた。このマイクロソフトも、今ではウィンドウズビジネスではなく、ビジネス環境におけるクラウドが、主力だ。

 チャットGPTは、ネット上に無限に溢れる情報をAIが学習していくわけだが、企業が使用するクラウドでAIが役割を果たしていくようになっていくとどうなるのか?

 社員は、そのクラウドの中で情報を共有し合い、問題解決のためのディスカッションを行うだろう。私は、企業に属していないために、クラウド環境を使う社員のリアリティがわからないのだが、いずれにしろ、AIは、社内を行き交う情報を学習していくことになるのだろう。そして、チャットGPTのように、社員は、クラウドのAIから適切な答えを得ようとする。しかし、そのプロセスは、AIが、さらに学習を深めていくプロセスになっていく。

 その結果どうなるのかというと、おそらく、企業内のホワイトカラーの大半は、不要になるのではないか。

 こうしたAIと結びついたクラウドサービスを、マイクロソフトや、セールスフォースは、積極的に販売していくことは、簡単に予測できる。

 このクラウドサービスの導入を検討する企業は、人類の未来よりも、自社の未来を第一に考えざるを得ないから、人件費が抑えられて、さらに社員教育も必要なく、ベテラン社員のような知恵と情報を持つAIが存在するのだから、躊躇なく導入する。倫理的に躊躇っても、けっきょく競争社会のなかで導入しないと自分が滅びるしかない。

 ネット環境の中だけでなく、ビジネス環境のなかで、一般には開示されていなかった情報知識を、AIが学習していく。

 私は、今後、企業のホワイトカラーとして働くことは100%ないと思うが、これから就職を考えたり、現在、ホワイトカラーとして働いている人は、今回のオープンAIの騒動を、他人事にしていてはいけないような気がする。

 

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