セバスチャン・サルガドの新作「GENESIS」

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 セバスチャン・サルガドの新しい写真集「GENESIS」は、驚くべき写真集だ。まずはそのボリュームに圧倒される。サイズが巨大 (7.6 x 25.4 x 38.1 cm)で、517ページもあるのだが、よくもまあ、これだけのものを、この価格で販売できるものだ。日本国内向けの出版物だと無理で、英語版で全世界に販売できるから可能なのだろう。と思っていたら世界限定2500部。安藤忠雄がデザインしたブックスタンド付きは500部限定で、価格は二冊で100万円以上の値がついている。http://tsite.jp/daikanyama/ec/tsutaya/products/30950/

 まあ写真の素晴らしさを堪能するのなら、安藤忠雄のブックスタンドなど必要なく、この廉価版で十分だ。

 しかし、恵比寿の写真美術館の書店では、11000円くらいで販売されていたのだが、なぜかアマゾンで買うと、6782円。これだけ差額があるのでちょっと心配したけれど、アマゾンから無事に届いて中身も問題なかった。

 サルガドは、自分の足、セスナ、船、カヌー、気球などを駆使し、地球の秘境辺境を訪れ、た撮影旅行は32回を越え、極限の暑さや寒さなどの危険な状況もあるなか、8年をかけてこのプロジェクトを実現した。極北から熱帯に至る山、砂漠、河川、海などの自然風景、ガラパゴス諸島やアフリカなどの様々な生物、パプアニューギニアやアマゾン流域などで現代文明と隔絶されて生きる人々など、「GENESIS」というテーマのとおり、現在の創世神話を写真によって表現している。
 構図とか表現スタイルが、オーソドックスな為、実験写真の類を楽しんでいる人達からは、形式が古いなどと馬鹿げた意見を述べる者もいるが、古いとか新しいという分別などどうでもよく、ある種の衝撃で観る側の心を貫くものは、その人にとって新しい出会いであることは間違いない。
 「GENESIS」の中の一部の写真は、2005年4月に発行した風の旅人13号で、20ページほどを割いて大々的に紹介した。同じ時期にフランスのPARIS MATCHという雑誌が4ページほどで紹介していたが、世界中で、この二誌だけだったと思う。
 プロジェクトを開始して、まだ2、3年くらいの時だったが、ガラパゴス諸島や、中部アフリカのマウンテンゴリラの撮影はすませており、原始的な暮らしをしている人間を撮る為にパプアニューギニアに行くということだった。

 サルガドは、「Workers(=労働者)」や「Migrations(=移民)」などGENESIS以前の長期プロジェクトにおいて、どんな環境下でも気高く生きている人間の姿を伝えてきた。そうすることで、かけがえない人間の命を厳粛に示してきた。
 そして、GENESISでは、人間という枠組みを超えて、地球そのものの気高さと、かけがえのなさを伝えながら、その地球と一体化して生きる人間の美しさを、我々の瞳に焼き付ける。

 それにしても、サルガドが撮ると、なにゆえに地球上の全ての営みが、これほど気高く、厳粛になるのだろう。
 全てのカットが、まるで神の眼差しのように思えてくる。
 時には地球を上空から眺め、時には、生物のすぐ傍で、その息づかいに耳を傾ける。そこにサルガドという写真家が存在している気配はない。あるのはただ、大いなる慈愛がこめられた眼差し。
 彼の写真を見る者は、その眼差しと自分の眼差しが重なり、風景を見ているというより、風景とともにあることを感じさせられる。

 この写真集、500ページ以上の中に莫大な数の写真が収められているのだが、どの写真を取り出しても心を鷲掴みにする力がある。一枚の傑作写真を撮るだけでも大変なのに、よくもまあこれだけのものが撮れるものだと、心から感服する。



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