出版不況と、シンギュラリティ

Pn2015012601001493ci0002 http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20150126000042

 出版不況ということが言われて久しいけれど、昨日の京都新聞に出ていたこのグラフを見たらわかるように、取り次ぎ流通を通すこれまでの出版流通の方法だと、もはや立ち行かないということが明らかに思われる。

 ピークが19年前の2兆6564億円で、今は、1兆6065億円に届きそうなところ、そうすると、このままのペースでいくと、あと10年後には、1兆円を割ってしまうだろう。
 19年前に比べて、現在は60%しかなくて、10年後には、ピークの3分の1になってしまうかもしれない。この19年で、メールが発達して編集者の仕事量は減り、デジタル技術によって制作コストも削減できているので、出版不況と言われているものの、これまでのところ、この数字の落ち込みほどは収益構造は落ちていないだろう。出版社の社員の給与も、ここまでは下がっていないだろう。(リストラはあるけれど)
 しかし、これだけ規模が縮小してくると、流通制度がダメージを受けて、書店などの倒産も増えて販売力がさらに落ちるから、今後は、もっと落ち込んでしまうのかもしれない。さらに、ある程度のボリュームがあることで広告媒体として認められるところもあるので、これ以上落ち込んでいくと、広告収入が激減することも間違いないと思う。
 それにしても、このグラフを見ると、きれいに右肩下がりなことが不思議だなあと思う。その間に、村上春樹の新刊が出るとか、それなりにヒット作品が出た筈なのに、トータルに見ると、毎年、規則正しく下がっており、たまに飛び抜けていい年とか悪い年というものがない。だからよけいに、未来の姿が透けて見えてしまう。
 ヒット作品というものが、決して業界の活性化につながっていないということだ。メディアなどで大きく取り上げられてそれなりに活性化しているように感じられても、けっきょく色々な賞を設定したり、話題性を作ったとしても、その効果で売れるというよりも、各書店が一斉に同じ商品を店の一番目立つところに陳列して、その結果、その本の売り上げが増えているだけで、その分、他の本が売れないという結果になる。だから、話題の本が出ても、全体としては、きれいに右肩下がりになるのだろう。
 といって、紙の本そのものが無くなるとは思えない。デジタルツールにしかできないこともあるだろうし、そうでないこともある。全てのことを紙の本や雑誌で伝える時代が終わりを迎えつつあるということで、紙の媒体でなくてはならないものの選別が、促されていくことになるのだと思う。
 ただ一つ問題なのは、ある程度のボリュームを前提にして流通制度は維持されているということ。工場や飛行機の座席やホテルなどもそうだろうが、稼働率が低下すると、生産数の低下率よりも遥かに大きく収益率が低下する。
 つまり、従来の生産方法や流通方法ではできなくなるということだ。
 紙の本がなくなるわけではないが、一つのシステムは間違いなく終わることになる。
 そうすると、そのシステムがあることで成立していた役割や、慣習や、暗黙知までもが時代遅れになり、新しいものへと移行していくことになる。
 普遍的な価値観だと思っていたものが、一つのシステムの中の馴れ合いにすぎなかったということもあるのだ。
 世界の状態が変われば、それに添ったシステムが次第に作られるようになり、それとともいに、そのシステムに相応しいやり方、ものの見方が整えられ、馴れていくのだろう。
 今は、その移行期であることは間違いないが、この出版業のグラフの平均的な落ち込みのラインが、このままダラダラと続くわけではなく、どこかに臨界点があるだろうと思う。 
 近年、2045年のシンギュラリティ(技術的特異点)のことが、時々、話題になる。人工知能などのコンピューター技術がこのまま発達していって、ある時点で、完全に人間の力を超えてしまう時が来て、そこから先は、それまでの価値世界とまったく異なる世界が展開するのだと。
 これは何も技術にかぎらず、一つのシステムが別のシステムに転換する時に必ず起こっていることだ。宗教の時代から近代化の時代への移行期でも、途中までは、いろいろな抵抗や衝突がありながら徐々に進み、ある時点から先は一挙にそれ一色に染まるというように変化している。
 特異点から先は、特異点のこちら側にある情報を分析したり経験を踏まえても判断がつかない世界だ。何が正しいかなんて、今の時点では、誰も的確に読めない。
 だから確かなことはただ一つ。何が起こっても動じないという身辺の準備をしておくことだけかもしれない。いずれにしろ、生命は生老病死、生者必滅が常なので、恬淡無碍という境地に至れる意識回路を、日々の生活の中で作り上げていくしかないかな。

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