第1250回 自然放射線と、古代の聖域

 

付知峡(岐阜県中津川市付知町


 環境省のホームページで、日本地質学会に
よる大地の自然放射線量の地図が紹介されている。

 原発事故で放射線のことが大きな問題になったが、われわれの身の回りには、もともと宇宙線や大地などに由来する放射線があり、その自然放射線量は、場所によって大きく異なっている。

 その自然放射線量は、地下のウランとトリウムとカリウムの濃度から計算によって求めることが可能なのだという。

 古代には、こうした地図は存在していなかった

と思われるが、この地図を見ていて不思議なのは、日本の主な聖地と、自放射線量の強いところと重なっていることだ。

自然放射線マップ(日本地質学会)

 生駒山地島根県の出雲、安芸の宮島、丹後の竹野川下流域、丹後の籠神社周辺(天橋立)、諏訪、愛媛の大山祇神社周辺、糸魚川から松本に至るところ、そして特に岐阜県放射線量が高い。

フォッサマグナ糸魚川・静岡構造線と、中央構造線が交差する場所にある諏訪湖。この一帯も、自然放射線量が多い

 岐阜県は、花崗岩の大地が広がっており、木曽川などは白い石がゴロゴロしている河原が続く。

 浦島太郎の伝承地である寝覚めの床も、花崗岩の大地が木曽川に削り取られた場所だが、ここは、地中から二酸化炭素もブクブクと発生している。

寝覚めの床(長野県木曽郡上松町

 岐阜というのは、歴史の表舞台には出ていないが、とても不思議なところで、たとえば縄文時代の祭祀道具である石棒は、日本でもっとも多く出土している。

 石棒は、主に関東から東北、北海道にかけて多く発見されている縄文時代の祭祀道具で、西日本には、あまり存在しないが、地理的に東西の境界の岐阜で、非常に多く見られるのだ。

 日本アルプスを源流とする水が、岐阜県を流れる木曽川長良川などの巨大河川を通って伊勢湾へと流れ込むが、現在の濃尾平野は、古代は陸路で移動できるようなところではなく、水運が欠かせなかった。

 日本の東と西のあいだを移動するうえでも、水上交通に頼らざるを得なかったが、ここを拠点としたのが尾張氏で、前回のエントリーの浦嶋太郎の件でも触れたが、京丹後の海部氏と同族だった。

 この豊かな水と岩が、岐阜県の風景の特徴だが、それにくわえて目に見えない自然放射線量が、人間にどんな影響を与えてきたのか。

龍神の滝(岐阜県中津川市川上)

 ちなみに放射線と聞くと、原発事故のことが頭を横切って不安になるが、原発事故の放射線の問題は、内部被曝だ。放射性物質がミクロの粉塵などを通して体内に取り込まれると、その場所から放出され続ける放射線が細胞にダメージを与え続ける。

 しかし、ラドンなど水に溶け込んだり気体化した状態に含まれる放射線は体内にとどまらず抜けていくのだという。そうでなければ「ラジウム温泉」は閉鎖しなければいけない。古代から、ラジウム温泉は身体に良い効果があると知られていたわけで、理由はよくわからないが、体内に止まらず通過していく放射線は、身体に良いエネルギーを与えるのではないか。

 だとすると、地中深くから生じている自然放射線は、身体に良いのかもしれず、自然放射線が強いところに聖地が重なっている理由も、そのためかもしれない。実際に、現在においても敏感な人は、そういうところに足を運ぶと、癒されたり気分がよくなる。

 癒しの島で人気のある屋久島も島全体が花崗岩だが、身体に具合の悪い人が島に滞在し、本当に病気が治ってしまったという話も聞く。

 アメリカの先住民の聖地も、ウラン鉱脈などがあるところが多く、おそらく自然放射線が強いと思われる。

 そのアメリカ先住民が伝えてきた教えは、地面を掘ると災いが起きるということだった。

 実際に、近代になってウランの採掘のために地面を掘り起こして、放射線の問題が発生した。

 つまり地中深くにウランがある場合は、身体に良い作用があるが、掘り起こして粉塵とともに放射性物質が地上に出てくると、災いが起きるということを、先住民は知っていたのだ。

 ちなみに、京都で一番自然放射線量が強いのは、比叡山大文字山の間だが、この両山は、天台宗の山門派(比叡山延暦寺)と寺門派(三井寺)の拠点であり、麓には、白川温泉郷という関西随一を誇るラジウム温泉がある。

 この比叡山大文字山のあいだが、祇園のところで鴨川に合流する白川の源流で、花崗岩の大地を削って流れるために白い砂が運ばれる。この白い砂が、中世、銀閣寺などの石庭に使われていた。

 中世の石庭は、視覚的にも「宇宙」を象徴しているが、白川の砂を通して、水の循環だけでなく、放射線という宇宙由来のエネルギー循環が組み込まれている。

 地球は厚い空気に包まれ、その空気が、銀河系や太陽などから降り注ぐ放射線量を抑え込んでいるが、大気の外は、放射線という強力なエネルギーが充満している。

 環境問題で必ず出てくるのが、二酸化炭素の排出の問題で、近年では、牛のゲップに含まれているメタンガスが目の敵にされている。

 そうした警鐘が、ゆきすぎた文明的生活の抑制につながるのならばいいのだが、自動車などで、ハイブリッドカーすら認めないという偏狭で一面的な強硬論には、逆に恐ろしさや不安を感じる。

 だって、今でもアメリカや欧州などで大停電が起きたり、日本でも政府から節電の呼びかけが頻繁に出る状況で、全てが電気自動車などになったら、一体どうなってしまうのか。タービンを回して電気を作るための仕組みじたい、エネルギーロスが前提になっており、石油を電気に変えるより、石油をそのまま使った方が、エネルギー効率は良いはずだ。

 気候変動について温室ガスのことばかりが声高に叫ばれるが、気候変動は、実際には偏西風の影響を受けている。

 偏西風の仕組みについて完全に解明されているわけではないが、地球の回転と、熱帯地方と極地方の温度差で生じると説明されることが多い。しかし、それだと、偏西風が高度とともに強くなり、ジェット気流とよばれる帯を形成している理由がうまく説明できない。

 高度が高いということは、空気が薄いということで、空気が薄いということは、大気の外の強い放射線の影響を強く受けるということでもある。

 だとすると、太陽から放出される太陽風(陽子)や、銀河から飛び込んでくる宇宙線(電子)の量が変われば、偏西風も影響を受ける可能性があるのではないか。

 宇宙レベルで見れば、地球上の大気の層や地殻など、あまりにも薄い。

 宇宙と地球内部のあい

だには、その薄い層があるだけで、宇宙のエネルギーは、両方のあいだを、あたりまえのように循環しているのではないか。

 理論では解明できなくても、古代人は、肌でそのことを感じていたのだろう。

 だからこそ、それを敏感に感じられるところを聖域にしたのではないかと思う。

 

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ピンホール写真で旅する日本の聖域。

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