第1393回 日本の大地と聖域について

 日本は山国であることを誰でも知っているし、東京23区に住んでいる人以外は、日々、それを実感している。

 しかし、なぜ日本が山国なのかという理由を考えることは、あまりない。

 一般的には、日本が火山国だからと思っている人が多いのだが、たとえば近畿には火山が一つもないが、盆地以外は山ばかりだし、吉野から熊野に至っては険しい山岳地帯が広がる。

 四国もまた険しい2000mクラスの山が南北を分けているけれど、火山は一つもない。

 日本の背骨と言われる南アルプスも火山が一つもなく、花崗岩の山脈だ。

 日本の大地の大半は、日本列島ができた1500万年前より前の時代のもの。

 現在の日本がユーラシア大陸の東端に位置していた時、太平洋側からプレートが押し付けられて、海底だったところが隆起してチャートなどの堆積岩が地表に出たり、地面の深いところから冷えたマグマが隆起して花崗岩などの深成岩が地表に出たり、その後、約1億年から約6000万年前くらいの恐竜時代の地球の激しい活動期や、1500万年前、日本列島ができる際の大地のエネルギーで流れ出たマグマが地表を覆ったりして、日本の大地の大半ができた。

 富士山などの代表的火山は、そのようにして日本列島ができた後に、太平洋側から押し付けてくるプレートのエネルギーで誕生したのだが、同時に、1億年以上前に遡る超古代の日本の大地も、日本列島ができた後も続く地殻変動で隆起し続けており、それらが盆地の周りの山々や、海岸線近くまで迫る六甲山のような山々になっている。

 なので、日本の地方を探訪して、それらの山中に入ると、日本列島ができる前の山塊ということになる。しかし、その地表は、森林や腐葉土で覆われているので、そのことを実感できない。

 それでも河川沿いでは、川に削られたところや滝などで、超古代の大地が剥き出しになっていることがわかる。

 私は、そういう所から石ころを拾ってくるのが好きで、それらの石ころの多種多様さから、日本の大地の多種多様さが伝わってくる。この感覚は、石灰岩の大地で厚く覆われている欧州とは、かなり様相が異なる。(古代ギリシャなど、建物や彫刻に多く使われて大理石は、結晶石灰岩。)。

 とくに岐阜という場所の面白さは、地理的には日本列島の真ん中に位置するのだが、超古代の大地の活動の痕跡が、生々しく残っているところにある。

 大地としても日本列島で最も古い岐阜の北部は、数億年前に、太平洋プレートが大陸プレートの下の何度も潜り込んで熱変成を受けた大地で、南部は、同じく数億年前に、太平洋の遥か彼方の深海に蓄積したプランクトンの死骸などが化石化したチャートなど堆積岩で覆われている。

 さらに、その大地を、8000万年前から6000万年前の恐竜時代に、想像を絶する規模の火山活動が長期間続いて、噴出した溶岩が埋め尽くした領域が広がっている(濃飛流紋岩)。飛騨地方に残る奇怪な形をした磐座は、この濃飛流紋岩が、その後の雨風の風化作用を受けたもので、古代人の手による人工物のように見えるものもある。

 濃飛流紋岩以前の岩盤は、硬すぎて、風化の影響で磐座のようにはならないけれど、河川が削り続けることで、飛水峡のような、荒々しい別世界の光景を作り出す。

 岐阜の大地が特徴的な理由は、日本を代表する木曽川長良川など巨大な河川が数多く流れていることも大きな要因で、川に削られることで、古代の様相が剥き出しになる。

 岐阜という場所は、「美濃を制するものは天下を制す」と言われるほど古代から重要地で、長く安定した江戸時代の前の関ヶ原の戦いや、奈良の律令制の前の壬申の乱などでも、大きな位置を占めた。

 源頼朝の母の由良御前は、熱田神宮の大宮司の娘だが、織田信長豊臣秀吉徳川家康といった天下を取った武将の出身地が、みんな日本列島の真中のこの地域なのは偶然なのか、何かしらの必然があるのか。

 古代においても、第26代継体天皇の最初の妃は尾張氏で、尾張氏の水軍力が、継体天皇を支えたし、天武天皇もまた、壬申の乱の際には、吉野から東国に移って尾張氏の支援を受けたことが、戦いの勝利への大きな道筋になった。

 天皇の正統性を示す三種の神器は、玉と鏡と、草彅剣だけれど、宮中にある玉と鏡は、とりあえず本物とされているが、草彅剣にいたっては、宮中には形代(コピー)が置かれており、真剣の方は、愛知の熱田神宮で護られていることになっている。

 今回、制作した「始原のコスモロジー」は、あくまでも日本人の世界観とか人生観の底流にあるものを浮かび上がらせることが目的で、謎解きをメインとしているわけではないけれど、このあたりの謎についても、深堀をしています。

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始原のコスモロジー 日本の古層Vol.4の納品日が決まりました。

12月15日(金)です。

現在、ホームページで、お申し込みの受付を行っています。

本の発行に合わせて、12月16日(土)、17日(日)、東京の事務所で、第13回目のワークショップ セミナーを行います。

 

www.kazetabi.jp

また、本の発行に合わせて、12月16日(土)、17日(日)、東京にて、ワークショップセミナーを行います。こちらも、詳しくは、ホームページにて。

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