第1325回 鬼伝承の地と、鉱物資源と、交通の要衝。

岐阜県瑞浪市の鬼岩。ここは木曽川支流の可児川の源流に近く、巨岩群の中を、清冽な水が勢いよく流れている。

 この地は日本有数のラジウム温泉の場所で、すぐ近くに、日本最大のウラン鉱脈がある。

 鬼岩から5kmのところには、高レベル放射性廃棄物の処分のための研究施設、瑞浪超深地層研究所があったが、ここは、輸入ウランに価格競争で負けて廃坑になった日本最大のウラン鉱だった。その鉱山の坑道を放射性物質の処理にかかわる基礎実験施設として利用し、おもに岩盤中の物質移動に関する研究などに活用されてきたが、2004年3月に終了し、埋め戻されることとなり、2021年にその作業も終了した。

 しかし皮肉なことに、この瑞浪のウラン地帯は、リニアモーターカーのトンネル区間でもあり、その路線は、ウラン鉱床そのものは回避しているようだが、ウランが蓄積されやすい地層は避けようがないため、トンネル工事で発生する残土の放射能分析は行われている。


 そして、この怪しい地に、鬼伝説が伝えられている。刀工で有名な岐阜県関市から追われるようにやってきた太郎という男が、この巨岩群のなかに潜み、人々に悪さをしたため、恐れられ、討伐されたという伝承。

 この美濃の鬼退治は、一般的にはあまり知られていないが、有名な吉備の鬼退治や丹波の鬼退治と共通のポイントがある。

 一つは、「鉄」と関わりがあること。二つ目が、吉備は山陽道、丹後は山陰道、そして、瑞浪東山道沿いで、それぞれ、日本列島の西、北、東に向かう大動脈上であることだ。

 また庄内川の流域は、多治見とか瀬戸とか、古代から日本有数の陶器の生産地で、鬼退治の舞台の備前丹波とともに日本六古窯である。

 鉄の生産には、高温に耐えうる窯を作る技術も必要だから、良質な粘土や水を必要とする陶器の産地と重なっているのだろうか。

 そうすると、鬼とは一体何なのか?

 岐阜県瑞浪の鬼は「太郎」という個人になっているが、おそらく集団だろう。一般的に、鍛治職人は、強い火の前で作業をするので顔が焼けたように赤くなるとか、火を片目で凝視し続けるため片目が潰れていることが多いなどの理由で、鍛治職人のことを鬼とみなす説が知られている。

 しかし、私は、鍛治も含まれるかもしれないが、窯技術も含めて新しい技術を持った渡来系の人々が関係しているのではないかと思う。

 というのは、たとえば岡山の鬼は温羅(うら)と呼ばれるが、これは、当初は、人々に恩恵を与えて慕われていたと記録されており、丹波の鬼退治では、当麻皇子が退治した鬼の中に「胡」と称する鬼がいた。

 中国において三国志の時代の後、五胡16国の時代があるが、漢民族から見た北方の異民族が「胡」であり、特に、鮮卑族を指している。

 しかし、気になることが一つある。

 日本におけるウラン鉱脈は、岐阜県瑞浪と、鳥取と岡山の県境の人形峠の二箇所だが、人形峠のある苫田郡鏡野町には、こんな伝承も残っている。

「農家に二〇歳過ぎの娘がいたが、ぼんやり病で寝込んでしまって、なかなか癒らない。

 両親が不思議に思って問い糺すと、娘のいうには、毎晩夢うつつのうちに、鉄山の役人という一人の男がやって来て、一緒に寝るのだというのであった。

 その後、数か月たって娘は、変なものを産んだ。それは、牙が二本長く生え、尻尾も角も、ちゃんと生えていて、紛れもなく牛の化物といったものなのである。村の衆は、これは鬼の仕業だと思った。」『鏡野町史 民俗編』より。

  アメリカ先住民の聖地は、ウラン鉱脈のあるところに多いが、長老たちの語る口承で、「地面を掘り起こすと災いが起こる」と伝えられてきた。

 ウランの埋蔵量が豊かなところは、日本でもそうだがラジウム温泉などがある。ラジウムと接することで放射性を持った大気であるラドンは、気体の状態とか水に溶け込んだ状態ならば身体にも良い影響を与えるので、古代から湯治に活用されてきた。

 しかし、地面を掘り起こしてウランそのものが外に出てしまうと、その粉塵などから生じる放射能が、生物にとって有害になる。東北大震災の原発事故でも問題になった内部被曝が起きる。

 古代人が、ウランそのものを採掘していたかどうかはわからないが、人形峠苫田郡は、たたら製鉄が長く行われてきたところであり、鏡野町史において、牛鬼を産んだ娘が「鉄山の役人」とまじわったとの記述もあるとおり、砂鉄や鉄鉱石など鉄資源の採掘が行われ、その時に掘り起こされた結果として、ウランの放射能被害が出た可能性はないだろうか?

 もちろん、実証はできないが、神話は、一度起きたことの記録ではなく、その場所が、歴史上何かしらの役割を果たす時、いくつかの記憶が重ね合わせられて創造される。

 日本においてウラン鉱脈のある代表的な二つの場所、岡山・鳥取の県境の人形峠岐阜県瑞浪に鬼伝承があるのは、偶然なのか、それとも必然なのだろうか?

 5月20日(土)、21日(日)に京都で行う「日本を深く掘り下げるためのワークショップセミナー」では、「鬼」についての洞察も、重要なテーマになっています。(2日に分けてではなく、同じ内容を両日とも行います)。

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